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第190話 荒れ狂う怒りの風

 ”嵐”の三狐のうちの一体。

 ”サンダーボルト”を司るライコが倒れた。

 そのライコを心配してか、フウビとスイゲツがライコの元へ駆け寄る。


 ライコにトドメを刺した日影も、仲間たちの元へと戻ってきた。


「やってやったぜ、大金星だ!」


「ナイス、ヒカゲ! これからはボクの代わりに素手の戦闘も担当してくれたら嬉しいんだけどなー」


「ふざけんな働け」


「そんなぁ……」


『よし、よくやったねみんな。先ほどは三体を相手にあれだけうことができたんだから、ここからの戦闘はグッと楽になるはずだ』


 五人の耳に装着した通信機から、狭山の声が聞こえる。彼の言う通り、この調子で行けばフウビとスイゲツも討伐できるだろう。


 ライコが倒れたことにより、空の雷は鳴りやんだ。

 今は雨と風が吹き荒れている。


「……あ! そういえば本堂さん、腕は大丈夫ですか!? 私を庇って、ライコの電撃を受け止めてましたけど……」


 北園が本堂に声をかける。

 しかし、本堂はいたって平気そうだ。


「ああ、問題ない。多少、痺れは感じるが」


「……あれ? 大丈夫なんですか? 腕が焦げてたりとかは……」


「……マトモに使うのは初めてだろうから忘れているかもしれんが、俺には電撃を吸収する能力もあるんだぞ?」


「えーと、それは知ってるんですけど……まぁ無事なら大丈夫です!」


「む、そうか」


 ……しかし北園は、心の中ではまだ疑問を抱いていた。


(うーん……おかしいな? 夢の映像ビジョンでは、本堂さんは確かに腕が焼け焦げていたのに。今回の戦いで、そんなシチュエーションが起こりうるとしたら、それはライコの電撃以外に有り得ないと思ってたんだけど…………どうしよう……)



 一方のフウビとスイゲツは、地に倒れ伏したライコに寄り添っている。

 ライコはまだ息があるようだが、もはやすでに死に体だ。もうまもなく力尽きるだろう。


 ……だがしかし、ライコが動きを見せた。最後の力を振り絞って、上体だけを何とか起こすと、フウビをジッと見つめ始めた。


 すると、ライコの身体から青白い炎のようなエネルギーが湧いて出て、それがフウビへと吸い込まれていく。


「あれは……まさか……」


 日向が口を開いた。

 彼は、その青白いエネルギーに見覚えがあった。


 それはあの時、シンガポールにて星の巫女に見せてもらった『星の力』……マナとも呼ばれたエネルギーに酷似している。


「まさかライコのやつ、自分がもう力尽きるから、残った力をフウビに託してるんじゃ……!」


『なんだって!? それはマズい! 急いであの二体を止めるんだ!』


「り、りょーかいです! 凍結能力フリージング!」

「クソっ、突っ込むしかねぇ!」

「間に合うか……!?」


 狭山の指示を受け、北園が空気を凍らせて氷柱を作り、それをミサイルのように撃ち出した。その氷柱を追いかけるように、日影と本堂がフウビ目掛けて駆けて行く。



 ……しかし。



「コォォォーンッ!!」


「うおっ!?」

「くっ!?」


 ……間に合わなかった。


 フウビはライコから力を受け継ぎ、遠吠えと共に竜巻のような暴風を発生させた。北園が飛ばした氷柱が、暴風に巻き込まれて砕け散る。


「や、やべぇ! 下がれ!」

「言われずとも……!」


 日影と本堂も、すんでのところで足を止め、急いで仲間たちの元へと退いた。


 ライコから星の力を託されたフウビは、身体が少し大きくなった。筋肉量も増し、たくましくなったように見える。


 だが、最大の変化部分は尻尾だ。先ほどまでは三本だった薄緑の尻尾が、今は六本に増えている。まるで、ライコの尻尾を受け継いだかのようだ。


 五人に叩きつけられる風雨も、さらに勢いを増して吹き荒れる。とくに、吹きつける風の勢いが格段に上昇している。


 そして、フウビに星の力を託し終えたライコは、全身から煙が立ち上り、骨だけの姿に成り果ててしまった。ライコの亡骸に悲しそうな表情を浮かべた後、残った二狐は日向たちの方へと向き直った。


『星の力の譲渡と、それに伴う形態変化だって……!? こんなの、一年前の戦いでも聞いたことの無い現象だ……!』


 それと、星の巫女は以前、こうも言っていた。「マモノに与える星の力は、全て一定。そこからどれほどの進化を遂げ、力を付けるかはマモノ次第だ」……と。


 目の前のフウビは、単純に考えるならば、星の巫女がマモノに分け与えている量の二倍、星の力を蓄えている計算になる。その力、どれほどのものなのか。


 スイゲツを背にして、フウビが五人に向かって身を低くする。

 五人も戦闘再開の気配を感じ取り、構えた。


 日向と日影が『太陽の牙』を握りしめる。

 北園はフウビの出方を窺い、いつでもバリアーが晴れるように準備する。


 本堂は迅雷状態を維持し、すぐに最高速で動けるよう構える。

 シャオランは”地の練気法”を使った。息を大きく吸って、吐き出した。


 フウビの身体を取り囲むように、風の渦が巻く。

 そして……。


「……コォンッ!!」


「うわっ!?」

「きゃあ!?」

「わぁぁ!?」

「くっ!?」


 ……フウビは、身に纏った風をジェットのような勢いで噴射し、尋常ではないスピードで突進を仕掛けてきた。


 あまりの速度に、北園はバリアーを張る暇も無かった。


 北園も日向も、日影とシャオランでさえも、フウビの高速突進にまともに反応できず、身体を引っかけられて弾き飛ばされてしまった。猛スピードで走る車にはねられたかのような衝撃だ。


 唯一、本堂だけは完全回避に成功した。フウビの突進が当たる直前、なんとか右にローリングすることで避けきった。さすがの反射神経と言えるだろう。


 日向は、強烈なダメージを受けた身体を何とか起こしながら、悠然と佇むフウビを見据える。”再生の炎”が機能し始め、体の内側に熱がこもる。


「あんな突進攻撃、今までやってこなかったぞ……。ライコから星の力を譲り受けたことで、使える異能が増えたのか……!?」


 フウビが再び攻撃姿勢を取る。

 狙いは日影だ。ライコの仇討ちをしようとでもいうのか。

 先ほどと同じく、纏った風をジェットのように噴射して突進してきた。

 日影は先ほどの突進を喰らって、体勢を崩したままだ。避けきれない。


「がはっ……!?」


 日影は、フウビの突進を受けて、真上に向かって跳ね飛ばされ、地に落ちた。

 オーバードライヴ状態の彼でも、致命傷を避けきれない。あの突進はそれほどの威力を持った攻撃なのだ。


「これ以上はやらせんぞ……!」


 フウビを止めるべく、本堂が電撃攻撃を放つ。

 濡れた地面に手を当て、水たまりを伝って電流を流す。


 しかしフウビはジャンプして地を這う電流を避ける。

 そしてそのまま、口元に風を凝縮させ、本堂目掛けて風の砲弾を撃ってきた。


 本堂は素早く後ろに跳んで、風の砲弾を避ける。

 しかし、風の砲弾は地面に着弾すると同時に、今までとは比にならない大暴風を撒き散らした。


「ぐうっ!?」


 本堂も、大暴風に巻き込まれて吹っ飛ばされる。

 これまでの風の砲弾と比べて、明らかに威力が増している。


「うおおおおおっ!!」

「はあああああッ!!」


 日向が『太陽の牙』を振りかぶりながら、シャオランが”地の気質”を纏いながらフウビへと迫る。

 するとフウビは、口元で風を凝縮させると、それを竜巻状にして、薙ぎ払うように二人に撃ち出してきた。


「うわああああっ!?」

「はぎゃああああああああああ!?」


 竜巻に巻き込まれ、吹き飛ばされる二人。

 身体の至る部分が、ねじ切れそうな痛みに襲われた。

 今までのような風の砲弾なら、まだ避けようはあった。

 しかし今回の攻撃は『一直線の攻撃』ではなく『面の制圧』。至近距離で避けるのは困難だ。


 そしてフウビは、次に北園を見据えた。

 北園はバリアーを張ってフウビの攻撃に備える。

 フウビはそれを見て、風を口元に凝縮し始めた。


「コォンッ!!」

「あうっ!?」


 フウビが北園に向かって、風の砲弾を吐きつけた。


 風の砲弾は北園のバリアーを破り、その先の北園を吹っ飛ばして、さらにその先にあった木の幹に着弾し、木をへし折ってしまった。北園はボロボロになりながらも、何とか身を起こす。


「だ、ダメだ……。もう私のバリアーじゃあ、あの風の砲弾は防げない……」


『これはマズいな……。ここまでのパワーアップは予定外だ。どうする? ここは一度退いて、体勢を立て直すという選択肢もあるけど……』


「……いえ、それは許してくれなさそうです」


 そう言う日向の視線の先には、神社の出口を塞ぐように立っているスイゲツの姿が。日向たちをここから逃がさないつもりだ。


 日向とは”再生の炎”によって既に回復を終えているが、他の三人には自動で傷を再生する能力など無い。北園が治癒能力ヒーリングを使おうにも、果たしてあの素早い二狐の目を盗んで、傷の手当てができるかどうか。そして日影もまた、完全には回復できていないようだ。


 前門にフウビ。後門にスイゲツ。

 日向たちは、完全に挟まれてしまった。


「これは……どうすればいいんだ……」


 日向が狼狽える。

 一応、自身には”再生の炎”があるものの、仲間たちにはそれが無い。このままでは仲間たちがやられてしまう。


(以前、松葉班の雨宮さんに言われたことを思い出す。俺や日影が不死身でも、それじゃ意味が無いってことを。まったく、その通りだ……。俺がもっと強ければ、皆の手を借りずとも『星の牙』を倒せるだろうに……。皆を危険な目に合わせずに済むのに……。けど俺は弱いから、皆の手を借りなければ、敵を倒せない……)


 守るべきものを守れなかった時こそが、不死者たる日向にとっての敗北だ。その敗北が、目の前まで迫ってきている。


 しかし日向にはどうすることもできない。

 ただただ、悔しさで歯を食いしばるしかない。



『……とはいえ、手が無いワケではないんだけどね』


「……へ?」


 そんな絶望的な空気を吹き飛ばすかのように、狭山が軽く呟いた。

 この男は、まだ状況を打破する手立てがあると言うのだ。


「一体、どうすれば……?」


「とりあえず、時間を稼ぎながら自分の指示を聞いてほしい。……だがこれは、あくまで推測を元に考案した作戦だ。成功率は、高く見積もっても六割といったところだろう。残りの四割で、誰かが死ぬかもしれない。それでもやるかい?」


 それを聞いた日向は、口をつぐんでしまう。

 成功率は六割。残りの四割で、誰かが犠牲になる可能性がある。

 賭けのチップには、あまりに重すぎる。


 ……だが。


「やろう、日向くん! どのみちこのままじゃ負けちゃうよ!」


「同感だな。四割で死ぬかもしれないが、やらなければ十割で死ぬのだろう」


「ボクはイヤなんだけどね!? でも、皆がいるなら、頑張れるかも……!」


「……ってワケだ。覚悟決めろ、日向」


「みんな…………分かった。では、その作戦を教えてください、狭山さん」


『よくぞ言ってくれた! じゃあよく聞いてね……おっと、フウビが動いたぞ!』



 狭山が作戦を説明し始めると同時に、フウビが襲い掛かってきた。

 それをなんとか凌ぎながら、五人は狭山が考えた作戦に耳を傾け始めた。

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