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第189話 ファイブ オン スリー

「はひぃ……はひぃ……」


 日向が息を切らしている。


 日向たち五人はライコ、フウビ、スイゲツの三狐と対峙するため、彼らが待ち構える神社に向かっているところだ。神社は九重邸の近くにある石段を上った先にあるのだが、この石段がまた相当に長い。オマケに今は雨が降っていて、石段は濡れて滑りそうだ。それがまた神経を使い、余計に気疲れさせられる。


「ぜぇ……ぜぇ……こんなんお前、戦闘開始する前にスタミナ切れでくたばるに決まってますやん……。そこも考慮して上の神社を戦いの場に選んだのなら、あのキツネたち、侮れないぞ……」


「ったく、だらしねぇ奴だぜ。ゲームばっかしてねぇで、もっと体力をつけろ」


「バスケ部時代の石段トレーニングを思い出すな。十字神社の石段をひたすら上ったり下ったりしていたものだ」


「武功寺の石段に比べたら、まぁ大したことは無いよね」


「ウチの前衛の皆さん、本当にスタミナお化けだわ……」


「私も疲れたよ日向くん~……おんぶして♪」


「無茶言わないで」



 やがて石段を上りきると、その瞬間、風の砲弾が五人に向かって飛んできた。


「うわっとぉ!?」

「あ、危ない!」


 咄嗟に北園が前に出て、風の砲弾に対してバリアーを張った。

 風はバリアーに着弾すると炸裂し、バリアーは一撃で破壊された。


 風の砲弾の威力は相当なものだ。最初の不意打ちと同じく、北園のバリアーはたったの一発で破壊されてしまうらしい。


 正面には、ライコたち”嵐”の三狐が佇んでいる。

 中央にライコ、左にフウビ、右にスイゲツだ。

 背後にはお狐様を祭っていると思われる、大きなやしろが建っている。


「先制攻撃とは、やってくれるじゃねぇか!」


「び、びっくりしたぁ……。キタゾノのおかげで助かったよぉ……」


「まったくだな。さて日向。ここからは手筈通り、ということで良いんだな?」


「そうしましょう。……みんな、よろしく!」


「りょーかいだよ、日向くん!」


 五人が三狐に向かって走り出す。


「コォォォーンッ!!」


 中央のライコが一声吠えると、フウビとスイゲツも散開した。

 その散開したフウビに向かって日向と北園が、スイゲツに向かって本堂が走り寄る。そしてライコにはシャオランと日影だ。


「再生の炎、”力を此処に(オーバードライヴ)”!!」

「地の練気法! ふぅぅぅ……ッ!」


 日影が紅蓮の炎を、シャオランが淡い砂色のオーラを身に纏う。


 二人の役目は、全力でライコを仕留めにかかることだ。あの三匹の中で、雷を操るライコが最も高い攻撃力を持っていると言える。ゆえに、まずはライコから真っ先に仕留める。そして残りの二匹に余裕をもって対処するのだ。


 ”嵐”の三狐は、これまでに戦ったマモノの中でもトップクラスの俊敏性を持つが、そのぶん体躯はブラックマウントやギロチン・ジョーに比べれば小柄だ。恐らく、体力は『星の牙』としてはそう高くないと思われる。上手く隙を突いて一気に攻め立てることができれば、速攻でカタを付けることも不可能ではないはずだ。


 日影がライコに飛びかかり、『太陽の牙』を振るう。


 しかしライコはこれを高く跳んで避けてしまい、さらに日影の頭上をも飛び越え、そのまま電気を身に纏って回転しながら体当たりを繰り出す。狙いは、シャオランだ。


「はぁッ!!」


 縦回転しながら飛びかかってきたライコに対して、シャオランは鉄山靠てつざんこうを叩きつけた。


 結果、押し負けたのはライコの方だった。シャオランの背中に弾き飛ばされ、しかし空中で受け身を取り、着地する。


 一方のシャオランは、ライコが身に纏っていた電気を受けて、多少のダメージを喰らった。


「か、身体が、身体に電気がバチィ!って……もうヤダ……電気怖いぃ……」


「耐えろ! パワーでは負けてねぇぞシャオラン! このまま一気に仕留めちまおうぜ!」


「ひぃぃぃ……。帰ったら、リンファにゴム製の道着を用意してもらおう……」



 一方、こちらは日向・北園ペアとフウビとの戦い。

 二人の役目はフウビの注意を引き付けることだ。


「やっ!!」


 北園が濡れた石畳に手をつくと、地面から巨大な氷柱が生成され、それがはしるようにフウビへと迫る。これほどの雨の中ならば、お得意の発火能力パイロキネシスは使えないものの、凍結能力フリージングのパワーアップが相当なものになる。


「コォンッ!!」


 フウビは迫る氷柱を躱しきると、口元に風を凝縮させ、北園に向かって風の砲弾を一発、二発と吐き出した。


 しかし北園は、これを空中浮遊することで避ける。

 誰もいなくなった石畳に風の砲弾が着弾し、石畳が抉れて飛んだ。


「せいやっ!!」


 北園を狙っている隙を突いて、日向がフウビに斬りかかる。

 しかしフウビは、これも俊敏な動きで避けてしまう。

 そして口元に風を凝縮させ、日向にも風の砲弾を吹きつけて反撃してきた。


「こなくそっ!」


 日向は、飛んできた風の砲弾に『太陽の牙』を叩きつけて消し飛ばした。行き場を失った暴風が、爆裂するように吹き荒れる。

『太陽の牙』は、星の力によるエネルギーの攻撃にも特効を持っている。このように超常の攻撃に対して『太陽の牙』で切り払えば、打ち消すこともできる。


「それぇぇぇ!!」


 上空から、北園が氷柱を生成してフウビに向かって発射した。

 フウビはそれを、軽く後ろに跳んで避ける。


 上空から北園が下りてきて、日向の隣に並び立つ。

 正面から相対する日向・北園ペアとフウビ。


 日向はフウビを見据えながら、彼女の動きと攻撃パターンを読むために、今までプレイしてきたアクションゲームに登場したキツネのボスを思い浮かべる。


「……と言っても、キツネのボスが出てくるアクションゲームって何かあったっけ……? 考えてみれば大分少ない気がする……。某ネイチャーアドベンチャーと某ダーク戦国アクションくらいしか思いつかないぞ……」


「とりあえず日向くん、プランはAで行く? Bで行く?」


「うーん……Bで。このぶんなら何とか成功しそうだ」


「りょーかい!」



 そしてこちらは本堂対スイゲツ。

 本堂もまた、日影たちがライコを仕留めるまで、スイゲツの足止めを担当する。


 スイゲツは”大雨レインストーム”の星の牙だ。つまり、能力と言えば『雨を降らせる』のがせいぜい。ライコやフウビに比べて凶暴性も控えめらしく、三匹の中では最も危険度が低いと思われる。

 

 ゆえに本堂が、単独で足止めすることとなった。迅雷状態の彼ならば敵の攻撃を素早く避けることができるし、スイゲツが水の能力者であるのに対して、本堂は電気を使えるので攻撃面においても相性が良い。


「ふっ!!」


 本堂が高周波ナイフを振るう。

 刃が雨を斬りながら、スイゲツの目前まで迫る。


 スイゲツは、頭を屈めることでナイフを避けた。

 低くなった体勢から、本堂の首を狙って噛みつきにかかる。


 スイゲツの噛みつきを後ろに跳んで避ける本堂。

 跳びながら、自身の両腕に電気を纏わせる。


「喰らえ……!」


 本堂が地面に手をつくと、地面の水たまりを伝いながら、強烈な電流がスイゲツに向かっていった。この雨の中ならば、”指電”で電撃を飛ばすよりさらに強力な遠距離攻撃を仕掛けることができる。


 しかしスイゲツはこれも避けきった。

 右に大きく跳んで電撃をやり過ごすと、一瞬で本堂との距離を詰め、前足の爪を振るう。


 本堂はスイゲツの身体を飛び越えるように爪を避ける。

 そして、空中で身体をひねりながらナイフを投げつけた。


 しかしスイゲツは本堂の方を振り返ることさえせず、三本の尻尾を振るってナイフを弾き飛ばした。スイゲツの三尾は大量の水を含んでいるため、重く、そして強靭だ。まるで太いゴムさながらの弾力を持つムチのようだ。


「ちっ、思った以上に隙が無いな」


 本堂の言う通り、スイゲツは積極的に攻めてこそこないものの、その動きのしなやかさ、軽やかさは相当なものだ。本堂もスピードには自信があるのに、全く攻撃を当てられない。


「とはいえ、こちらの本来の役目は囮役だ。無理に攻撃を当てる必要もない。こうやって注意を引き付けることができれば……」


「本堂さん!」


 本堂が思考している途中で、北園の声が割り込んできた。それも切羽詰(せっぱつ)まった声だ。


 本堂が北園の方を見ると、向こうが相手をしているフウビが口元に風を凝縮させ、本堂に向かって風の砲弾を放ってきた。


「くっ!?」


 咄嗟にその場から跳んで、風の砲弾を避ける本堂。

 風の砲弾は先ほど本堂がいた場所に着弾し、地面に大穴を開けた。


 フウビは追撃を仕掛けようとするも、横から日向が攻撃を仕掛けてきたため、追撃を中断して退いた。


「まさかこっちを狙ってくるとはな」


「大丈夫ですか、本堂さん!?」


「何とか……む! 北園、危ない!」


「コォンッ!!」


 本堂は急いで立ち上がり、北園の元へと走り寄る。

 その北園の背後から、今度はライコが北園を狙って、電撃を飛ばしてくるのが見えたからだ。


 本堂は北園とライコの間に入ると、真正面からライコの電撃を受け止めた。


「く……!」

「本堂さん!?」


 ライコはまだ電撃を放ち続けている。

 本堂はじっとライコの電撃に耐え続けている。

 超帯電体質である彼は、電撃をその身に受けても逆に吸収することができる。


(とはいえ、限度はあるがな……! このままではオーバーフローを起こしてしまいそうだ……!)


「クソっ、本堂を助けるぞ、シャオラン!」

「わ、分かった!」


 日影・シャオランペアが本堂を助けるべく、ライコを攻撃しようとする。

 しかしその二人に立ちはだかるように、フリーになったスイゲツが飛びかかってきた。


「コォンッ!!」


「チッ、この野郎……! おいシャオラン、なんとかソイツを引き付けておいてくれ!」


「そ、それで仮にボクが死んだらどうするのぉぉぉぉぉ!?」


「お前なら大丈夫だって信じてるから! ……だがスイゲツのやつ、全然隙がねぇな。こりゃシャオランに引き付けてもらっても、もうしばらく突破できそうにねぇぞ……」



 戦況はめまぐるしく変わる。

 今度は日向とフウビの対決だ。

 日向の背後では、ライコが本堂に電撃を浴びせているところだ。


 フウビが姿勢を低く構える。


(前足の引っかき攻撃……!)


 日向がフウビの攻撃を読み、回避のために動き出す。


「コンッ!!」

「ぐっ!?」


 ……しかし日向の回避は間に合わず、右脚を引き裂かれてしまった。ズボンが破け、鮮血が飛び散る。


 日向は歯を食いしばって痛みに耐え、至近距離のフウビから目を離さない。

 すでに足は火を吹き、再生を開始している。雨で濡れようとも、”再生の炎”の熱さは弱まることを知らない。


 フウビが日向に身体の側面を向け、引き絞るように身体を引いた。


(タックルが来る……! でもこの位置、この怪我した脚じゃ……!)


 日向の予想通り、彼はフウビのタックルを避けきれなかった。

 大きな身体をぶつけられ、弾かれるように飛ばされる日向。


「くぅ……! いくら動きが読めても、身体が全然ついていけない……!」


 吹っ飛ばされ、濡れた地面に仰向けになって倒れる日向。

 上体を起こしてフウビを見ると、日向に向かって風の砲弾を放とうとしているところだった。


 ”嵐”の三狐の中でも、特にフウビは遠距離攻撃の頻度が高い。恐らくは、あの風の砲弾の威力に絶対の自信があるのだろう。


 日向にトドメを刺すべく、フウビは口元に風を凝縮させる。

 そして……。


「コォンッ!!」


 風の砲弾が日向に向かって、情け容赦なく放たれた。


「……けど、射線は直線的。予備動作は分かりやすい。そして使用頻度も高いときたら、これはもう利用しない手は無いよな……!」


 そう言うと日向は、右に身体を投げ出すようにして風の砲弾を避ける。

 日向が退いたその先には、本堂へ電撃攻撃を続けている()()()()()()


「コンッ!?」


 風の砲弾は、ライコに直撃した。同士討ちだ。

 大きな通信車をも吹っ飛ばす威力の風の塊が、今度はライコを吹っ飛ばしてしまった。


 日向たちが”嵐”の三狐と戦いに行く前、狭山は二つのプランを日向たちに掲示した。


 一つは、北園が超能力で広範囲を攻撃し、フウビを狙っていると見せかけてライコに流れ弾を当てる作戦、プランA。


 そしてもう一つは、フウビの風の砲弾を誘導して、これをライコに当ててしまう作戦、プランB。


 始めから、日影とシャオランだけでライコを仕留めようとは思っていなかった。素早いライコを捉えるには、もう一手必要だった。


 日向が選択したのは、プランBだった。理由は先ほど日向が呟いたとおり。

『風の凝縮』という分かりやすい予備動作があるならば、引っかきやタックルを避けるより十倍は簡単だと感じたからだ。



「もらったぜぇッ!!」


 そして、スイゲツの一瞬の隙を突いて、日影が一気にライコに接近する。

 左の拳に炎を集中させ、ライコ目掛けて飛びかかる。


「喰らえ!! ”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”ッ!!」


 そして、ライコの頭部に日影の燃える拳が叩きつけられ、大爆発を起こした。

 その一撃で、ライコは二度と起き上がれなくなった。


「さて、これでファイブ()オン(VS)ツー()だぜ!」




 高らかに宣言する日影を、日向は遠巻きに見つめていた。


(ああ、カッコイイな。俺も、あんな風に戦えればな……)

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