表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/1700

第181話 曇る表情

 夕焼けに染まった空の下。

 自転車で川沿いの道を駆け抜ける日向。その表情は暗い。


「はぁー……」


 自転車をこぎながら、ため息を吐いてみる日向。

 少しは胸の内がスッキリするかと思ったが、胸のモヤモヤは残ったままだ。


 日向の表情が曇っている理由は、今日のテストの点数がひどいものだったから……ではない。まぁ確かに、決して褒められた点数ではないのだが、狭山から勉強を教わることが出来なかった割には、それなりに点数は取れていた。あくまで、日向としては、だが。


 日向の表情を曇らせる要因は、いくつかある。

 一つは、この間の松葉班の件についてだ。


 見知った顔が目の前で死んだのだ。ショックを受けないはずがない。日向たちも戦いに身を置いている以上、そういう出来事に直面する日は、遅かれ早かれ来ていたことだろう……が、実際に来てみると、想像以上に胸が辛かった。


 日向も含めて『予知夢の五人』は、どうにか松葉班壊滅のショックから立ち直りつつある。ただし、表面上は、だ。心の中では皆、それぞれ色々と思うところがあることだろう。


 日向の表情を曇らせる要因、その二。

 それは、最近の日向と、仲間たちとの実力の開きについてだ。


 日向たちもそこそこの数の戦闘を経験してきたことで、それぞれの戦闘時における役割を確立しつつある。


 例えば北園は、後方火力担当だ。

 超能力による広範囲、高威力の攻撃は、まさに彼女ならでは。

 彼女がいるといないとで、戦闘の難易度が大きく変わる。


 シャオランはもちろん前衛だ。

 練気法によって攻守ともに死角無し。

 そしてシャオラン自身も優れた武人なので、非常に戦闘慣れしている。

『地の練気法』によって大型のマモノの攻撃を正面からガードできるのも、彼ならではだろう。よって、敵の注意を引くのにも向いている。


 本堂は中衛、あるいは撹乱役といったところか。

 電撃や高周波ナイフによって、近距離~中距離まで対応できる。

 さらに本堂はスピードも相当なもので、そのスピードを”迅雷”によってさらに底上げできる。


 そして日影が、メインアタッカーだ。

『太陽の牙』を保有している彼は、『星の牙』に問答無用で致命傷を負わせることができる。やや突撃癖があるものの、最近ではオーバードライヴなる技まで習得し、アタッカーとしてますます磨きをかけた。


 そんな中、日向はこれといった長所が無い。


 確かに日向も日影と同じく『太陽の牙』の使い手なので、メインアタッカーを務めることは可能だ。しかし日影より身体能力が劣るため、彼より役立つことはできない。極端な話、日向を抜いた四人だけでも、あのパーティは上手くいくのではないか、などと日向は考えていた。


「それに、なにより……」


 日向が呟く。

 日向の表情を曇らせる、第三の要因について考えようとする。


 ……と、その前に。

 前方に見知った顔を一つ……いや、二つ発見した。

 小柄な女子中学生と、一匹の蒼いマモノだ。


「あ、あなたはたしか……日下部日向さん?」


「お、君は確か…………ゴメン、名前何だっけ……」


「ましろですよ。小岩井ましろです」


「ああ、そうだった……」


 二人の少女のうちの一人は、以前日向が知り合った小岩井ましろだ。些細なことで友人と仲違いしていたところを、日影や狭山が助けたのだ。


「ゴメン、ましろさん。どうも人の名前と顔を覚えるのは苦手で……」


「気にしないでください、私もですから。……ただ、あのとき私を助けてくれた、日影さんのことはよく覚えています。顔も名前も似ているから、ついでに日向さんのことも覚えてたんでしょうね。……って、ごめんなさい! これじゃとても失礼ですよね……!」


「いやいや、気にしてないよ。仮に失礼だとしても、名前を憶えてなかった俺より百倍マシだよ」


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」


「いやいや、こちらこそごめんなさい……」


 互いに頭を下げ合う二人。

 基本ネガティブ思考なこの二人が向き合うと、このように謝罪合戦が始まる。


「チィ!」


「……お。お前は」


 そして、ましろに頭を下げる日向の足元で、蒼いハリネズミのような姿のマモノが一声鳴いた。ましろの友達、サンダーマウスのいなずまちゃんである。


「よぉ、首輪付き」(精一杯のイケボ)


「チィィィィ……!」(バチバチと放電を開始する)


「あわわわわ、ごめんなさいごめんなさい。だから電撃はやめて」


「こーら、いなずまちゃん。乱暴は駄目だよ」


 そう言うと、ましろはポケットからゴム手袋を取り出し、それを着用していなずまちゃんを抱きかかえた。するといなずまちゃんはすっかり大人しくなる。


「おお、すごい。もうすっかり慣れてるね」


「はいっ。最近はサキちゃんとも仲良くできてるし、いなずまちゃんと一緒にいられるし、人生で一番楽しい時間かもしれません。これも日向さんたちのおかげです。あの時は本当にありがとうございました!」


「どういたしまして……と言いたいけれど、俺はほとんど何もしてないからなぁ。是非とも日影に直接伝えてくれ」


「そうしたいんですけれど、日影さんの電話番号とか、まだ聞いてなくて……」


「何やってるんだアイツ……。俺が代わりに教えようか?」


「あ、はいっ。お願いします!」


 ましろの頼みを受けて、日向は日影の電話番号を教えた。

 ましろはとても嬉しそうだ。


「じゃあ、俺はこれで。危険なマモノには気を付けるんだよ」


「はい! ありがとうございました!」


 やり取りを終え、日向は自転車に乗ってその場を立ち去ろうとした。


 ……が、不意にましろから呼び止められた。

 彼女の表情は、どこか心配そうである。


「あのっ! 日向さん!」


「ん? どうしたの、ましろさん?」


「えっと、その、日向さん、何だか元気がなさそうに見えて、ちょっと心配になって……」


「……そっか。そう見えたのか」


「日向さんも、マモノ討伐チームで働いているんですよね? お仕事とか、大変なんですか?」


「……うん。大変だよ。もしかしたら死ぬかも……」


「え!? そ、そんな!?」


「あ、ああいや、冗談冗談。気にしないで」


「冗談……なんですね。ビックリしました。そういえば、その……討伐チームって、日影さんも戦ってるんですよね? あの人は大丈夫なんですか……?」


「ああ、もちろん。最近はアイツ、凄い強くなっちゃって、今では一人でマモノと戦ってるくらいだよ」


「そ、そうなんですね。教えてくれてありがとうございます。……日向さんも、どうか気を付けてくださいね」


「ああ。ありがとう」


 そう言うと、今度こそ日向は自転車に乗って去っていった。

 その表情は、やはり暗かった。



 日向の表情を曇らせる第三の要因。

 これが、日向の目下最大の悩み。

 それは、日向と日影の実力差。


 日影は、強くなった。

 日向から見れば、あまりに強くなり過ぎた。


 日影は『再生の炎 ”力を此処に(オーバードライヴ)”』という新しい力を手に入れ、日向を大きく突き放してしまった。自分では使えない、その力で。


 日向もキキとの戦いの後、一度その力を見せてもらったことがあるが、ハッキリ言ってアレは異常だ。人間ができる動きを大きく超えている。その強さたるや、先ほどもましろに言った通り、今では単独で『星の牙』を狩ってしまうほどである。


 日向はいずれ、日影と戦わなければならない。

 あの、超人と化した日影と……だ。

 彼に勝てなければ、たとえマモノ災害を終わらせようとも、日向は死ぬ。



「…………勝てるワケないよなぁ……」


 諦念と羨望が入り混じった声で、日向は弱々しく呟いた。

 ほとんど確定してしまったような死の運命が、彼の表情を曇らせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ