第19話 剣に祈れ
本堂の妹、舞が取り込まれたスライムを前に、作戦を練る日向。
しかし……。
(……いざ考えてみると、これ、どうやって戦えばいいんだ……?)
北園が炎を使うにしろ、氷を使うにしろ、雷を使うにしろ、まずスライムの中にいる舞が無事では済まない。つまり、北園の主力の超能力がほとんど封じられていると言える。
その上でスライムから舞を助け出さねばならない。
さらに、日向は剣を家に置いて来ている。
素手の日向など、マモノ相手に大した戦力にはならない。
頼りになるのは念動力くらいのものか。
しかしあの能力は生き物には直接使えない。
工夫して使う必要がある。
(考えれば考えるほど八方手詰まりだ……。ゲーマーの戦略眼はともかく、俺の戦略眼なんてこんなものでした……。)
それでも必死に頭を捻り、作戦を考える日向。
その果てに思いついたのが……。
「北園さん。念動力のバリアーを張りながらヤツに体当たりして、中にいる妹さんを弾き出せないかな?」
後衛の北園をあえて突撃させる作戦だった。
(北園さんは後方火力担当なのに、その北園さんを前に出すとか、我ながら頭を抱えたくなるくらいの愚策だ……。俺の戦略眼、視力検査したら0,3とか叩き出しそう……)
期待に応えられなかったと思い、暗い表情を浮かべる日向。
それでも北園は……。
「なるほど……やってみる!」
元気にそう返事し、両手を前に伸ばし、バリアーを張った。
そして……。
「おりゃああああ!」
と、それはそれは男らしい声を張り上げて突撃していった。
しかし、それをスライムは真上に飛び越えて避けてしまった。
「と、飛んだぁ!?」
スライムはそのまま、日向と本堂の背後に着地する。
そして、その身体の一部を鞭のように伸ばして二人を攻撃してきた。
「ぐふぅ!?」
「く……!」
本堂は上手く上体を逸らして、スライムの攻撃を避けきった。
一方、日向は腹に強烈な一撃をもらってしまった。
「ぐ……!? あ、熱つつつつ!?」
殴られた腹がどんどん熱を帯び、のたうち回る日向。
どうやら、日向と剣の距離が離れていても”再生の炎”は機能するらしい。
「コイツ……!」
本堂がスライムに掴みかかろうとする。
しかしスライムは先ほどのように身体の一部を伸ばし、本堂の腕をはたき落とすと、今度は本堂に素早い体当たりをかましてきた。
本堂は、なんとか身をよじって避けようとするも……。
「ぐっ!?」
避け切れず、身体を引っ掛けられて地面に倒れてしまう。
その様子を見て、日向は歯噛みする。
(誤算だった。このスライム、思った以上に速い……! 近づけば身体を触手のように伸ばして殴りかかり、距離を取れば体当たり。剣があればともかく、丸腰ではあまりにも分が悪い……)
地面に着地したスライムに向かって、再び北園がバリアーで体当たりを仕掛ける。
「当たれぇぇぇ!」
スライムの正面から飛びかかる北園。
スライムはそれを横っ飛びで避ける。
そして、バリアーが張られていない北園の側面から突っ込んできた。
「あうっ!?」
スライムの体当たりを受け、地面に倒れる北園。
その上にスライムがのしかかってくる。
「ちょ……! この……! どいて……ムググ……」
スライムの身体に押しつぶされる北園。
顔を塞がれ、苦しそうにもがいている。
脚をばたつかせ、必死にスライムをどかそうとしているが、彼女の細腕では全くスライムを動かすことができない。
「この野郎ぉぉぉ!」
そのスライムの背後から日向が殴りかかる。
上手く隙を突けたか、振り下ろした拳がスライムに命中する。
しかし、拳はスライムの頭をグニョンと変形させるだけで、効いている様子は全く無い。
(あ、ダメだコイツ。打撃は効かないのか……!)
日向の一撃を受け止めると、スライムは身体の一部を伸ばして、日向の腹に強烈な一撃を返してきた。
「がふっ!? ぐ、ぐうううぅぅぅ……!」
吹っ飛ばされ、地面に転がされる日向。
”再生の炎”によって腹の内側がひどく熱くなる。
頼みの綱の北園はスライムの速さについていけていない。
おまけに、今は拘束されて無力化されている。
現在、舞と北園を助け出そうと、本堂がスライムに攻撃を仕掛けている。
スライムは本堂に、身体を伸ばす攻撃の連打を浴びせて迎え撃っている。
本堂は、スライムの速さに慣れてきたのか、スライムの攻撃を全て避けるかいなしている。
しかし、パワーとリーチはスライムの方に圧倒的な分がある。
避けるだけで、攻められない。
(けど、俺に至っては、避けることも防ぐこともできない)
日向は、悔しさで拳を握りしめ、歯を食いしばる。
(ああくそ、あの剣があれば、刺し違えてでも一撃入れられるのに……!)
悔しさのあまり、無い剣を渇望する日向。
その時、彼に天啓が舞い降りた。
「……もしかしてあの剣、自分から飛んできたりしないかな……?」
そもそも、あの剣を拾った経緯からして「いきなり空から落ちてきた」という突飛な話だ。
なぜ剣が降ってきたのか。
それは、あの剣が自分で勝手に飛んできたのだとしたら?
賭けてみる価値はある、と日向は判断した。
どの道、今の日向ではあのスライムに歯が立たない。
それこそ、一か八かの賭けに勝つくらいしなければ。
「剣よ来い……剣よ来い……来てくださいお願いします……」
日向は祈る様に呟き、剣が手元に飛んでくるイメージを浮かべる。
その瞬間、手のひらから大きな火柱が発生した。
「う、うわっ!?」
「な、何だ!?」
思わず声を上げてしまう日向。
その様子を見た本堂も驚きの声を上げる。
炎が消えると、日向の手には、いつの間にか例の剣が握られていた。
「マジか……本当に来ちゃった……飛んできてはいないけど」
目を丸くして、現れた剣を眺める日向。
ますますこの剣の謎が深まったが、今は考えている余裕は無い。
日向はすぐに剣を構え、スライムに向かって斬りかかる。
スライムもこれに反応し、身体を伸ばして攻撃してきた。
「これなら、どうだぁ!」
伸びてくる身体に向かって、剣を振るう。
剣の刃に当たったスライムの身体は、水しぶきを上げて破壊された。
「いける! これなら……!」
スライムは、さらに身体を伸ばして連打を浴びせてくる。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
迫る連打に対して、日向はがむしゃらに剣を振るう。
剣は、スライムの身体にかするだけでも、その身体を斬り飛ばした。
そして……。
「もらったぁぁぁ!!」
攻撃の隙を突き、一気にスライムの懐に潜り込む。
そして、手に持った剣でその身体を横に一閃。
スライムの身体が真っ二つに切り裂かれ、本堂舞が解放された。