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第172話 生存者捜索

 松葉班のメンバー三名が遺体で発見された。

 それを見た日向と日影は、キキを倒す決意を新たにする。


「さて……」


 日向が松葉班の三人の遺体を漁り始める。対マモノ用アサルトライフルの弾丸などを持っていないか確かめるためだ。回収できれば、キキと戦うのに心強い補給となる。


 迷彩服のポケットやバックパックなどを念入りに調べる。その途中、どうしても遺体の身体などに触れることがある。死体の冷たさ、力の抜けたズッシリとした重さが、日向の指先に伝わってくる。

 正直言って、嫌な感触だ。日向は唇を噛みしめてその感触に耐え、遺体を調べ続ける。


 やがて、日向は三人の遺体から三つのアサルトライフルの弾倉を手に入れた。

 どれも弾丸はフル装填。これで日向の残弾は軽く百発を超えた。


「待たせた、日影。進もう」


「ああ、分かった」


 日影は日向の言葉に返事をすると、先に進む前に三人の遺体へと歩み寄り……。


「もう少し待っててくれ。あのサル倒したら、アンタたちも弔ってやる」


 と声をかけ、その場を後にした。

 瞬間、銃声。


「キーッ!?」


「っ!? なんだ!? 何が起こった、日向!」


「キキだ! アイツ、また俺たちを狙いに戻ってきやがった! 俺が先に射撃して、何とか追っ払えたけど」


「チッ、油断も隙も無ぇヤツだ! 早くここから離れるぞ!」


 日影の言葉に、日向も頷く。

 急いでその場から離れ、山の奥地へと向かう。


「ここにあった死体は三つ! まだ鳥羽と雨宮と松葉がいねぇ! アイツらだって強いんだ、まだ生きている可能性は十分にある!」


「ああ! この灰色の霧のせいで山から出られない以上、ガンガン奥に進む! そして生き残った隊員を見つけよう!」


 灰色の霧が立ち込める森の中を走る二人。

 その二人を追って、頭上の木々からガサガサと音がする。

 恐らく、キキが木を伝って二人を追ってきているのだろう。


「このっ!」

「キーッ!?」


 日向が振り向きざまに、キキがいると思われる木に弾丸をばら撒く。

 キキの悲鳴が聞こえ、ガサガサという音が遠のいていく。


「よし、今だ」


 再び日向と日影が移動を開始する。

 残り三人の隊員の痕跡を探しながら、霧に包まれた森を往く。


「……とはいえ、人間が山を歩いた痕跡なんて、素人のオレたちじゃ、なかなか見分けが付かねぇけどな」


「ああ。ましてやこの霧だもんな。落とし物だってロクに見つけられないぞ」


 ぼやきながらも、日向は神経を研ぎ澄まして、周囲に耳を傾ける。

 あのキキという猿は存外にしつこい。こちらへの敵対心も尋常ではない。先ほど追い払ったばかりだが、すぐにでも再びこちらを追いかけてくるだろう。


 ……と日向が考えているそばから、再びガサガサと木の枝が揺れる音がした。


「そこだっ!」

「キーッ!?」


 案の定、キキが再び接近してきていた。

 いち早く不意打ちを見破った日向は、逆にキキに銃弾をお見舞いする。

 結果、再びキキを追い払うことには成功したが、弾丸が命中したような様子は無かった。


「また外した! くそ、すばしっこいヤツ……!」


「木に登ってばかりで現状、オレじゃ手の出しようが無いな。……しかしお前、『太陽の牙』を使ってる時より随分と動きが良いぞ。やっぱり銃持ってる方が強いんじゃないか?」


「我ながらそう思う! なんで『太陽の牙』は銃の形で降って来てくれなかったんだ!」


 気を取り直して移動を再開する二人。

 熟練のレンジャーなどは、土のへこみ具合などで人間の足跡を見抜くらしいが、さすがにこの二人にそのような技能は備わっていない。とにかく周囲をよく観察しながら歩き回る。


「……おい日向。あれ見てみろ」


 その時、日影が何かを発見したようだ。

 呼びかけに応じ、日向が歩み寄ってくる。


「どうした日影。生存者がいたか?」


「いや、人間ですらないが……見てみろ」


「これは……」


 そこにあったのは、鹿の死体だ。ところどころを食いちぎられたような跡があり、その歯形は先ほどの隊員の遺体についていた、キキのものと思われる歯形と全く同じだ。


「これもキキの仕業か? 巫女派のキキが、こんな残虐な行為を好むなんて……いや、そもそもアイツ、巫女派なのか?」


「巫女派じゃなけりゃ、過激派か? 星の巫女の側についているマモノが、過激派だっていうのか?」


「過激派は、その正体を巫女には隠しているらしいし、ありえない話じゃないと思う。この見境のない殺しっぷり、隊員たちへの残虐な仕打ち、その全てが『キキは過激派』と考えれば……自分の力を誇示したいからだと考えれば、ある程度説明がつく。……まぁ、そういう残虐な戦いが好きなだけの巫女派、っていう線もまだ捨てきれないけど……」


 考察しつつも、日向は周囲の警戒を怠らない。

 その時、前方の木々の中からカサ……という音が聞こえた。


「キキーッ!!」

「っ!!」


 キキだ。前方の木の上から、逆さまにぶら下がりつつ発砲してきた。

 日向も即座に反応し、キキが発砲すると同時に撃ち返す。

 互いの銃弾が空中で交差し、そして……。


「ぐっ!?」

「ギッ!?」


 日向の左側頭部を、キキの銃弾が抉った。

 ガギン、と頭蓋骨と銃弾が衝突する音が聞こえ、日向の頭から大量の血が流れ出る。


 しかし日向も負けていなかった。

 日向が被弾すると同時に、キキもまた、右手と腹に一発ずつ、銃弾を撃ち込まれた。つまるところ、相打ちだ。


 オマケにキキは、右手を撃ち抜かれた拍子にアサルトライフルを取り落した。


「キギャーッ!?」


 キキが悲鳴を上げてその場から撤退する。

 何とか追いかけたい日向だったが、頭の怪我が”再生の炎”によって焼かれる痛みに耐えられなかった。傷ついた頭を押さえ、うずくまる。


「あ……ぐ……!」


「大丈夫か日向!? だが、でかしたぜ! ヤツから銃を取り上げた!」


「ああ……。それに、右手に風穴を開けてやった。あの分なら、もし予備の銃を持っていたとしても、満足に使うことはできないはずだ」


 日向が動けない間、日影はキキが落としたアサルトライフルを拾おうとする。しかしその時、近くからガサガサ、という音が聞こえた。


(キキか……!? ……いや、これは木の上ではなく、下の方から聞こえる。木から木へ飛び移る音ではなく、普通の足音か?)


 よく耳をすませば、それは人間が忍び寄る足音のように聞こえる。

 やがて前方の木の陰から、一人の男が顔を覗かせた。

 背の高い、30代ほどの男性だ。


「君は……日影くんか!?」


「アンタ、松葉班の鳥羽だな!? やっぱりまだ生き残りがいたか!」



◆     ◆     ◆



 鳥羽に連れられ、日向と日影は土砂の下に掘られた横穴へとやってきた。クマの冬眠跡か何かだろうか。やや狭いものの、人間も十分に動けるスペースがある。

 そして、その奥には松葉班の隊員の一人で、もっとも若手である雨宮が横たわっていた。しかし、彼はどうやら怪我をしているようだ。左腕と左肩に包帯を巻かれている。


「雨宮! 喜べ! 援軍が来たぞ! 日向くんと日影くんだ! 不死身の二人だぞ! 俺たち、生きて帰れるぞ!」


「不死身の……」


 雨宮は、一瞬だけ日向と日影の方を見るが、すぐに顔を背けてしまった。


「……無理だ」


「雨宮?」


「子供二人で何ができるっていうんですか……。どうせあのサルを倒さなければ、自分たちはこの森から脱出できないんです。彼らが不死身でも、自分たちは普通に死ぬんですから、意味ないですよ……」


「雨宮お前、助けに来てもらっておいてその言い草は何だ!」


「…………。」


 鳥羽の叱責を受けると、雨宮は黙り込んでしまった。

 鳥羽は日向たちの方を振り返り、頭を下げる。


「……すまない。ご覧の通り、雨宮はちょっと参ってしまってるんだ。俺は君たちのこと、とても頼りにしているよ」


「気にすんなよ。……しかし雨宮の奴、ひどい落ち込みようだな。何があった?」


「ああ……部隊壊滅の原因が、自分にあると思ってるんだ」


 その言葉を聞いた日向と日影は、驚いた表情で雨宮隊員の背中を見つめる。雨宮隊員は何も言わない。


 そんな雨宮をよそに、鳥羽は話を続ける。


「この山で”濃霧ディープミスト”の星の牙の出現を受け、俺たちは山中を探索していた。その時、一匹のチンパンジーに出会ったんだ。それがあのサル……キキだ」


 曰く。

 キキは最初、隊員たちに対してとても人懐っこい様子を見せていた。

 しかし、日本の山にチンパンジーという、本来有り得ない邂逅かいこう

 キキが笑った時に見せる、吸血鬼のような四本の長い牙。

 それらの要素から、松葉班はキキをマモノと判断した。


 そこまでは良かったのだが、キキがあまりに友好的な態度なので、雨宮はキキを『自由派』のマモノではないかと判断した。キキもキキで、最初は松葉班と仲良く並んで歩いていたのだという。


 この時点では、松葉班はこのチンパンジーが星の巫女の側近、キキであると気づいていなかった。特別なマモノとは思わず、普通のマモノだと思い込んでいた。それがまさか、こんな日本の辺境の山で遭遇するなど、隊長の松葉でさえ予想だにしていなかった。知っていれば、雨宮もあのような判断は取らなかっただろう。


 そしてキキは、岡崎隊員のアサルトライフルに興味を持つそぶりを見せた。

 岡崎隊員が調子に乗って、キキにアサルトライフルを見せびらかすと、その瞬間にキキが銃を奪い……。



「……俺たち目掛けて、一気に発砲してきた」


「あのクソザル、騙し討ちしやがったのか……!」


 鳥羽の話を聞き、怒りの声をあげる日影。

 右の握りこぶしがわなわなと震えている。


「その時の射撃により、岡崎、上原、横田の三人が致命傷を受け、雨宮も腕と肩をやられた。無傷で済んだのは、俺と隊長だけだったな」


「……そうだ、松葉は? 松葉はどうなった?」


「最初は俺たちと一緒に撤退していたのだけど、キキが追いかけてくるから、怪我人の雨宮を逃がすために、雨宮を俺に任せてキキと戦いに行ったんだ。それからあの人にも会っていない。この霧の中では、俺たちの無線も遮断されてしまう」


「そうか……」


「俺は命令通り、雨宮を逃がすために山を下りようとした。しかし……」


「この霧のせいで出られないんだな?」


「その通りだ。どれだけ一直線に進もうと、まったく山から出られない。それから数日間、キキの目を盗んで山菜やキノコなんかを採集し、食いつないでいたってワケさ」


「そのあたりは、さすがのサバイバル能力だな」


「まぁな。こんなザマでも精鋭部隊だからね」



 さて、と言うと鳥羽は三人に向き直り、口を開いた。


「これだけ頭数が揃えば、きっと何かできる。俺たちもそろそろ反撃といこう!」

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