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第158話 交錯する想い

 シンガポーフライヤーが一周し、日向と北園はゴンドラの外へと降りる。

 降りた先には、ボロボロになって倒れているシャオランと、その後ろで腕を組んで怒っているリンファがいた。


 北園は途中、精神感応テレパシーによってリンファを止めたものの、リンファはお構いなしにシャオランへの攻撃を続け、結局地上に降りるまで止めることは無かった。


「えーと、二人とも、何があったの……?」


「知らないっ!」


 日向が尋ねても、リンファはそっぽを向いた。

 ……と、そこへ田中たちも降りてきた。

 この二人は二人で、日向が写真に写らなかった動揺から未だに立ち直れていない。


 しかし日向にそれを悟られないよう、誤魔化しながら先の四人と合流する。


「ふ、ふぅー。良い眺めだったぜ」


「いやぁ、絶景でしたです。ホントホント」


「な、なんか言い方がわざとらしい気がするけど、二人ともちゃんと楽しめた?」


「当ったり前だろ。バッチリ楽しめたぜ日向。……んで、リンファとシャオランは何があったんだ? どうしてシャオランはリンファの足元でヤムチャみたいなポーズして倒れてるんだ?」


「まぁその……聞かないでやってくれ……」


「お、おう」


 その後、六人は残された時間ギリギリまでシンガポール観光を満喫するも、班内の雰囲気はシンガポールフライヤーに乗る前と比べて終始微妙なものであった。



◆     ◆     ◆



「なぁシャオラン。リンファさんと何があったんだ?」


「う……ええとその……」


 ホテルの部屋にて、日向はシャオランに尋ねた。

 田中は今日も別のクラスメイトの部屋に遊びに行っている。


「な……何もなかったよぉ?」


「あれで何もなかったとか世紀末もいいところでしょ。流石に通らないわ」


「うぐぐ……」


「『リンファさんに告白されたけど、いい返事ができなかった』とか?」


「な、なんで分かったの!?」


「いや、当てずっぽうで……。それに、シャオランとリンファさんでどちらが先に想いを伝えるかって言われたら、行動力のあるリンファさんだろうなって」


「鋭い……! い、いやそれより、ボクはリンファが好きだなんて公言した覚えは一言も無いよ!?」


「公言はしなかっただろうけど、普段の接し方で大体わかるよ。二人の関係について聞かれたら、シャオランはめっちゃ動揺するし」


「はうっ!?」


「ロシアでよいどれ北園さんに抱き着かれたときなんか、リンファさんの名前出して押しのけようとしてたって」


「な、なんでそれを!? ヒューガ、その時は気絶してたよね!?」


「うん。本堂さんが言ってた」


「ホンドォォォォォ!!」


 これ以上は隠せそうにないので、シャオランはシンガポールフライヤーにて自分とリンファに何があったのかを話した。


「……というワケなんだ……」


「なるほど……そうなっちゃったのか……」


「ボクはもう終わりだよぉ……リンファの顔を見ることすらできそうにないよぉ……」


「そんなこと言っても、日本に戻ったら同じ家に帰るんだから、毎日顔を見ることになるでしょ」


「ヒューガぁ……キミの家に泊めて……」


「悪いが我が家はホームステイは受け付けてないんだ」


「ケチぃ……元はと言えば、ヒューガがボクらを二人にするから、あんな悲劇が起こったんじゃないかぁ……」


「ぐ、それを言われると……」


「こんなことになるなら、今まで通りの友達関係でいたかったよ……。あんな出来事、無ければよかった……」


 そう言って、すっかり消沈してしまうシャオラン。

 一方で、シャオランが言った通り、彼らを二人きりで観覧車に乗せた張本人たる日向も責任を感じていた。


(確かに、このまま二人が喧嘩別れしてしまったら、遠回しに俺のせいだよな……。ガラじゃないけど、なんとかシャオランだけでも元気づけて、仲直りさせないと。このままじゃ、俺が気まずい……)


 二人を仲直りさせるための動機が「二人のため」ではなく、あくまで「自分のため」であるところが何とも日向らしいが、とにかく日向はシャオランを元気づけるため、言葉をかけた。


「し、シャオランはさ、このマモノ災害での戦いを通して、強い男になることを目指してるんだよね?」


「そ、そうだけど……」


「実は、リンファさんも同じことを考えてたんだよ。この戦いでシャオランが強い男になって、世界を救うことができたら、自分に見合う男として家族に紹介できるかも、って」


「リンファが、そんなことを……?」


「うん。シャオランの目標とリンファさんの目標は一致している。つまり、シャオランが強い男になることができれば、リンファさんもついてくる」


「そ、そんな、景品の副賞みたいに……」


「けど実際、そういうことだろ? それに、シャオランは普段から勉強も頑張ってるし、すごく頭が良いじゃん。それこそ、大企業の次代を任せられそうなくらいに」


「あ、あれは、リンファの教え方が良いんだよ。リンファがいなければボクなんて、大した成績じゃないから……」


「たとえリンファさんの教え方が良いにしても、それでしっかり身に着けるシャオランの頭脳は本物だよ。じゃないと、そんなに日本語ペラッペラな説明が付かないし。俺なんか見てみろよ、狭山さんっていうチートを使っても悲惨な点数しか取れないぞ」


「それは……そうなのかなぁ……」


 シャオランの反応が、少しずつ軟化してきた。日向の言葉に影響を受けつつある。日向は、さらにシャオランに言葉をかけることにする。


「シャオランは、今まで漠然と『強くなりたい』って思ってたかもしれないけど、これからはしっかりと目標を定めてもいいんじゃないかな。『リンファさんに見合う、強い男になる』って。財閥の跡取りになれるような人間になるって」


「も、目標が高すぎるよぉ……。高すぎて吐き気がしそう……」


「いやいや、あまり気負わなくていいんだよ。マモノ災害を戦い抜けば、自ずとシャオランは強くなれる。『世界を救った英雄』というはくもついて、リンファさんに見劣りしない身分にもなれるはず。だからそのついでに、勉強を頑張ったり臆病な性格を克服したりして、将来のために備えればいいんじゃないかなって」


「な、なるほど……そういう考え方でいいんだ……」


「だと思うよ。まぁ、俺は言うだけだから苦労はしないんだけど、シャオランにしてみればやっぱり大変だよね……」


「かもね……。でも、やっぱりボクだって、リンファの想いに応えたい……」


 そしてシャオランは、日向に向かって微笑み、再び口を開いた。


「ヒューガ。ボクは明日、もう一度リンファと話をしたい。そして、今度はちゃんと、リンファに返事をしたい」


「ま、マジで!? 仲直りだけでもしてもらえれば、と思ってたのに、そこまで考え直してくれるとは……」


「いやヒューガ、キミの話は、完全にボクとリンファをもう一度くっつけようとしてたよ?」


「そ、そうかな? ……言われてみれば、間違いなくそうだな……」


「とにかく、ありがとうね。自分を変える第一歩、勇気を出してリンファと話すよ」


「えっと、まぁあれだ。ロシアではシャオランから元気づけてもらったし、そのお礼ってことで……」


 シャオランから礼を言われ、日向は照れくさそうに、誤魔化すように付け加える。


「律儀だなぁ、ボクは特別なことをした覚えなんて無いのに。……それにしても、ロシアといえば、ホンドーめ、よくもあの時の失言を言いふらしてくれたな……。ボクだって言った瞬間『しまった』って思ったよ」


「聞いてもないのに語ってきたぞあの人。……思い返してみれば、あの人が日影に酒を注いで、それを北園さんが飲んでしまったがために、あの惨劇が引き起こされたんだよな。日影に酒を与えた時点でそもそも問題行為だぞ」


「……帰ったら一発、ホンドーを殴ろうか」


「ほぉ珍しい。シャオランからそんな提案をするとは」


「そりゃあ、あの仏頂面のホンドーを殴るのはちょっと怖いけど……」


「「二人で殴れば怖くない!!」」


 イエーイ、とハイタッチを交わす二人。

 こうして二人による、本堂へのシンガポールみやげが確定した。



◆     ◆     ◆



「へぇー。あの時、そんなことがあったんだねー」


 一方、こちらは女子部屋。

 そこでは北園と小柳が、日向と同じようにリンファの話を聞いていた。


「はぁ……。身分が高いって、本当に面倒くさいわ。誰を好きになったってアタシの勝手でしょ?」


「そうだよねー。リンファってどうして、シャオランくんが好きなの?」


「まぁ、あれでいてカッコいいところもあるのよ。普段はちょっとアレだし、身長も小さいけど、何だかんだですごく努力家で、修行にだけは真摯しんしに向き合うし。筋トレしている時のシャオシャオって、人が変わったみたいに真面目でキリっとした表情になるのよ。一生眺めていられるわ」


「うひゃあ……聞いておいてなんだけど、ちょっと恥ずかしくなってきた」


「あ、アタシも今ごろ恥ずかしくなってきた……」


 ……と、ここで二人が話をしている間に、小柳が割って入る。


「んー。リンファさん。そんなにシャオランくんが好きなのに、お家の方が大事なんです?」


「え? それって……」


「リンファさんは、面倒くさい実家より、シャオランくんの方が大事に見えるのです。だったらもう、身分を捨ててシャオランくんの家で暮らす、というのも選択肢の一つだと思うのですよ。実家との縁も切れて一石二鳥なのです」


「わ、駆け落ちだー!」


「ちょ、本気で言ってるの!? ……でも確かに、企業はアタシがいなくても回っていけるだろうし、否定材料は見当たらないわね……」


 そしてリンファは、ふと今日の出来事を思い返す。


 考えてみれば、『シャオランを自分に()()()男に仕立て上げる』というのは、なんとも自分勝手だったのかもしれない。そのために嫌がるシャオランをマモノ退治に送り出す、というのも、結局はリンファ一人の都合に過ぎない。


「そうよね……。シャオランがアタシのところまで登り切れないのなら、アタシから降りてきたらいいんだわ。『自分のために自分のところまで来て頂戴』なんて、アタシの方がよっぽど子供でわがままだったわね……」


「じゃあ、シャオランくんと仲直りする?」


「ええ、するわ! どうせ日本に帰ったら、また一つ屋根の下の生活だもの! 問題はサッサと解決しないとね!」



 こうしてリンファは下を、シャオランは上を目指し始めた。

 二人の想いが、互いに知らないまま交錯し、夜は過ぎていった。

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