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第157話 想いを乗せてゴンドラは回る(田中組)

「おおー、凄い眺めです。360度見渡す限りの絶景です」


 こちらは田中と小柳が乗っているゴンドラ。

 あちらこちらとスマホを向けて、小柳はシンガポールの景色を撮影している。


「やっぱり二人ずつで乗って正解だったな。すまねぇなカナリア。いつもなら日向も写真なんて嫌がらないんだが、今回に限ってアイツなんか変だ」


「大丈夫です。人間、そういう日だってあるのです」


「そう言ってくれるとこっちも助かるぜ。……お、ここから日向たちのゴンドラも見えるな。日向はどうしてるかな。……あっははは、緊張のし過ぎで、借りてきたネコみたいになってるぜ」


 もともとは日向と北園のため、と思って提案した二人ずつ乗りだが、どうやらあの二人は大した進展なしで終わりそうだと思う田中であった。


「……あ、そうだ。カナリアの動画、俺も先日観たぜー」


「え、そうなのですか?」


「ああ。個人的には『コーラとラムネで風呂沸かしてみた』が気に入った。カナリアってあんな馬鹿なことができるヤツだったんだなって。バケツ一杯のラムネ飴見た瞬間爆笑したぜ俺」


「あー、あの動画ですかぁ。個人的にはユニークな発想だと思ったのに、いざ調べてみればたくさん先駆者がいたです。風呂はコーラ臭くなりますし、個人的には失敗作だったのです」


「へーそうなのか。裏事情ってヤツだな。……あー、あとは、『家のネコにお手を教え込ませてみた』も面白かったなぁ。ロシアンブルーとはいい趣味をしてるぜ。名前が『青のりくん』なのは笑ったけど」


「ああ、あれも観てくれたですか。わたしも、個人的にあの動画は気に入っているです。あの動画以来、青のりくんはお手を完璧にマスターしたのです」


「そうなのか。本当に面白かったからさ、評価とコメントつけてやったんだけど、見れくれた?」


「……え。気づかなかったです」


「おいおい……」


 急いで小柳は自身の動画を確認する。

 そこには確かに一点の高評価と、「青のりくん可愛い! エライ!」というコメントが付いてあった。


「わぁ。リアルの友達からとはいえ、人生初のコメントなのです。……コメントを貰えるって、こんなに嬉しいことなのですね。それとも、初めてだからより一層嬉しく感じられるのでしょうか」


「へへ。サクラ役ならいつでもやってやるぜ。だから、これからも動画作成頑張れよー」


 茶化すように声をかける田中。

 しかし小柳はそんな田中とは対照的に、真っ直ぐ彼を見つめて口を開いた。


「……応援してくれて、嬉しい。ありがとうね、田中くん」


「お、おおおおう……」


 田中は、思わずたじろいでしまった。

 普段無表情な小柳が、柔らかく微笑んでお礼を言ってきた。そのギャップに、田中の理性は薙ぎ倒されてしまった。


「あ、ああ。どういたしましてだぜ。そ、それと、いつものです口調はどこ行ったんだ?」


「あれはキャラ付けみたいなものだから。真剣に話す時くらいは外すよ」


「あれキャラ付けなのかよ……」


 しかしそれもまた、田中にとっては魅力的なギャップの一つとして写る。

 それに、小柳は普通に美少女なのだ。端正な顔立ちにシルクのような色彩と質感のロングヘアー。それら全てに田中は魅せられる。

 日向に北園を取られた(と思っている)田中にとって、新しい女性に惹かれ始めるのは無理もないことと言えるだろう。


「……もしかして田中くん、わたしにメロメロです?」


「ばっ!? ち、ちげーし!!」


 不意に図星を指された田中は、思わず強がって彼女の言葉を否定してしまった。せっかくの良い雰囲気が冷めていくのを感じる。


 なんだかいたたまれない気持ちになり、田中は他の話題を探し始める。


 ……と、日向たちのゴンドラを見てみれば、日向と北園が揃ってこちらに背を向け、ゴンドラから景色を眺めているのを見つけた。……本当は景色ではなく、リンファによるシャオランへの制裁を見ているのだが。


「アイツら一緒になって何を見てるんだろ? ……そうだ小柳! 今のうちに日向を撮っちゃえ! アイツ向こう見てるし、今なら気づかれねぇぞ!」


「う、うーん、大丈夫ですかね……」


 田中が嬉々として促してくるので、小柳は仕方なく日向と北園にスマホのカメラを向け、シャッターを切った。



 ……その写真の中に、日向の姿は無かった。



「は? あれ? どうなってるんだ?」


「お、おかしいです……。何度撮っても日下部くんが映らないです……。わたしのスマホの調子が悪い、ということも無いはずです……。どうなって……?」


「……まさか、アイツが写真を嫌がったのは、これが理由か……?」


 一体、自分の友人の身に何が起きているのか。

 田中と小柳は、自分たちの中で血の気が引いていくのを感じたのであった。


「……考えすぎかもしれねぇけどよ、写真に映らない謎の化け物が、日向に成り代わって人間社会に溶け込んでるってのは……いや、さすがに無いかな……」


「田中くん……。これ、日下部くんにどう言いますですか……?」


「……とりあえず、気づいていないフリをしとこうぜ。今は様子を見よう……。だけど、早めに確かめた方が良いのは間違いない。今日一日は気持ちを落ち着けて、明日にでも本人に聞いてみようか……」


「わ、分かりましたです」


 田中の言葉に頷く小柳。



 とうとう日向の『異常』が、クラスメイトにも知られてしまった瞬間であった。

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