第156話 想いを乗せてゴンドラは回る(日向組)
リンファがシャオランに告白をする少し前。
こちらは日向と北園のゴンドラである。
日向が正面を見てみれば、そこには席の真ん中にちょこんと座る北園がいる。
日向が北園を見ると、北園は微笑んで日向を見つめ返してきた。
(あ、アカン。呼吸困難になる。心臓が爆裂して死ぬ)
ふわりとした北園の笑顔を受けて、胸がドクンドクンと高鳴って止まらない。
「ねぇ日向くん。なんで急にリンファとシャオランくんをくっつけようとしたの?」
「いやその、言っていいのかなこういうの……」
「聞きたいなー。聞きたいなー」
(ぐ……かわいい……)
微笑みながら左右に揺れる北園に、日向は思わず口が緩くなってしまった。
「えっとその、あの二人、どうやら両片思いらしいんだ」
「へぇー! そうだったんだ! どちらかは相手の想いに気付いてると思ってたけど、意外だなぁー」
「それでちょっと、見ていられなくなったというか。せっかく観覧車に来たんだし、利用しない手は無いかなって」
「そっかそっか。二人がお付き合いし始めたら、日向くんは仲人役だね!」
「財閥令嬢の仲人役とか、重圧で胃が千切れそうだ……」
その日向の言葉を最後に、会話が途切れて沈黙の時間が訪れる。
さっきからずっとこんな調子である。
北園が日向に話しかけ、日向がその話に答え、そこからしばらくだんまりになる。北園が話しかけてばかりだ。
日向も必死に話題を探すが、ゲームのことばかりしか思いつかない。北園とは話が合わないだろう。
「……あー、北園さん。ゴメンね、さっきから喋らせてばかりで。退屈だよね、俺と一緒なんて……」
やっとのことで出た言葉が、この状況に対する謝罪であった。
他にもっと何か無かったのか、と再び自己嫌悪に陥る日向。
「ううん、全然大丈夫だよ。私は楽しいよ、日向くんと一緒で」
「一緒で……」
その単語を聞いた瞬間、日向の胸の動悸がさらに高まる。
彼の心臓はもはや爆裂寸前である。
「そ、そうか、ありがとう。こんなのと一緒にいる楽しみを見出してくれて」
「あはは、『こんなの』って……。そんなお礼言われたの初めてだよ」
「だ、だろうね。なんかゴメン」
「日向くん大丈夫? 顔が赤いよ。それに、さっきから妙にソワソワしてるし」
「あ、あぁ。何とか大丈夫」
「……えへへー」
日向を見つめていた北園が、ふにゃりと笑った。
突然の北園の笑顔に、日向は何が可笑しかったのだろうと首を傾げる。
「北園さん? どうしたの?」
「ふふふー、楽しいの」
「楽しい……?」
「日向くん、今、すごく緊張してるでしょー?」
「あぁ、まぁ、それなりに……」
「そういう日向くんを見てるのが、私は楽しい♪」
「~~~~っ!!」
日向の胸の動悸が最高潮に達し、心臓は爆ぜた。
恥ずかしさのあまり、赤くなった顔を両手で覆い、悶絶し始める。
(な、なんだその言葉は!? これ、下手すると気づかれてないか!? 俺が北園さんのことをどう思ってるか、気づかれてないかこれ!? 分かってて楽しまれているんじゃないか!?)
あわあわと目に見えて動揺している日向を、北園は満面の笑みで眺めている。
とにかく心を落ち着けるべく、日向はゴンドラの外の景色に視線を逃がす。
ちょうど日向たちのゴンドラは観覧車の頂上に差し掛かっており、後ろを見てみればシャオランたちが乗っているゴンドラも見える。
(……ん? なんだ? シャオランたちのゴンドラ、何が起こってるんだ?)
ゴンドラは全面ガラス張りであるため、外からでも中の様子がよく分かる。
リンファとシャオランの様子がおかしいと感じ、日向は二人が乗っているゴンドラを見る。
その中では、リンファがシャオランに掌を叩きつけている最中であった。
(え、えー!? なんで!? 俺が目を離しているスキに一体何が起こったの!? 中国式夫婦の営み!? なんで大乱闘スマッシュチャイニーズが勃発してるの!?)
しかしシャオランはリンファを攻撃せず、ただじっと耐えているだけのようだ。そんなシャオランに対し、リンファはお構いなしに猛攻撃を仕掛ける。
リンファの掌底がシャオランを吹っ飛ばす。
ガラスの壁に叩きつけられたシャオラン。
そこへリンファがさらに連撃を加える。
縦回転で両の掌を叩きつけ。
シャオランの袖を引っ張りながら蹴り飛ばす。
再び壁に叩きつけられたシャオランの胴体に双掌打を打ち込んだ。
(リンファさんがぁ! 捕まえてぇぇ! リンファさんがぁ! 画面端ぃぃっ! バースト読んでえぇっ! まだ入るぅぅ! リンファさんがぁ! ……つっ近づいてぇっ! リンファさんがぁ決めたぁぁーっ!!)
壁を背に、ずり落ちるように倒れたシャオラン。リンファの圧勝であった。
……しかしリンファはシャオランを無理やり立ち上がらせ、再び攻撃を加える。
(あー!? ヤバい!? シャオランの回復を待たず第二ラウンド開始だぁっ!? 10連コンボをもう一発、フルコースでお見舞いする気だぁっ!?)
気が付けば、日向はもう身体ごと後ろを向けて、二人の勝負を見ていた。
北園もリンファたちの様子に気付き、日向と一緒になって観戦している。
「……えーと、とりあえず、リンファに精神感応送って止めてみるね……?」
「う、うん。任せた」
ともあれ日向は、リンファの計画の失敗を悟ったのであった。