表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/1700

第17話 三人目の仲間?

 日向と北園の二人は必死に頼んで、何とか「三人目の仲間」と思われる人に話を聞いてもらえるところまでこぎ着けた。


 その男は「うわぁ面倒くせぇ」と言いたげな目線を投げかけていたが、北園が持ち前の押しの強さを見せて何とか丸め込んだ。


 そして三人は、街の一角の喫茶店で話をすることにした。



「三人目の仲間」と思われるこの男の名前は本堂 仁(ほんどう じん)


 年齢20歳の予備校生だという。しかし、知的な雰囲気と高身長で、実年齢よりもっと大人びて見えるのが印象的だ。また、北園の予知夢の通り、メガネにコート、首には女性もののシルバーのネックレスをつけている。


 現在、北園が本堂に対して「世界を救う予知夢」について熱演しているところだ。


「で、その予知夢の内容が『五人の少年少女たちが太古よりこの星に巣食う、大いなる悪意に立ち向かう』っていうものなの!」


「…………。」


「それで、その五人の中の一人が、貴方だと思うの! 私たち!」


「…………。」


「お願い! 世界を救うために、貴方の力を貸して!」


「…………。」


(隣で北園さんの話を聞いていて、改めて思うけど、俺、よくもまぁこんな怪しい話を信じる気になったよなぁ……)


 まだ北園の話を信じていなかった自分を思い出す日向。

 見れば、本堂も怪訝そうな表情をしている。

 

(俺も最初に話を聞いた時は、あんな表情をしていたんだろうなぁ)



「……話は終わりか?」


「あ、はい、終わりですけど……」


「そうか。悪いが断らせてもらう」


「えぇー!? そんなぁ!?」


「君たちの遊びに付き合ってやれるほど、此方こちらも暇ではない」


 北園の必死な頼みを、本堂は冷酷なまでにバッサリと斬り捨てる。


 だが実際、こう反応されるのも無理はない。

 普通の人間の感性であれば、何らかの怪しい勧誘と思われるのがオチだ。


「日向くん! 日向くんも何か言ってやってよ!」


「むしろ、よくそんな真正面からぶち当たって信じてもらえると思ったね……」


「あれぇー!? 日向くん、こっちの味方だよね!?」


「今この瞬間だけはあっちの味方だよ」


「あれぇー!?」


 味方がいなくなってしまった北園。

 すると、ここで思わぬ行動に出る。


「そうだ! 私、あなたのことを予知夢で見て、似顔絵も書いたんですよ! これを見……」


「うおおおおよせ北園さん!? あんなの見せたら名誉毀損で訴えられかねん!」


「あんなのって」


 似顔絵を見せようとする北園を、日向は何とか阻止する。


(これ以上北園さんに任せていたら、また先ほどのような蛮行を犯しかねん。俺が何とかしなければ。……とは言え、こういう交渉みたいなの、苦手なんだけどなぁ。なんなら人と話すこと自体が苦手だし……)


 とはいえ、このまま北園に任せっきりではらちかない。

 意を決して、日向も本堂に話しかける。


「えーとですね、大変信じられないでしょうが、マジなんですよ、この話」


「君もそう言うのか。勘弁してくれ。此方こちらは忙しい。そういう設定のごっこ遊びは、然るべき友人たちと共にやってもらいたい」


「あー、やっぱりそう思ってます?」


「それはそうだろう。それで見ず知らずの人間に声をかけるなど、悪いが君たちの神経を疑いそうになる」


「じゃあ、彼女が『本物』だと証明すれば、少しは信じてもらえますかね。では北園さん、やっちゃってください」


「りょうかーい! 見せてあげるよ、私の超能力!」


 そう言って北園は、本堂に超能力を披露していく。

 日向にしてみせた時と同じように、本堂が彼女を異能力者だと知れば、少しは二人を見る目も変わるだろうという考えだ。


 北園は手から炎を出し、お冷をコップごと凍らせ、空のコップや食器を宙に浮かべ、本堂に精神感応(テレパシー)を送った。


「む……。これは、一体どういう仕掛けだ……?」


「種も仕掛けも無いですよ! 超能力ですから!」


 胸を張る北園。


「あ、本堂さん、そこの窓見てください。誰かが映っていませんよね?」


 日向が窓ガラスを指差す。

 そこに映っているのは、北園と、本堂。二人だけだ。


「……君が映っていないな。どうなってるのだ?」


「俺も知りたいです」


「???」


 怪訝な表情を浮かべる本堂。

 そんな本堂に、北園はドヤ顔で詰め寄った。


「さぁどうです!? 私が超能力者だって分かってくれましたよね! それで予知夢のことも信じてくれますよね!?」


「……まぁ、そういう人間もいるんじゃないか。それで予知夢とやらを信じる気は起きないし、協力する気にもならないがな」


「「えぇー!?」」


 今度は逆に二人が驚かされた。

 こんな珍妙(ちんみょう)奇天烈(きてれつ)摩訶不思議(まかふしぎ)な存在が、目の前に二人もいるのに、この本堂という男、まるで興味無しである。


「じ、じゃあこれならどう!? 本堂さん、私の手を握って!」


 そう言って北園が自身の右手を差し出す。

 それを見て、日向はあの忌々しい記憶が呼び起こされた。


(あれはアレだ、電撃流すヤツだ……)


 あの時の衝撃を思い出し、そっと右手に左手を添える日向。

 日向の中で、電撃が軽くトラウマになりつつある。

 

「……洗脳とかしないだろうな?」


 そう言いながら、本堂はしぶしぶ右手を差し出し、北園の手を握る。

 


 そのまま、数秒の時が流れた。



「……あれ? あれれ?」


「……どうした。何かあったのか」


「あれぇ? おかしいなぁ……。本堂さん、何か感じなかった?」


「……別に、何も」


 少し間を置き、本堂は答えた。


 これは一体どういうことか。

 本堂は全くの無反応だ。

 その様子は、とても電撃を受けたようには見えない。

 北園は電撃を流せなかったのだろうか?


「もう終わったか? じゃあ、俺は帰らせてもらう」


 そう言って本堂は席を立つ。


「あっ、待って!」


「悪いがお断りだ。此方は受験を控えている身だ。他を当たってくれ」


「そんな! あなたじゃないと駄目なの!」


「しつこい。俺は興味が無い」


 ぶっきらぼうにそう言い捨てつつも、本堂は律儀に自身の食事代を置いて店を出ていった。



「こうしちゃいられない! 日向くん、お会計お願い!」


「へ? 何する気?」


「もちろん、後を追うんだよ! 勧誘は失敗したけど、来るべき時のため、せめてあの人の自宅くらいは突きとめてなきゃ!」


「うっへぇ、よくやるよ……。店員さーん、お勘定お願いしまーす」


 そう言って、二人も店を出る準備を始めたのだった。



◆     ◆    ◆



「やれやれ。とんだ時間の浪費だった」


 中心街の道を歩きながら、思わず悪態をつく本堂。


(俺が世界を救う? そんな馬鹿げた話、信じる必要は無い。そも、俺には受験がある。今年で二浪目。彼らの遊びに付き合っている暇は無い。万が一、俺が世界を救う運命にあるとして、俺に世界を救うのに役立つ力など……)



「……まぁ、無くは無いか」


 そう呟き、電気を流された右手を見つめた。




 本堂の自宅は、中心街から少し離れた住宅街の一角にある。

 パッと見ても分かるほど家は大きく、レンガの外装のモダンな造りである。


「さて、舞ももう帰っているだろうな。すっかり遅くなってしまった。何も言われなければいいが」


 舞とは、本堂の妹だ。歳は5つ離れており、現在中学3年生である。マンガ好き、アニメ好きな面もあるが、家事全般も得意な出来る女子である。自分の受験もあるだろうに、兄の朝食と夕食を作ってくれる甲斐甲斐しさも持っている。


(舞の為にも、今年こそは何としても志望校、東大医学部に受かってみせる)


 本堂が自宅のドアを開けると、ふと、あることに気づく。


「なんだ、これは。何の跡だ……?」


 廊下に、なにか濡れたものが引きずられていったような跡がある。

 それはズルズルと、リビングまで続いているようだ。


「舞の仕業か? 何をしているというのだ?」


 リビングの戸は開きっぱなしである。几帳面な妹にしては珍しい。

 本堂はリビングに入り、舞を呼ぶ。


「舞、いるのか? この濡れた床は一体何なのだ?」


 そこまで言いかけ、本堂は言葉を失った。



「お兄ちゃ……ゴボッ……」 


 目の前の、妹が取り込まれた、謎の液状球体の姿を見て。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 北園「あなたじゃないと駄目なの!」 通行人「なんだなんだぁ?」 通行人「痴情のもつれか?」 通行人「あれだよトライアングラーだよパパ!」 [一言] おいおい本堂。 世界終わったら受験ど…
[良い点] そりゃ受験生だもんね。 本堂君も断わるよ~。 [気になる点] 日向くん、財布あつかいなの~! そんで、舞ちゃんピ~ンチ!
[良い点] 本堂、良いキャラですねー。 自分的には〝カオスヒーロー〟が脳内再生されてしまいましたが、作者様のイメージ的にはどうなんでしょう? 展開が速くてめちゃ面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ