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第1643話 最高の置き土産

 時間は少し(さかのぼ)る。


 日向と狭山がこの星の全土を巻き込むほどの最終決戦を繰り広げていた時、日影とエヴァはその戦闘の余波に巻き込まれないように身を隠していた。エヴァはまだ満足に身体を動かせず、日影が彼女を抱えて移動している。


 身を隠していたとは言っても、二人の戦闘が惑星規模で激しすぎるので、どうにもならず頻繁に巻き込まれていた。何度か狭山の攻撃で吹き飛ばされたり消し飛ばされたりしていたが、そのたびに地平線の向こうから届く日向の”再生の炎”で瞬時に肉体を再生させられていた。


 岩陰に身を隠しながら、目視できないほどの遠距離で繰り広げられている日向と狭山の戦闘の様子を見ている日影。日向たちの姿は見えないので、その戦闘によってまき散らされる余波がここまで届くかどうかを観察している形だ。


「……インフレここに極まったって感じだな。マモノと戦い始めたころ、まさか最終的にこんなバトルが繰り広げられるなんざ夢にも思わねぇよ」


 感心を通り越して、(あき)れたような声でつぶやく日影。


 ……と、その時だった。

 日向たちの戦闘の余波に巻き込まれてか、一本の赤い鳥の羽らしきものが風に乗って飛んできた。


 ちょうどその羽は、日影の目の前をふわふわと舞う。

 反射的に、日影はその赤い鳥の羽をキャッチした。


「なんだこりゃ。鳥の羽か? この『幻の大地』で暮らしていた野鳥が、アイツらの戦いに巻き込まれちまったか? まぁ、日向の炎が消えない限り、巻き込まれてもオレたちみたいに復活はできるだろうが……」


 キャッチした鳥の羽を眺めながら、そうつぶやく日影。

 すると、彼の足元に横たえていたエヴァが、弱々しく声を発した。


「日影……その羽を、見せてください……」


「エヴァ、意識が完全に戻ったみてぇだな。この羽を見たいのか? ほらよ」


 日影はしゃがみ込んで、横になっていたエヴァに赤い鳥の羽を渡す。


 その羽を見たエヴァは、目を輝かせて、微笑みを浮かべた。

 普段あまり表情を表に出そうとしない彼女としては、とても珍しいことだった。


「ヘヴン……。これは、ヘヴンの羽です……」


「ヘヴンの羽だと?」


 ヘヴン。

 マモノ災害時、ゼムリアと共にエヴァの補佐を務めていた赤い鳥のマモノ。そして、この『幻の大地』に流れ着いたエヴァの保護者も務めていた。


 彼はエヴァを無事に勝たせるために、様々な手管(てくだ)を用いて日向たちを始末しようとした。そして最終的に日向と一対一で戦い、倒された。


 ここで日影は思い出す。日影たちが最初に狭山と戦って敗れた後、皆でこの『幻の大地』から元の世界へ逃げたのだが、その時に日向がエヴァを抱えて運び、その際に彼女がヘヴンからもらっていた羽を落としてしまった、という話をしていた。中国のリンファの屋敷での雑談だ。


 以前落としてしまったヘヴンの羽が今も残っていて、それが偶然にもエヴァのもとへ帰ってきた。この星の行く末に関わる出来事ではないが、小さくも明るい奇跡だ。

 エヴァは、(うしな)ってしまった大切な存在を懐かしむように、そのヘヴンの羽を優しくなでていた。そんな彼女の様子を見て、日影も少し元気づけられた。


 すると、そのヘヴンの羽をなでていたエヴァが驚いたような表情を見せ、羽をなでていた手を急に止めてしまった。


「どうしたエヴァ?」


「この羽……微量ですが『星の力』が込められています……」


「なんだと?」


「もしかしたら、万が一を想定して、私のためにヘヴンが残してくれたのかもしれません。とはいえ、これだけ微量だと、日向と狭山誠の戦闘に割って入るような真似は到底できませんが……」


 しかしその時、二人の話を(さえぎ)るように、大地を揺るがす轟音が鳴り響いた。それと同時に地面の大きな揺れを二人は感じる。日向が空中で狭山に叩き落とされて、日影たちの現在位置の近くに激突したのだ。


 日影とエヴァがその方向を見てみると、日向が叩き込まれた衝撃で、かち割られた大地がひっくり返ってしまっていた。あともう少し日影たちが日向の落下位置に近かったら、ひっくり返った岩盤に巻き込まれて、飛ばされてしまっていただろう。


「アイツら、こっちに来やがった! 離れるぞ! 消し飛ばされたりするだけなら復活させてもらえるが、瓦礫(がれき)の下に生き埋めにでもされたら、復活しても動けなくなっちまう!」


「待ってください日影。どうやらあの二人、いよいよ勝負を決めるつもりのようです。共に最強の一撃をぶつけ合うつもりでしょう」


「だったらなおさら、ここにいるのは危なくねぇか!? いくら”再生の炎”がまき散らされているとはいってもよ!?」


「しかし、近くで見届けたいとも思いませんか? この星の行く末……あの二人のどちらが勝利するのか……」


「そうは言っても、日向に勝ってもらわねぇと困るわけだが……まぁ気持ちは分かるが……」


「それに恐らく、今の彼らの最強の技となると、この星全土を巻き込むほどの破壊力が発生するかと。つまり……何処へ逃げても同じでは?」


「…………うん。それもそうか」


 意見は一致し、二人は近くの地面のひび割れの中に隠れ、日向たちの攻撃の余波に巻き込まれないようにしながら、二人の最後の勝負の瞬間を待つ。


 そして、日向と狭山、二人の光線が激突。

 日影とエヴァはさらに地面のひび割れの中に身を隠しながら、頭と目だけを出して、その激突を見守っている。


「あの狭山誠の光線の余波だけで、九回か十回は死にましたね、私たち……」


「オレたちの……オレたちの命が軽い……」


 すると、その見守っていた最中に、日向が劣勢に立たされる。

 狭山の光線を押し切るために”再生の炎”まで『太陽の牙』に回したのは良いものの、その火力と出力を支えきれず、体勢が崩れそうになっていた。


「日向の野郎、このままだとやべぇぞ! 倒れちまう! 支えに行ってやりてぇが、この衝撃波の中じゃ近づけねぇ……!」


「ヘヴンの羽に込められていた『星の力』を使います! 突風の防護壁を張って、日向のもとまで向かいます!」


「おお、行けるのかよ! ヘヴンのヤツ、結果的にだが、最高の置き土産を(のこ)してくれたってワケだ!」


 その後、エヴァはタイミングを見計らって地面のひび割れから飛び出し、衝撃波をかき分ける突風の防護壁を展開。日影もエヴァの後ろに隠れて、二人は日向を助けに行ったのである。



◆     ◆     ◆



 そして現在。


 エヴァが両手と全身を使って、倒れそうになっている日向の背中を支えている。そして日影は、日向が手放しそうになっていた『太陽の牙』を、日向の両手ごと掴んでしっかりと握らせている。


 日影は日ごろの鍛錬によって、そしてエヴァは”生命”の権能による肉体強化が残っているので、日向以上の身体性能を持っている。一人では『太陽の牙』を支えきれなかった日向だったが、この二人が加わってくれたなら話は別だ。


「ここまで来て負けたら、この星で史上最大の恥になっちまうぞ! 気合い入れろ日向ぁ!」


「終わらせましょう日向! 私たち三人で!」


「二人とも……! ああ、俺たち三人で……」


 日向がそう言いかけると、彼の頭の中で北園の声が聞こえた。


(私もいるよ、日向くん!)


 その声が左の方から聞こえた気がしたので、日向は左を見てみる。

 そこに北園の姿は無かったが、暖かな気配が確かにそこにいるのを感じた。


「そうだった。ごめん北園さん。俺たち四人で……いや、それも違うか。この星の皆で、終わらせよう!」


 その日向たちの決意も乗ったのか、『太陽の牙』の火力と出力がさらに引き上がったように見えた。


 日向が、『太陽の牙』を縦方向へ一気に振り抜く。


「うおおりゃあああああっ!!」


 日向の熱線と、狭山の超規模の赤黒い光線。

 空の真ん中で激突し、押し合っていた二人の攻撃。


 遂に日向の熱線が、狭山の光線の中心を貫いた。

 一条の黄金色の光が、赤黒い奔流の中をぐんぐんと昇っていく。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 その赤黒い奔流の発射地点。

 惑星のような”怨気”の球体の中心点にいる狭山。


 彼の視点からは、おどろおどろしい赤黒く染まった視界の中、輝かしい黄金の光が少しずつ、少しずつ、近づいてくるように見えていた。


 この星の未来を願う、人々の祈り。

 生き残った人々の無事を願う、皆の想い。

 日向たちの勝利を願う、仲間たちの応援。


 それらを乗せた光の束が、いよいよ狭山の目前に迫る。


「ああ……。とても……綺麗だ……」


 およそ、この星を滅ぼす魔王とは思えない台詞をつぶやいて。

 狭山誠は、地上から飛んできた熱線に巻き込まれた。

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