第1641話 最終決戦、星の行く末
太陽の勇者と、魔王アーリアの最終決戦が始まった。
まずは狭山の攻撃。日向から十キロほど距離を取り、六本の”怨気”の手の指……合わせて三十本の指から赤黒い光線を放つ。その光線の速度と出力は、十キロ離れている日向にも一瞬で届くほど。
しかし、日向は目視できないほどの速度で狭山に接近しつつ、飛んできた光線は剣で弾く。
光線をくぐり抜けた日向が、一気に加速して狭山に激突。
狭山もバリアーを展開して日向を受け止め、周囲に熱波がまき散らされる。
正面からの力比べでは勝てない。
狭山はそう判断して、日向をいなして空へと避難。
同時に狭山は空に”怨気”の雲を作り出し、日向に赤黒い雷を次々と降らせた。
その雷の威力は、まさに神の怒り。
地上に一発着弾するだけで、都道府県一つが消し飛ぶであろう大爆発。
そのような落雷が、一秒経たずに何十発と日向めがけて撃ち込まれる。
やがて雷撃の爆発に耐え切れず、『幻の大地』そのものが砕けてしまった。
爆風で日向の姿が見えない。
すると、爆風の中から日向が大きく飛び上がって、地上の狭山めがけてギガイグニート状態の『太陽の牙』をまっすぐ振り下ろした。
緋色と黄金色に輝く光剣も、普段と違って空まで届きそうなほどに刀身が延長されている。もちろん、刀身が発する熱も何十倍にも引き上げられている。
「はぁぁぁっ!!」
狭山もまた、左右二本の大きな”怨気”の腕に、これまた地の果てまで届きそうなほどの奔流状の”怨気”の剣を発生させ、日向の斬撃を受け止めた。
狭山はしっかりと日向の斬撃を受け止めたが、狭山の下の大地はその衝撃に耐えきれず、地面が盛り上がって新しい山が大地に形成されるほどだった。
二人の剣がぶつかり合い、熱波と”怨気”も強烈に発散させられ、周囲の瓦礫や草花が地盤ごと吹き飛ぶ。
日向はそのまま狭山を押し切ろうと、受け止められている『太陽の牙』を押し込みにかかる。
こうして押し込みながら、その身から発する熱波を浴びせているだけでも、狭山の全身を焼き焦がすことができる。
これに対して狭山は、新たに二本の”怨気”の腕を生成。
その赤黒い両手の中に、赤黒い風の渦を発生させる。
そして、その二つの風の渦を赤黒い巨大竜巻のようにして、目の前の日向めがけて撃ち出した。
日向は、この攻撃を受けるのは危険だと判断し、大きく飛び退いて竜巻を回避。
その日向の予感は正解だった。この二つの風の螺旋は次元を断裂させるほどの切れ味を持っていた。アレに巻き込まれていたら、せっかく復活した『太陽の牙』もバラバラに切り刻まれていただろう。この風の余波だけで大地が裁断され、遠くに見える山も竜巻に巻き込まれ、粉々に捻じ切られた。
回避した日向を追撃するため、この赤黒い竜巻を振り回そうとする狭山。
それよりも早く、日向が狭山の懐に潜り込み、緋色の光剣を横一文字に振り抜いた。
狭山は素早くバク転を繰り出し、日向の斬撃を回避。
剣が振り抜かれた余波で放たれた超熱は、地平線の先まで届いた。
バク転一回で日向から一キロ以上離れた狭山は、一本の大きな”怨気”の腕で、これまた大きな赤黒い氷の槍を作り出し、前方の日向めがけて投げつけた。
その投擲速度は日向の飛行速度よりも上だ。氷の槍が投げられただけで、貫かれた空気の壁が周囲に衝撃波をまき散らす。
日向は長大な光剣となっている『太陽の牙』を振り下ろし、飛んできた赤黒い氷の槍に叩きつける。
激突の瞬間、氷の槍が冷気を爆散させた。
そして、日向と、日向の後方の大地を扇状に凍らせた。
百キロ以上にわたって、日向の後方が赤黒い氷の大地と化してしまった。
氷に包まれた日向だが、一秒かからずに解凍。
ついでに、彼が発する熱波が、後方の百キロ以上の氷の大地も一緒に融かして消滅させた。
そのまま再び狭山との間合いを詰めようとした日向だったが、突如として日向の目の前の大地が大きく、そして勢いよく盛り上がり始める。まるで大地を突き破って龍が天に昇ろうとしているかのような迫力だ。
盛り上がった大地は本当に天まで届き、作られたのは超巨大な大地の手だった。その大地の手は動き出し、日向を手のひらで押し潰そうとしてくる。おまけにこの手のひらには、”怨気”が混じった超規模の震動エネルギーが込められていた。
それこそ、かつて戦ったグラウンド・ゼロにも匹敵するほどの、あまりにも巨大な大地の手。根元から指先までの標高は推定一万二千メートル。根元の横幅は四百キロメートル。この手のひらが震動エネルギーを大地に打ち込めば、地球そのものが半壊しかねない。
これに対して、日向は『太陽の牙』を横一閃。
刀身から放たれた熱波が、大地の手の根元、その端から端まで緋色の斬撃痕を刻む。
次いで、手の根元が大爆発。
たったの一撃で、大地の手は真っ二つに焼き斬られた。
山が壊れるような轟音と共に、大地の手が崩落していく。
超震動エネルギーが込められた大地の手のひらが、そのまま日向めがけて落ちてくる。
その手のひらに向かって、日向は一瞬で何十発もの斬撃を放つ。
これによって撃ち出された熱波が、空中で大地の手のひらを細切れにした。
細切れにされたことで、手のひらに込められていた超震動エネルギーも消滅。日向はそのまま地上を飛び立ち、大地の手のひらの向こうの空にいた狭山に一瞬で肉薄。
「いやはや、これでも止まってくれないか! まったく、とんでもないどころじゃない超火力だね!」
「元より俺の戦いなんて、火力くらいしか取り柄が無いですからね!」
向かってきた日向に対して、狭山は再び奔流状の”怨気”の剣を作り出し、日向と打ち合いを始める。
その身を輝く炎に包み込んで飛行する日向と、赤黒いオーラ状の翼を背中に広げて飛行する狭山。超音速で飛行する両者。二人が空中ですれ違う時、世界の果てまで届くのではないかと思うほどの剣の激突音が鳴り響く。斬撃の余波は地上にまで届き、地割れのような切れ込みを刻む。
やはり単純な速度と馬力では日向の方が上だ。本物の太陽にも劣らない超熱をエンジンにして、狭山を押し込み続けている。
しかし、老獪さでは狭山の方が圧倒的。自身の倍近い速度で動く日向の行動、攻撃のタイミングをしっかりと見切り、的確に反撃を差し込んでくる。
今の日向の”再生の炎”は、たとえ狭山の攻撃で肉体が消滅しようとも一瞬で再生できるほどの回復力がある。ただ、その炎は攻撃や飛行にも使用しており、皆の祈りの量に対して消費の方が大きいらしく、炎のエネルギーが少しずつ尽き始めているのを日向は感じていた。
「そろそろ勝負を決めないと、ガス欠になるか……!」
……と、その時だ。
日向の熱波を長時間浴び続け、さらに何度も日向の斬撃を受けてきたからか、狭山の動きが鈍り始めた。表情は微笑んでいるが、その微笑みもやや苦しげに見える。
畳みかけるチャンス。
そう判断した日向は、一気に狭山に斬りかかった。
だが、これは狭山の誘い込みだった。
日向の斬撃を飛び上がって回避し、真上から”怨気”の掌底を叩きつけてきた。
「はっ!!」
「しまっ……うぐっ!?」
銃弾のような速度で地上に叩きつけられた日向。
その落下の衝撃で、大地がひっくり返ってしまった。
粉砕されてめくれ上がった四方の地盤が、その勢いのまま前に倒れたのである。
崩れた大地の下に生き埋めになった日向だが、その身から発する熱波で瓦礫を全て吹き飛ばして脱出した。
脱出し、大穴の外に着地した日向だが、狭山の姿が見当たらない。
地上はもちろん、先ほどまで二人が戦っていた空中にも。
だが、その空中のさらに先。
この星と宇宙空間のはざまに、赤黒い星のような光が輝いていた。
日向は、察した。
間違いなくあそこに狭山がいる。
そしてきっと、これから何かを仕掛けてくるつもりなのだと。