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第1636話 知らない何処かで

「ここは、どこだろう……」


 日下部日向は、まず最初にそう思った。


 空は、星々の輝きが美しい夜空だ。

 夜の(とばり)の中に、光り輝く砂をあちこちに()いたかのよう。


 大地には草原。

 見渡す限りの草の海のど真ん中に、日向は立っていた。

 青白い月光に照らされて、草原もまた薄い青と白に染まっている。


 最初は、ここは『幻の大地』かと日向は思った。

 しかし現在、『幻の大地』は狭山との戦闘の場になっており、空は”怨気”の赤黒い色に染まり、大地は荒れ果てていたはずだ。


 そう考えて、日向はようやく思い出す。

 先ほどまで自分は、狭山と戦闘を繰り広げていたことを。


 狭山の策略でエヴァを『太陽の牙』で貫いてしまった。

 エヴァから奪った『星の力』で、狭山はパワーアップしてしまった。


 そして、自身の”最大火力(ギガイグニート)”も一切通じず、『太陽の牙』を(こわ)された。


「そっか……俺は……負けたのか……」


 思った以上にすんなりと、日向は自分の敗北を受け入れてしまっていた。


 ここで狭山を止めなければ、この星が終わってしまう。

 まだ生き残っている大切な人たちも、みな死んでしまう。


 そんなことは分かっているのだが、日向の胸の中はどうしようもなく満たされていた。


『太陽の牙』が破壊されたからだろうか。少し前まであれほど闘志が燃えていたはずなのに、今はと言うと、再び立ち上がろうとする意志が、いっそ笑えてくるくらいにまったく湧き上がってこない。


 まるで、ただそこに立っている木になってしまったかのようだ。

 まるで、ただ宇宙を漂い続けているデブリになってしまったかのようだ。


 空の星を見上げているだけで、このまま一生分の時間を過ごせそうだった。


 しかし、それで問題ないかもしれない、とも日向は考えた。


 あの狭山の能力は、あまりにも圧倒的だった。”最大火力(ギガイグニート)”も通じなかった以上、復活することができたとして、いったい何ができるのか。


 エヴァの『星の力』を奪われた時点で……いや、日向がエヴァを刺し貫いてしまったあの時点で、もう日向たちの敗北は決定してしまったのだろう。


「敗因は、俺か……。結局、俺じゃ無理だったんだな……狭山さんを倒すなんて……狭山さんを超えるなんて……。本当に、久しぶりに思ったけれど、俺以外の誰かが『太陽の牙』を拾ってくれたらよかったのになぁ……」


 目を細め、遠くを見るように星空を見上げながら、日向は悲しそうにそうつぶやいた。


 その時だった。

 誰かが日向に声をかけてきた。


「あきらめないでよ」


「え?」


 先ほどまで、周りには誰もいなかったはずだ。

 この草原は見晴らしが良い。誰かが隠れられそうな岩なども転がっていない。


 声の主を確認するため、星空から前方へと視線を降ろす日向。

 そこには、見慣れない小さな女の子がいて、日向の顔を見上げていた。


「あきらめないでよ、おにいちゃん!」


「いや、お兄ちゃんって、俺は一人っ子だよ。君はいったいどこの子だ?」


 ……と、その時。

 また別の誰かの声が、日向の耳に入ってきた。


「まーったく。お兄ちゃんって呼ばれたらすぐ妹キャラに変換しちまうたぁ、お前もう人間として終わりだぜ?」


「はぁー? だってイントネーションが完全に妹キャラのそれだったじゃんか。というか誰だ今の声。すごく聞き覚えがある気がするんだけど」


 今の声は背後から聞こえた。

 振り返ると、そこにいたのは日向の同級生の田中だった。


「まっ、人間として終わってるのは俺も同じだけどな! 良いよな妹キャラ! ウチには姉ちゃんしかいねぇから憧れるんだよなー可愛い妹! どうしてウチの父ちゃん母ちゃんは俺でストップしてしまったのか!」


「田中……? なんで? お前、死んだはずじゃ……」


「俺だけじゃないぜ? 周りを見てみろよ」


 田中に言われて、周りを見てみる日向。

 いつの間にか、無数の人々が日向を取り囲んでいた。


「え!? この人たち、いつの間に……!?」


 日向を取り囲む人々は、特徴がそれぞれあまりにもバラバラ。迷彩柄の軍服に身を包む自衛隊員らしい人もいれば、学校のクラスメイトもいる。アメリカのマモノ討伐チームで見覚えのある顔もいるし、まったく見覚えのないサラリーマンらしき人もいる。


 お年寄りから小さな子供。

 国籍も肌の色も全員がバラバラ。

 優しそうな人。怖そうな人。変わってそうな人。静かそうな人。

 富んでそうな人。貧しそうな人。強そうな人。弱そうな人。


 とにかく、あまりにも多種多様な人々が、日向の周りに集まっていた。


「日向くん! 頑張ってくれよ!」


「少年! 立ち上がれ!」


「頼むよ! この星をどうにかしてくれ!」


「がんばって、おにいちゃん!」


 よく知っている顔も何人かいる。日本のマモノ討伐チームの狙撃手である雨宮隊員に、水の九尾のキツネのマモノであるスイゲツ。飛空艇の操縦士として活躍してくれたアラム少年と、そのパートナーのロックフォールとユピテル。ロシア兵のアンドレイや、アメリカのマモノ討伐チームの女性隊員ニコもいた。


「まだやれるだろう、日下部くん?」


「コーン!」


「ヒュウガ兄ちゃん! 頑張って!」


「ケェェェン!」


「君は我々に何度も勇気を与えてくれた。今度は我々が、君に勇気を与える番なのだろうね」


「さっさと復活しないと蹴り飛ばすわよ」


「皆さん、なんでここに……。というか皆さん、そろってお亡くなりになっていたはずでは……」


 困惑しっぱなしの日向。

 そんな彼に、また別の人物が声をかけてきた。

 勝気と皮肉っぽさが混じった、幼い少女の声だった。


「察しが悪いわねー。らしくないわよ日下部日向。実際、ここにいるのは狭山誠の”最後の災害(テラ・バスタード)”で命を落とした連中よ。私も含めてね」


「あ……オリガさん!?」


 ここにいる他の皆を見た時以上に、驚愕の表情を見せた日向。

 それを見たオリガは、どこか嬉しそうにニヤリと微笑んだ。


「『あなたも含めて、なんで皆がここにいるんですか!?』って(ツラ)してるわね。答えてあげるわ。良乃に呼ばれたからよ」


「北園さんが……オリガさんたちを呼んだ?」


「アンタに声援を送ってほしいんだって。現在進行形で、この星のあらゆる人間に声を届けてるわよ。ほら、アンタも耳を澄ませてみなさいな」


 オリガに言われて、日向は耳を澄ましてみる。

 すると確かに、北園の声が聞こえてきたのだ。


(この星のみなさん! どうか日向くんを応援してください! 日向くんたちは今、この星を守るために戦っているんです! みなさんの力を、日向くんに貸してあげてください! それがきっと、今の日向くんの力になるはずですから!)


「北園……さん……」

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