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第152話 明かすか? 隠すか?

 修学旅行の班割りが決まった、その日の夜。日向の自室にて。

 日向は現在、スマホで狭山に電話をしているところだ。


『なるほど、修学旅行かぁ。きっと写真とかバンバン撮るんだろうね。となると、君の『異常』がバレるのも時間の問題かもしれない。そうなればその『異常』を辿って、君がマモノ討伐チームの一員だということもバレるかもしれないね』


「……どうします? 狭山さんが困るなら、俺は当日休んでも……」


『まさか。協力してもらっている手前、そんなこと言えるワケないよ。それにこちらとしても、いつまでも君たちのことを隠し続けるのは限界かな、と思っていたんだ。マモノの存在は随分と世間に浸透した。そして今の君たちは、この間のニュース放送で注目され始めている。今なら君たちの正体を明かしても、無用な混乱は起こるまい。何だかんだであのニュース放送は、良いワンクッションになったのかもしれない』


「じゃあ、俺たちの正体を明かすんですか?」


『うーん、そのタイミングについてはこちらも悩んでいてね……。正体を明かせば、君たちはずっと周りから注目されることになるだろう。言葉にするとなんてことは無いように聞こえるが、その重圧プレッシャーは結構なものだ。一度バラせば引き返すこともできない以上、ここで明かすか最後まで隠し通すか、その判断は慎重に行わなければならない」


「周りから注目……ですか」


 そう呟いた日向の表情は、ひどく暗いものだったが、電話越しであるため狭山にはそれを知覚できなかった。


『とりあえずまとめると、こちらとしては君たちが修学旅行に行くのに何の反対も無い。君たちの正体についても、いずれ近いうちに発覚するものとして考える。正体をいつバラすか、それとも最後まで隠し通すかについては、当事者である君たちの判断に委ねようと思う』


「……分かりました。じゃあ修学旅行には行く方向で話を進めるとして、狭山さんにはお願いがあるのですが……」


『分かってるとも。日本とシンガポールの空港に、君が金属探知機のカメラに映らなくても出入国できるよう根回ししておく。存分に旅行を楽しんでくるといいよ』


「ありがとうございます。いやぁ、助かりました。『太陽の牙』や機密保持のせいで修学旅行に行けなくなったらどうしようかと、ずっと悩んでいたんですよ」


『こちらとしても、君の力にはいつも助けられている。これくらいお安い御用さ』


 そして日向は、狭山との通話を終了。

 そしてベッドに寝転がり、天井を見上げながら一人、呟いた。


「……いつまでごまかせるのかな。母さんや周りには、俺がマモノ退治をしていることを黙ってる。仲間の皆にも、黙っていることはある。そして俺も……自分のことをずっとごまかし続けてる……」


 そこまで呟くと、日向はため息を一つ吐いた。

 まるで、何かに呆れ果てるように遠い目をしながら。


「……俺はもう、正義のヒーローなんかに、なる資格は無いのにな……」



◆     ◆     ◆



 その次の日。十字高校。

 昼休みの食堂にて、日向が昨日の狭山とのやり取りについて、北園とシャオランに話しているところだ。


「……というワケで、俺たちの正体をバラすかバラさないかについて、二人の意見を聞きたいと思います」


「一気に注目を引いちゃうのは怖いけど……ずっと隠し続けるのも限界かな、と思ってたんだよね。ボクは構わないよ」


「じゃあ、シャオランは賛成、と。それで、北園さんはどうかな?」


「私は……できればバラしたくない、かなぁ……」


「おっと、北園さんはバラしたくないのか」


 明るい性格の北園ならば、むしろ目立った方が楽しいとまで言うのではないか。そう予想していただけに、日向は驚きの声を隠せなかった。


「私さ、仲の良い友達にも超能力のことは話してない、ってことは伝えてるよね?」


「うん。その理由ワケまでは聞いてないけど……」


「えーとね……実は、私の超能力にはちょっと、あまりいい思い出が無くて、それであまり他人には知られたくないって思ってたの。みんなから注目されるのも、ちょっとね。だからまぁその関係で、私がマモノと戦っていることは、バラしたくないかなーって……」


「そ、そうだったのか。きっと何か事情があるんだろうとは思ってたけど、そういうことならバラさない方向で行くべきだな。ぶっちゃけ、俺も周囲から注目されることにあまり良い思い出は無いし。シャオランもそれで良い?」


「うん、もちろん。一応リンファにも伝えておくね」


「分かった」



◆     ◆     ◆



 そして迎えた修学旅行当日。


 早朝、福岡空港には十字高校の二年生たちが集まっていた。その中には日向たちの姿もある。

 引率の椚木先生が大声で生徒たちに声をかけている。しかし生徒たちはまとまりなく、友達と話をしたり周囲を見回したりしている。


 ……と、小柳金糸雀がスマホを取り出し、何やら自撮りを始めた。

 田中が不思議そうにその様子を見守る。


「はいどうもー、カナリアさんです。これからわたしたち、シンガポールに行くですよー」


「何してんだ、カナリア? 動画でも撮ってんのか?」


「はいです。旅の思い出は写真ではなく動画で残すのがわたし流です。とはいえ、皆の顔がバッチリ映った動画をネットに上げるほど、マナーの悪い配信者ではないですよわたしは。自分用に大事に取っておくつもりです」


「なるほどな。それなら一度、このメンバーで映っとこうぜ! ほれ、みんな寄れ寄れ!」


 そう言って田中が自分の班のメンバーたちを集める。

 しかし、日向だけは咄嗟に皆から距離を取った。


「い、いや! 俺はいい! 皆だけで勝手に動画でも何でも撮っておいてくれ!」


「え、何でだよ日向。いいじゃねぇか減るモンじゃあるまいし」


「い、いやその……アレだ、ちょっとお手洗いに行きたくなって!」


「じゃあ、お前が戻って来てから撮るよ。カナリアもそれでいいよな?」


「いや、俺のことは気にしないで! 俺のために待ってもらうと心苦しいから! じゃあちょっと行ってくる!」


「あ、おい! 日向!?」


 話を切り上げると、日向はトイレに行くフリをして走り去った。


「どうしちまったんだアイツ? 今まで別に写真や動画を嫌がってたことなんて無かったのに……」


 今の日向はスマホのカメラにも、そして動画にも映らない。それを田中や小柳に知られたくないため誤魔化したのだが、当然、田中と小柳の二人は知る由も無い。


 そして、日向の事情を察した北園とシャオラン、そしてリンファが助け舟を送る。


「え、えっと! とりあえず日向くんが嫌がってるみたいだし、もうこの五人で動画撮っちゃおうよ!」


「う、うん! ボクもそれが良いと思うな! きっと何かワケがあるんだよ!」


「そうね。嫌がることを強制的にやらせるのも気が引けるし、とりあえずこの五人で撮っちゃいましょ」


「むむ。仕方ありませんです。じゃあカメラまわしますですよー」


 小柳が声をかけ、皆にスマホのカメラを向け始める。

 ……その影で、北園は日向に久しぶりの精神感応テレパシーを送っていた。


(こんな感じで伝えておいたから! あとは上手くごまかしてね!)


 日向の頭の中に、北園の声が響く。

 物陰に隠れて班の様子を窺っていた日向は、ひとまず危機が去ったことを知り、安堵の息を漏らした。


「ふぅ、焦ったぁ……。ぼっち仲間だからと小柳さんを誘ってしまったが、これは思った以上に厄介なことになってしまったぞ。……しかし北園さんのためにもバレるわけにはいかないな」


 呟きながら、日向は思案する。


(……最悪、俺の『異常』がバレてしまっても、そこから『北園さんまでマモノ討伐チームの一員である』とすぐに結びつくわけでもないよな、よく考えたら。俺の『異常』に気付かれても、そこから北園さんだけでも逃がす、という選択肢もあるか……)



 その後、小柳が動画を撮り終わったタイミングで、日向は皆のところに戻る。出国の手続きも無事に終わり、日向たち二年生はシンガポールに向かって飛び立った。

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