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第1634話 助命と条件

 本堂が死亡した、その頃。

 こちらは、狭山から逃走したシャオランの様子。


 上半身だけになった日影を左手でぶら下げ、瀕死の重傷を負っているエヴァを右肩で担ぎ、シャオランはひたすらまっすぐ走り続ける。どこへ逃げるべきかは定まっていない。ただ、狭山に見つからないくらい遠くに逃げるつもりでいる。


 とはいえ、ここはほとんど地形の隆起も無く、非常に見晴らしの良い荒地だ。一キロや二キロ走った程度では、狭山から自分たちの姿を隠すことなどできない。はるか向こうに見える山の先まで逃げなければ。そんな現実的でないプランを本気で考えながら、シャオランはひたすら走っていた。


 しかしここで、シャオランの足取りが一気に重くなる。

 特に、日影をぶら下げている左腕に感じる重さが先ほどまでとは段違いだ。三倍以上の重さを感じるようである。


「はぁっ、はぁっ、ボクのスタミナも尽きてきたかな……。で、でも、まだ逃げないと……! 今のサヤマには絶対に勝てない。どこかに隠れないと! そ、それにしても、本当に左腕が重い……! まさか、何かサヤマがボクに能力を……!?」


「……そりゃお前、オレの胸から下が復活して、お前がオレの下半身を地面にズルズル引きずってるからじゃねぇかな」


 シャオランに引きずられている日影がそう声を発した。

 (あわ)ててシャオランは日影から手を放す。


「わ、わぁ!? ヒカゲ、復活したんだね!? よかった……! 『太陽の牙』があんなバラバラにされたから、もうヒューガみたいに死んじゃったと思って……。あ、そ、それよりゴメンね? 引きずっちゃって……」


「いいさ、こっちこそ拾ってくれて助かった。オレが復活したのは……恐らくだが、身体に残ってた”オーバーヒート”の余熱のおかげじゃねぇかな。身体の外側(ガワ)はどうにか復活したみてぇだが、なんか脚や腹筋にうまく力が入らねぇ。余熱も途中で冷め切って、中身は中途半端なところで再生が止まっちまったのかもな」


 シャオランに引きずられて汚れたズボンの砂ぼこりを払いつつ、そう答える日影。それが終わると、彼はシャオランに抱えられているエヴァに声をかけた。


「エヴァ……まだ生きてるか?」


「ど……どう、にか……。『星の力』は奪われても……”生命”の権能で強化した、身体能力と生命力は……そのまま、ですから……」


「そうか……。いや悪ぃ、ちょっとお前の調子を確認したかっただけで、お前の怪我を治す手段とかを思いついたわけじゃねぇんだ……。どうにか助けてやりてぇが……」


「狭山誠の”怨気”の威力が……さらに強まっています……。これはもう……時間経過で、私の身体から消えることは……ないでしょう……。それに……今の私には、もう”生命”の権能を……行使できるほどの『星の力』は、残っていません……」


「そうかよ……クソッ、ちくしょう……!」


「私のことは……もう放っておいて……狭山誠をどうにか、してください……。このままでは……この星が……」


 エヴァはそう言うが、その言葉を聞いた日影とシャオランは暗い表情で顔を見合わせる。現在の狭山をたった二人でどうにかするなど、目の前のエヴァを助けるよりも良い方法が思い浮かばない。


 日影は、先ほどの狭山との戦闘を思い出す。


 戦闘というよりも、一方的な返り討ちだった。

 ただ単に、目の前から飛んできた虫を叩き落としただけだった。


 次元違いだった。

 技量も、能力の相性も関係ない。

 戦闘機に対して豆鉄砲で挑むような絶望的戦力差を痛感した。


 この星が持つ全ての力をその身に宿したという狭山。

 もはや、現在の人類が持つ全ての戦力を投入したとしても、今の彼に勝つことはできないだろう。


 そもそも、日影も今は『太陽の牙』を失っている。

 日影は念のため、自分の手元に戻るよう働きかけたが、『太陽の牙』は現れない。


 よって現状、まともな戦力がシャオランしか残っていない。

 その唯一の戦力たるシャオランが、日影に声をかけた。


「と、とにかく今は逃げようよ! 言ってしまうけど、今のサヤマにボク一人で勝つなんて間違いなくムリだよ! 逃げて、逃げて、ひたすら逃げよう! 生きていれば、何かチャンスが出てくるかもだよ! ホンドーだってボクたちを逃がしてくれた! それを無駄にするわけには……」


「……そうだ、言われてみりゃ本堂がいねぇじゃねぇか。アイツはどうなったんだ?」


 きっともう、生きていないと思う。

 そう答えようとしたシャオランだったが、胸が苦しくなり、すぐに言葉を発することができなかった。


 しかし、そのシャオランの代わりを務めるように、狭山の声が聞こえた。


「本堂くんは、死んだよ」


「狭山ッ……!?」


「彼らしい、誇り高く、壮絶な死に(ざま)だった」


 狭山誠が、日影たちの前方から歩いてやって来た。

 先ほどまで狭山は、その歩いてきた方向とは逆の方向……日影たちが逃げてきた方向にいたはずなのだが。


 今の狭山の言葉を聞いて、日影たちは嫌でも本堂の死を実感させられた。


「そうか……本堂……」


「ホンドー……そんな……」


「なんて、ことを……。仁……」


「大丈夫。また会えるさ。なにしろ、君たちもすぐに彼の後を追うことになる。君たちの次は、この星の全ての生命体、そして最後に、この星そのものも。もっとも、魂が消滅したその先に、死後の世界というものがあるかどうか、それは自分たちアーリアの民にも分からないけどね」


 (おだ)やかにそう語る狭山からは、明確に殺意を感じる。

 もう『太陽の牙』は無く、勝てる気もまったくしない日影だが、それでも狭山に向かって己の拳を構えた。


「ちッ……。やれるモンならやってみろ……」


 ……すると、ここでシャオランが狭山に声をかけた。


「ね……ねぇサヤマ……。さっきさ、言ってたよね? 『この星を殺す瞬間まで、ボクたちを生かしてあげても構わない』って……。あれって、今でも有効かな……?」


「お、おいシャオラン!? お前、諦めるのかよ!?」


「だって! ここでサヤマと戦っても、絶対に勝つことなんてできない! 無駄死にするくらいなら、どんな手を使ってでも生き残るべきでしょ!?」


 それだけ言い合うと、お互いに何も言えなくなり、気まずそうに目を合わせるだけになってしまった。


 二人が静かになったのを見計らって、先ほどのシャオランの問いに狭山が答える。


「……うん。構わないよ。いずれこの星と一緒に死んでもらうことになるけれど、それまで君を生かしてあげてもいい。今の自分がここにあるのは、君たちがマモノ災害で活躍してくれたおかげでもあるからね」


「そ、それじゃあ……」


「ただし今は……その要求に対して一つの条件を設けなければならない状況になってしまった」


「じ、条件って?」


「シャオランくん。君は今、日向くんの『太陽の牙』を持っているね? それを引き渡してほしい」


 狭山にそう言われた瞬間、シャオランの身体がビクリと反応。

 それから、狭山から目を逸らし、オドオドしながら回答するが、痛いところを突かれたのがバレバレだ。


「な、何のことかなぁ……? ほら、見てのとおり、ボクそんな『太陽の牙』なんて全然持ってないよ? 手ぶらだよ?」


「ははは、嘘は良くないなぁ。道着の下に隠してるでしょ? さっき日向くんが死んだとき、君が『太陽の牙』を拾うのを見たよ」


「う……。わ、わかったよ、ちょっと待ってて。取り出すから……」


 そう答えると、シャオランは担いでいたエヴァを日影に預ける。『太陽の牙』を道着の下から取り出すため、手を()けたのだろう。


 すると、シャオランは。

 狭山に背を向けて、一目散に逃げだした。

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