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第1628話 命の限り

 フルパワーを発揮した狭山と、日向たちの戦闘が続いている。


 日影が狭山の正面から接近し、音速の連続斬撃を繰り出す。

 狭山は複数の”怨気”の腕を生成し、その腕でラッシュを繰り出して日影に対抗。


「うおおおおおッ!!」


「あっはははは!」


 日影も凄まじい速度の連撃だったが、やはり文字通り手数で勝っている狭山の方が有利だ。一瞬の隙を突いて日影の『太陽の牙』を打ち払い、がら空きになった腹部を裏拳で殴り飛ばす。


「はぁっ!!」


「ぐぅッ!?」


 ”怨気”の腕のパワーも凶悪だ。

 殴られた日影は、百メートル近く吹っ飛ばされてしまった。


 日影を引き離すと、狭山は”怨気”の腕から赤黒いオーラを大きく噴出させて、束ねて、天まで届くほどの巨大な剣のように。


 狭山は、その”怨気”の剣を、背後を振り向きながら薙ぎ払う。

 彼の後ろから攻撃を仕掛けようとしていた本堂とシャオラン、そしてエヴァへ向けた攻撃だ。


「二人とも、こちらへ! オリハルコンの壁!」


 エヴァが呼びかけ、それに反応した本堂とシャオランがエヴァの近くへ。

 彼女の能力によって生成された蒼い結晶の壁が、狭山の斬撃を防いでくれた。


 狭山の斬撃は防いだが、その攻撃の威力はエヴァに止められた程度では消えず、斬撃の余波は地平まで届き、はるか向こうに見える山々を中腹から真っ二つに切断してしまった。


 さらに、斬撃の余波は、超濃度の”怨気”という形で、エヴァたち三人の周囲にも残った。これに身体を蝕まれて、シャオランが吐血してしまう。目からは血涙まで流れ出てきた。


「う……ごほっ、ごほっ……!」


「シャオラン! 大丈夫ですか!? ……けほっ!」


「そ、そう言うエヴァもきつそうだね……」


「不服ですが、その通りです……。狭山誠の”怨気”のせいですね……」


 二人は少し、体調を整える時間が必要だ。

 そう判断したのか、二人を置いて、本堂が狭山の方へ向かっていった。


 エヴァとシャオランに今の本堂の心は分からないが、二人もまた今の状態で戦うわけにはいかないと判断し、”怨気”で汚染されたこの場所を離れて、比較的”怨気”が薄い場所へ移動。しばし呼吸を落ち着ける。


「細胞単位で、ボクの身体が少しずつ破壊されているのを感じる。これじゃ水の練気法”清水”の回復力じゃどうにもならない。”怨気”とは性質は全然違うけど、高濃度の放射能の中で戦わされてるようなものだよ……」


「”怨気”ですから、私や良乃……いえ、日向の”治癒能力(ヒーリング)”でも、どうにもできない……」


「……この戦いに勝てても、ボクたち、無事じゃすまないかもね……。後遺症の一つくらいは残るかも……」


「気を確かに持ってくださいシャオラン。多少の後遺症ならば、私の”生命”の権能でどうにかできます。ここで弱気になってしまえば、勝てる戦いにも勝てなくなってしまいます」


「わかってるよエヴァ。……うん。確かに、『この戦いに勝っても無事では済まないかもしれない』ってことに恐怖はある。でもそれ以上に、『最後まで力の限り戦ってやる』って……そんな気持ちの方が強いんだ」


「シャオラン……」


「ボク自身でも不思議な気持ちだよ。最初はあんなに怖がりだったボクが、こんなセリフを吐くようになるなんて」


「……そうですね。あなたは本当に成長しました。あなたたちと敵対していた時、雰囲気から見て、あなたが一番楽そうな相手だと思っていましたが、それが今ではこんなに頼りになるなんて」


「敵対していたから仕方ないとはいえ、ボクそんなこと思われてたんだ……」


「私も負けていられませんね。お互い、命を尽くして戦いましょう」


「いや、エヴァは『星の力』で地球の復興もしてもらわなきゃだから、無事でいてくれないと困るんだからね!?」


 体調も戻ってきた。

 言葉を交わし終えると、二人は戦線に復帰する。


 一方、その戦線では、本堂と日影が交代で攻撃を仕掛け、日向が後方から火球を発射して援護という陣形で狭山を攻め立てていた。


 本堂が両腕の刃と両手の爪で狭山に攻撃。

 刃も爪も、高圧縮された雷電を宿し、青く発光している。

 狭山に接近し、”怨気”で身体を焼かれようともお構いなしだ。


「グルオオオオオッ!!」


 一秒の間に十発以上も繰り出される本堂の猛攻撃を、狭山は”怨気”の腕で全て正確に防御し、それと同時に”怨気”の爪の引っかきで反撃。引っかきと言えば弱く聞こえるが、その切れ味は鋼鉄であっても豆腐のように斬り飛ばすほどだ。


 そんな”怨気”の爪の引っかきを、本堂もまた負けじと至近距離で回避し続け、自身の攻撃も途切れさせない。


 日向も離れた距離から狭山に向かって火球を発射し、本堂を援護。

 しかし、狭山は日向の方も見ずに”怨気”の腕で火球を打ち払い、反撃の”魔弾”を撃ち返す。


 バリアーを展開して、狭山の”魔弾”を防御する日向。

 日向もできれば狭山に接近し、目視による超能力を浴びせてやりたいところだが、狭山もその日向の攻撃はかなり警戒している。下手に近づけば、即座に彼は日向を潰しにかかるだろう。


 ここはまだ動くべきではない。短期決着を狙うという指針は忘れていないが、だからと言って勝機を(あせ)っては元も子もない。日向はジッと、仕掛けるタイミングを見計らっている。


 そこへ日影が後方から攻撃。

 大きなカーブを描くように低空飛行し、狭山の左足を狙って剣を振るう。


「足元が留守だぜッ!」


 ……が、狭山は日影の剣を踏みつけて止めてしまった。


「誰の足がお留守だって?」


「ちょっとは油断しろこの野郎!」


 すると日影は、止められた『太陽の牙』から瞬時に手を放し、狭山めがけて殴りかかった。最初からそのつもりで初撃を仕掛けたかのように。


「”陽炎鉄槌(ソルスマッシャー)”ッ!!」


 さらにここで、本堂も狭山の正面から”風雷斬”を繰り出す。

 おまけに、日向も狭山に”凍結能力(フリージング)”を仕掛けるため、距離を詰める。


 すると狭山が、爆発させるかのように”怨気”を発散。

 接近してきた三人をまとめて吹き飛ばしてしまった。


「ぐあッ!? しまった……!」


「グウウウウッ!?」


「くぅぅ!?」


 三人それぞれ別方向に吹き飛ばされ、地面を転がり、どうにかすぐに立ち上がる。


 本堂が身体を起こすと、狭山が右手を向けていた。

 恐らくは超能力”結晶化(クリスタライズ)”の発動準備。

 それを察知した本堂は、すぐさま飛び退いて狭山から距離を取る。


「グル……!」


「無駄だよ、こちらの方が早い!」


「させない!」


 そう言って、吹き飛ばされたばかりの日向が、再び狭山との間合いを詰めた。

 狭山はすぐさま右手を日向に向け、超能力を発動。


「”結晶化(クリスタライズ)”!」


「”凍結能力(フリージング)”!」


 発動は、両者同時。

 日向の背中から、赤黒い結晶が大量に突き出てきた。


「うぐっ……!?」


 そして狭山も、彼の体内の血液が氷柱(つらら)となって、彼の身体の表面を突き破って出てきた。


「くうっ……いいねぇ……!」


 狭山がカッと目を見開く。

 一瞬だけ放たれた”怨気”の波動が、彼の身体から生えた赤い氷柱(つらら)を一瞬で破壊した。


 日向もまた”復讐火(リベンジェンス)”を発動。

 背中を突き破った赤黒い結晶を燃やし、一瞬だけ肉体を超強化。

 その強化された膂力で、『太陽の牙』を狭山めがけてぶん投げた。


「太陽の牙、”最大火力(ギガイグニート)”ッ!!」


 投げ放たれた『太陽の牙』が”最大火力(ギガイグニート)”を発動。

 長大な緋色の光剣が生成され、凶悪な熱波をまき散らしながら狭山めがけて飛んでいく。


 さながら、全てを焼き斬る灼熱の竜巻が迫ってくるようなもの。しかもそれなりに近い間合いで、”復讐火(リベンジェンス)”のパワーで投げられた。狭山としては回避する時間がない。


 狭山は左右に大きな”怨気”の腕を作り、その腕でビーム状の”怨気”の剣を発生させ、下から上へ振り上げる。


「ふっ!!」


 振り上げられた”怨気”の剣は、ギガイグニート状態の『太陽の牙』を下から打ち上げ、狭山の後方へと吹っ飛ばした。

 さらに、”怨気”の剣を振り上げる際に、刀身が地面に食い込んだ。その状態で剣を振り上げたので、”怨気”の斬撃が大地を走る衝撃波となって、前方の日向に襲い掛かる。


 日向は、この”怨気”の衝撃波に巻き込まれてしまった。

 ……が、その衝撃波を突破して、土煙の中から飛び出してきた。

 事前にバリアーを展開し、無理やり耐えきったのだ。


 無傷で(しの)いだとはいかなかったが、そのダメージを利用して”復讐火(リベンジェンス)”を再発動。一瞬で狭山との間合いを詰めて、両手で彼に掴みかかる。


「おおおおおおっ!!」


「力比べかい?」


 狭山も素早くこれに反応し、日向の手を掴み返す。

 両者、互いに互いの手を、指を絡ませるように力強く掴み、押し込み合う。


 その最中、日向の両手から青い光が発せられる。


「”雷光一条(サンダーステラ)”っ!!」


「そう来ると思ったよ!」


 狭山の両手からも、赤黒い光が発せられる。

 日向の雷の光線に対抗するため、”怨気”のビームを撃つつもりだ。

 そして両者、示し合わせていたかのように、掴み合っている両手を互いの正面へと持ってくる。


 ちょうど二人が、そろって両手を合わせて光線を放つような体勢になった瞬間、掴み合っていた二人の両手から青と赤黒い色が入り混じった大爆発が巻き起こった。二人はそれに巻き込まれ、吹き飛ばされた。


「うわっ……!?」


「っと……!」


 日向は背中から地面に叩きつけられてしまった。

 一方、狭山は足でブレーキをかけて、余裕の着地。


 その狭山の後方から日影が接近。

 もう何度目かも分からない、”オーバーヒート”での突撃だ。

『太陽の牙』を引き絞り、狭山の腹部を貫く構え。


「ブチ抜いてやるぁッ!!」


「本当に、まっすぐ突撃するのが好きだねぇ!」


 狭山は”怨気”の腕を一本生成し、なんと日影の音速の刺突を、『太陽の牙』の刀身を”怨気”の手でガッシリと掴むことで止めてしまった。


 ……が、その時。

 狭山は、何やら気になる音を聞き取った。


(この、肉が焼けるような音は……『太陽の牙』を握る日影くんの手が焼かれている音? 『太陽の牙』は、正式な持ち主でないものが持つと、高熱を発して拒絶反応を起こす。正式な日影くんが、なぜ手を焼かれている?)


 一瞬だけ、思考する狭山。

 その一瞬で、解答を導き出した。


「……ああ、そういうことか!」


「今だぜ、日向!」


「太陽の牙……”最大火力(ギガイグニート)”ッ!!」


 日向が叫ぶと、()()が持っていた『太陽の牙』が、一瞬にして長大な緋色の光剣へと変化。


 その際、一瞬で刀身が伸びた緋色の光剣が、狭山の身体を槍のように貫いた。

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