第1626話 畳みかける
日向が繰り出した”氷炎発破”が、狭山を超至近距離から吹き飛ばした。
その爆発規模たるや、東京ドームくらいなら一発で全壊させられるのではと思えるほど。これを受けて無事でいられる生物は、まずいないだろう。
巻き起こった白い煙が次第に晴れていき、狭山の姿が確認できるようになる。
狭山は、まだピンピンしていた。
身体に少し焼け焦げた跡があり、まったくの無傷ではないようだが。
「いやぁ、効いた効いた!」
「説得力が、まったく無い!」
元気そうに声を上げた狭山に向かってそう言い返しながら、日向は左手から火球を四発ほど発射。手のひらサイズの小さめな火球だが、一発一発がミサイル級の威力を誇る。
狭山は複数の”怨気”の腕を生成し、ゴミを払いのけるように日向の火球を打ち壊した。火球が誘爆して狭山が炎に包まれるが、彼の身体が発する強烈な”怨気”が炎を阻む。
「初めて彼女と出会った時と比べれば、信じられないほどに彼女の超能力も強化された。彼女がここまで辿ってきた道のり、その成長の過程が伝わってくるようだ……!」
相も変わらず、敵対しながらも教え子の成長を喜んでいる様子の狭山。心なしか、どこか興奮の度合いが上がっているようにも見えた。
背中に四枚の”怨気”の翼を生成し、狭山が空を飛ぶ。
地上にいる日向たちめがけて、”怨気”の腕から複数の赤黒いビームを薙ぎ払うように発射。
日向たちもまた、それぞれの能力で空を飛んで地上を離れる。
狭山のビームが地表に赤黒い焼け跡を刻み、一拍置いて焼け跡が大爆発。
日向は、北園の超能力による空中飛行を利用。
上空にいる狭山の動きを阻害するため、火球を連射。
先ほどのように、狭山が”怨気”の腕で日向の火球を打ち払う。
その隙に、日影が狭山の背後から音速接近し、斬りかかる。
「その首、叩き斬ってやるッ!」
……が、狭山の首を狙って振り抜かれた日影の『太陽の牙』は、何も斬り落とすことはできなかった。狭山が”瞬間移動”を行使し、姿を消したのだ。
「ああクソッ! 今度はどこに行きやがった!」
周囲を見回す日影だが、狭山の姿は見当たらない。
狭山は日影の後方上空に移動し、高圧縮した”怨気”のビームの発射用意をしていた。遠距離から日影を狙撃するつもりだ。
その狭山に、今度は本堂が接近。
光線のように雷を放出した右腕の刃で、狭山に斬りかかった。
「グルァァッ!!」
「む……本堂くん?」
狭山は一瞬、怪訝な表情をした。
本堂は本来、自由に空を飛べる能力を持っていない。
今度はエヴァの権能”天女の羽衣”の力を借りている様子もないように見える。
ひとまず狭山は大きく後退し、本堂の斬撃を回避。
回避後、日影にお見舞いしようとしていた”怨気”のビームを、本堂に向かって撃ち出した。
すると本堂は、自身の足から、爆発したかのような短い電撃を発した。
その電撃の衝撃で本堂が上へ跳び、狭山のビームを回避。
再び足から電気の爆発を発し、逃げた狭山を追いかける。
「グオオオオッ!!」
「なるほど、そういうカラクリか。面白いけれど、その手の空中跳躍は、飛行の軌道が直線的になって動きが読まれやすくなるという弱点を抱える」
ジグザグに接近してくる本堂の動きを解析し、狭山は彼を握り潰すために”怨気”の腕を肥大化させ、伸ばそうとした。
そうはさせないと、シャオランが攻撃。
狭山の右方向に位置取り、”無間”の拳で、狭山の右側頭部を打ち抜いた。
「やぁぁッ!!」
しかし、狭山はこの攻撃に耐えた。シャオランが攻撃を仕掛けてくることも先読みし、地の練気法”瞬塊”で右側頭部をピンポイントで硬化。防御を固めてダメージに備えていた。
だが、攻撃を仕掛けていたのはシャオランだけではなかった。
シャオランとは逆の方向から、日影が狭山に接近。
”オーバーヒート”で接近し、その音速の勢いも全て乗せた斬撃を振り下ろす。
「るぁぁぁッ!!」
タイミングとしては、シャオランとの同時攻撃。
シャオランの攻撃が防がれても、日影の攻撃が直撃する。
……そのはずだったのだが、狭山はこれも読んでいた。
シャオランの攻撃を耐えながら、日影の斬撃も大きな”怨気”の腕でガードしていた。
しかしながら、シャオランと日影だけでなく、日向まで攻撃に参加していた。北園の超能力”電撃能力”を発揮して、狭山の眼球を直接焼いた。
この目視超能力ばかりは、いくら先読みできても、どうにかできるものではない。電気に焼かれて、狭山の視界がブラックアウトする。
「流石に、こうも一斉に畳みかけられると、なかなか厳しいものがあるねぇ……!」
そうは言いながらも、狭山は日向の行動まで看破していた。
能力発動のために接近してきた日向に向けて、七発ほどの”魔弾”を発射し、彼の身体を撃ち抜いた。
「ぐぅっ!? けれど、これで隙は作れた……!」
日向の言うとおり、狭山の眼球は電撃で焼かれて、彼は一瞬だけ目が見えなくなった。
すぐに狭山は”治癒能力”で視力を回復させたようだが、その時にはすでに本堂が懐に潜り込んでいた。
狭山に肉薄した本堂は、右腕の刃に超圧縮した電流と風の渦を纏わせ、それを狭山の胴体に袈裟斬りの形で叩きつけた。彼がロストエデンとの戦闘の中で編み出した大技”風雷斬”だ。
「グオオオアアアアッ!!」
暴風が肉を抉り、その抉られた肉を雷電が焼く。
本堂の刃を押し当てられ、狭山の身体から血しぶきが舞い上がるが、それでも狭山は笑顔を崩さない。
「ああ、素晴らしい連携だ。これほどまでに……これほどまでに強く……!」
「オオオオオオッ!!」
本堂が刃を振り抜き、狭山は吹っ飛ばされ、大きくのけ反った。
顔を上げた狭山の視界に、エヴァの姿が入る。
上空から急降下してきたのだ。
急降下し、上から狭山に肉薄したエヴァは、彼の腹部に自身の両手のひらを押し当てる。
「星よ……奏でたまえ! ”怒り叫べ、星の咆哮”っ!!」
星が衝突したかのような、物凄い轟音が鳴り響いた。
エヴァの身体の中で限界まで凝縮された『星の力』が解放されて、大砲のように発射された音だ。
放たれた蒼い砲弾は狭山を巻き込み、まばたきほどの一瞬で地表に着弾。超巨大なクレーターが形成されて、十数キロにもわたって地表が砕け散り、ひび割れた。核ミサイルでも撃ち込まれたかのような破壊規模だった。
限界以上に凝縮したため暴走した『星の力』と、発射の際の強烈な負荷により、エヴァの身体もボロボロになってしまうものの、そのダメージをすぐさま”生命”の権能で回復させる。
「はぁ、はぁ……。これだけやれば、少しは効いたでしょう……」
……が、しかし。
まだ土煙も晴れないうちに、その土煙の中心から赤黒い竜巻が発生。その竜巻は非常に大規模で、まだ晴れていない土煙も巻き込み、周囲の地表を破砕し、赤黒い空まで届くほど高く巻き上がる。
「こ、これは……少しは効いたどころか……」
「なんか……さっきより元気ハツラツって感じだね……」
エヴァとシャオランがそうつぶやく。
赤黒い竜巻が止まり、巻き上げられていた瓦礫が雨のように地上へ落ちる。
竜巻が消え去ったその跡地に、狭山は立っていた。
赤と黒が入り混じったコートはボロボロになっており、息も上がっているが、やはりその表情は微笑んでおり、嬉しそうですらあった。