表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1659/1700

第1624話 六人と一人

 日向が北園の魂と同調し、彼女の能力を受け継いだ。


 そして、日向の仲間の四人もダメージから復帰。

 五人……いや、六人は狭山との戦闘を再開する。


 狭山も”怨気”で複数の腕と翼を形作(かたちづく)り、戦闘態勢を整えている。

 まずは背部に左右二枚ずつ生成された赤黒いオーラの翼を広げ、日向たちに向けて羽ばたいた。


 鉄をも切断する鋭い風の刃が、嵐のように日向たちめがけて放たれる。

 日向たちはすぐさま散開し、この風刃の嵐を回避。


 その隙に、日向たちとは別の位置にいた本堂が、瞬時に狭山との間合いを詰めて攻撃。右腕の刃に雷のエネルギーを凝縮し、斬りかかった。


「グアオオッ!!」


 本堂の刃を、狭山は”怨気”の腕で防御。

 合金とて焼き斬りそうな電量だったが、赤黒いオーラの腕はお構いなしに受け止めてみせた。


 狭山が本堂に反撃を繰り出す。

 防御に使っていない”怨気”の腕が、一斉に本堂に殴りかかる。


 本堂もすぐさま飛び退いて、”怨気”の拳を回避した。

 その本堂と入れ替わるように、狭山の横から日影が音速突撃。


「うおおおッ!!」


「またそのパターンかい?」


 向かってくる日影を叩き潰すため、”怨気”の腕を振り上げる狭山。


 しかし日影は、狭山に叩き潰されない距離で急ブレーキをかけて『太陽の牙』を横方向に振り抜いた。灼熱の炎波が狭山を包み込む。


「あ、学習したね」


 そうは言いながらも、狭山もバリアーを展開して日影の炎から身を守っていた。日影が馬鹿正直に突っ込んでくることはないと看破していたようだ。


 その炎を目くらましにして、エヴァが飛び掛かってきた。


 彼女の両腕は、狼の爪のような蒼いオーラを(まと)っている。

 青い右目からは、同じ蒼のオーラ……『星の力』があふれ出ている。


 その姿は、かつて日向たちとの勝負で、最終局面で見せた姿。

 先ほど狭山に杖を破壊されたので、戦闘スタイルを切り替えた。


「なるほど、日影くんの炎は始めから、攻撃ではなく目くらましが目的か」


「”スサノオの一太刀”!!」


 エヴァの右爪が超圧縮された風を宿し、振り抜かれた。

 音速の衝撃すら受け止める狭山のバリアーが、バターのように切り裂かれて破壊される。


 バリアーを破壊した瞬間に、エヴァは残る左手を狭山へまっすぐ伸ばす。

 左手に(まと)っていた狼爪のオーラを大砲のように放出し、狭山の腹部を撃ち抜いた。


「はっ!」


「良い一撃だけど、ちょっと威力不足だ」


 狭山はその場から一歩も動かず、腹筋でエヴァのオーラを受け止めていた。恐らくは地の練気法”岩窟”を使用したと思われる。


「言ってくれますね。山さえも貫く勢いで撃ち込んだのに」


 狭山の”怨気”の腕が、”地震”の震動エネルギーを拳に宿す。

 そして、目の前のエヴァめがけて叩きつけてきた。


 エヴァは後ろへ跳んで、”怨気”の拳を回避。

 拳の衝撃で地面がヒビ割れ、それと同時に赤黒い衝撃波が津波のように(はし)る。


 飛び退いたエヴァは、続く”怨気”の衝撃波を避けるため、すぐさま”天女の羽衣”で空へと逃れた。エヴァの後ろにいた日影もそれに続く。


 エヴァと日影を追い払った狭山のもとへ、今度は日向が接近。

 北園から受け継いだ超能力で、地表をスピーディーに滑空しながら。


「おっと、日向くんはまずい! 北園さんの目視超能力が飛んでくる!」


 少し大げさな(ふう)にそう言って、狭山は後方空中へ逃げる。

 ”怨気”の翼を広げて、音速飛行を開始。


 しかし、その狭山を、シャオランが展開した”空の気質”が(とら)える。


「おぉおう、やらかした」


「叩き落とす! せやぁぁッ!!」


 シャオランがその場で、右拳をハンマーのように振り下ろした。

 すると、狭山の頭部に衝撃が叩きつけられ、そのまま地上へ勢いよく激突。


 逃げ損ねたことで、狭山が日向の超能力の射程内に。

 日向は狭山を目視し、自分の中の北園の魂に働きかけて、超能力を発動。


「”凍結能力(フリージング)”!!」


 狭山の身体から、赤い氷の結晶が突き出てきた。

 彼の体内の血液を凍らせ、内側から貫いたのだ。

 胸部、右腕、(のど)、顔の右半分、右目まで突き破った。


「これでは前が見にくいし、動きにくいよ」


 普通の人間なら文句なしの致命傷なのだろうが、狭山はまるで「仕事が増えた」とでも言いたげに、面倒くさそうにそうつぶやいた。身体を突き破って狭山を包む赤い氷も、強烈な”怨気”の放出によって、全てが一瞬で砕け散った。


 それから狭山は、実に十五本もの”怨気”の腕を生成。

 その全ての指……つまり七十五本の指から次々と”魔弾”を発射。


 ”魔弾”の標的は、この周囲にいる日向たち全員だ。

 銃弾並みの速度の鋭いエネルギー弾が、四方八方から日向たちに襲い掛かる。


 日向は、北園の超能力によるドーム状のバリアーを生成して”魔弾”を防御。


 シャオランは地の練気法”岩窟”を使用。

 エネルギー攻撃に対して高い防御力を発揮する、気質の鎧だ。


 日影は”オーバーヒート”で空を飛び回り、”魔弾”を振り切る。


 本堂は全身から強烈な放電を行ない、飛んでくる”魔弾”を打ち消す。


 エヴァは自分を強烈な暴風の渦で包み、”魔弾”をかき消して身を守る。


 やがて狭山は、”魔弾”の発射を止めた。

 それと同時に”瞬間移動(テレポート)”を行使し、エヴァの背後に回り込む。


「くっ、また私の背後に……!」


「君が持つ『星の力』を奪えれば、自分は勝ち確定だからねぇ」


 エヴァはすぐに飛び退いて、狭山から距離を取る。

 その動きを読んでいたかのように、狭山は四本の”怨気”の腕から二十発の”魔弾”を発射。


 エヴァは竜巻を射出し、十六発の”魔弾”を巻き込ませて、かき消した。

 しかし、残る四発の”魔弾”は竜巻を回避し、エヴァの背後に回り込み、彼女の背中を狙う。


「しまった、防御が間に合わない……!」


 ……が、その時。

 エヴァと”魔弾”の間に、物凄い速度で本堂が割って入った。


 本堂はその巨体を活かして、エヴァに襲い掛かった四発の”魔弾”を全て受け止めてみせた。


「グゥッ……!」


「じ、仁? 私を守ってくれたのですか……?」


「グルル……グオオアアアッ!!」


 特に返事らしい返事はせずに、すぐに本堂は狭山へ視線を向けて、彼に襲い掛かる。


 狭山もまた、今の本堂の行動に対して、疑問符を浮かべていた。


「ふむ……? 彼、いま明らかにエヴァちゃんを守ったよね? もう仲間たちのことは忘れて、自分を殺すという目的のみを優先させていると思っていたけれど」


 試しに狭山は、本堂の攻撃を回避しつつ、一本の”怨気”の腕をエヴァへと伸ばしてみる。赤黒い手の鋭い爪がエヴァへと迫る。


 その”怨気”の腕を、本堂が左腕の刃で、真ん中から断ち切った。

 そしてすぐに狭山への攻撃を再開する。


「オオオアアアッ!!」


「やはりエヴァちゃんを守っている。先ほど自分が『チームワークがああだこうだ』と言ったのを気にして、学習したのだろうか。ここまで来て、まだ成長を見せてくれるとは。感激してるよ」


 そうつぶやくと、狭山は”怨気”の翼を広げて、本堂めがけて音速で突撃。その翼をぶつけようとしてきた。


 本堂は素早く反応して、狭山の翼をしゃがんで回避。

 その本堂の後ろに、日向が隠れていた。


「むっ……!?」


「”点火(イグニッション)”っ!!」


 飛んできた狭山を真っ二つにするべく、日向が『太陽の牙』を振り下ろす。

 不意を突かれた狭山は、とっさに身体を左へ傾けて回避を試みる。


『太陽の牙』の刀身は、狭山の身体は(とら)えられなかった。

 ただ、狭山の”怨気”が形作(かたちづく)っていた右二枚の翼は切断し、霧散させた。


 実体のないオーラ状のものとはいえ、翼を断ち切られてバランスを崩したのか、狭山が足でブレーキをかけながら地面に着地。


 翼を焼き斬られた”怨気”の切断面が緋色に燃え上がり、黒煙が噴き出ている。狭山も、微笑んではいるが、どこか痛みをこらえているような表情だ。


「いや、危なかった。今のは完全に不意を突かれたよ。やるじゃないか日向くん」


 同じ表情のまま、日向に賛辞の言葉を贈る狭山。

 一方、日向はその狭山の言葉を聞き流し、彼の様子に注目していた。


「さっき”最大火力(ギガイグニート)”を防御した時もそうだった。狭山さんは、俺の『太陽の牙』で”怨気”が焼かれることを嫌がってる……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ