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第1614話 一億の総意、四十億の積年

 第二形態と称し、さらなる力を見せてきた狭山。

 そして、自らを「魔王アーリア」と名乗った。


「もっとも、別に呼ばれ方に頓着(とんちゃく)しているわけではない。魔王とでも、今まで通り狭山とでも、君たちの好きなように呼ぶといい。それじゃあ、行くよ」


 そう告げて、狭山が攻撃を仕掛けてきた。その身から立ち昇る”怨気”が十数本の腕を形作(かたちづく)り、日向たちめがけて伸ばしてくる。


「攻撃パターンが変わった……!」


 すぐさま、一斉にその場から飛び退く日向たち。

 伸びてきた”怨気”の手が、先ほど日向たちが立っていた場所に次々と突き刺さる。


 近くで見て分かったことだが、”怨気”の手は思ったよりも大きかった。恐らく人間一人なら鷲掴(わしづか)みにしてしまえるだろう。


 ”怨気”の腕はこれだけでは止まらなかった。地面に突き刺さると、そこから上下に蛇行しながら日向たちを追いかける。さながら、大海原を泳ぐ水龍のように。しかして現実には、硬い大地を軽々と破砕しながら。


「ま、まだ伸びてくるのか!? これは、逃げているだけじゃ追いつかれる!」


「私が押し返します! ”ラグナロクの大火”!!」


 エヴァが杖を構え、その先端から大地一面を焼き払う規模の火炎を放射。迫って来ていた”怨気”の腕も全て炎に巻き込まれる。


 ところが。

 ”怨気”の腕は、エヴァの炎を突破。

 その手を大きく開き、一斉にエヴァに襲い掛かる。


「なっ!? しまった……!」


 回避は間に合わないとエヴァも悟る。

 そのエヴァの前に日向が割り込み、イグニッション状態の『太陽の牙』を横一閃。


「”紅炎一薙(ヒートスラッシュ)”っ!!」


 扇状に放たれた炎の波が”怨気”の腕の群れに命中。

 大爆炎が巻き起こり、赤黒い腕も全てかき消えた。


 しかし、その爆炎を目くらましにして、狭山が飛び出してきた。

 人を超えたスピードで日向に接近し、一本の”怨気”の腕で貫手を繰り出す。


 先ほど日向に助けられたエヴァが礼を言う暇もなく、槍のように鋭い”怨気”の手が日向の腹部を貫いた。


「あぐぁ!?」


「日向!」


 日向を貫いた”怨気”の手が、そのまま勢いよく右へ動かされる。

 その結果、日向の左わき腹が内側から切り裂かれ、彼はたまらず地面に倒れる。


「うぐぁぁ!? あ、ぐっ……!」


 あまりの痛みに、地面を転げまわる日向。

 側にいたエヴァは、日向のことは心配したが、それよりも今は狭山を優先するべきだと判断。


「”再生の炎”があるとはいえ苦しんでいる彼を放置するのは心が痛みますが、彼を助けている間に二人そろって攻撃を受けたら本末転倒……。この場面は、狭山誠を撃退するのが最適解! ”トールの雷槌”!!」


 杖の先端に超高圧電流を宿し、エヴァは狭山に殴りかかる。


 狭山は再び複数の”怨気”の腕を作り、その手のひらを自身の前へ構える。

 その手のひらがエヴァの杖を受け止め、周囲に電流と”怨気”がまき散らされる。


「この雷を正面から受け止めてみせますか……!」


「すごい威力の雷だね。おおよそ自然に発生する雷を遥かに超えている。まさしく、神の雷だ。しかし……」


 狭山がエヴァを押し込み始めた。

 彼が神の雷と称したエヴァの電撃も、今の彼にとっては、どうという物でもないらしい。


 それと同時に、狭山が(まと)う”怨気”がエヴァを巻き込み始める。炎のような熱さと、針を突き刺されるような鋭い痛みが彼女を襲った。


「これは、”怨気”のダメージ……! 彼に近づくだけで体力を奪われる……!」


 すぐに後退し、狭山から距離を取るエヴァ。

 そのエヴァを追撃しようとする狭山だが、その右から本堂が”轟雷砲”で狙い撃ち。


「そうはさせん……!」


 爆音と共に右腕から放たれる、本堂の雷。

 しかし、それに合わせて狭山の”怨気”が一瞬、勢いを増す。


 その出力が上がった”怨気”にはじき返されるように、本堂の”轟雷砲”はかき消されてしまった。


「何だと……!?」


「エヴァちゃんの雷でも通らなかったんだ。今さら生身の生物の一機能でしかない君の電撃が通用すると思ったかい?」


 告げながら、狭山が”怨気”で複数の腕を作る。

 作られた”怨気”の腕は、合わせて六つ。

 その全ての手、計三十本の指先から”怨気”の砲弾が放たれた。


「”魔弾”」


 これまでは狭山自身の指先で発射していた”魔弾”だが、今度は”怨気”の指で撃ってきた。その弾速も大きさも、狭山自身が発射していた時より向上している。何より特筆すべきは同時発射数。一発だけだったのが三十倍に増えている。それでいて、狭山の操作により弾丸の軌道が変わる要素は引き継いでいる。


 少し前に狭山の”魔弾”を対策したと豪語していた本堂だったが、これは話が別だ。亜音速で飛来し、軌道も自由自在な三十発の赤黒い弾丸、そのうちの二十三発を全身に受けてしまった。


「ぬぐっ……!?」


 逃げ道を塞ぐような射線、そうして動きを封じて本堂を撃ち抜く射線。様々な軌道を描いて放たれた三十発の”魔弾”は、もはや反射神経頼りで避けられるようなものではない。本堂は頭部こそ吹き飛ばされなかったが、左わき腹に大きな風穴を開けられてしまった。


「しまった、このダメージはまずい……!」


 マモノ化した今の本堂であっても、これは致命的なダメージだ。まだ死にこそしないが、これからの動きに大きな影響が出るのは間違いない。


 ダメージを受けた本堂を援護するべく、シャオランが”空の気質”を展開。狭山に”無間”の拳を叩き込もうとする。


 だが、狭山も事前にそれを察知し、大きく跳んでシャオランの”空の気質”から逃れる。そして地上のシャオランめがけて”怨気”の巨大なビームを発射。


 当然ながら、シャオランも横に跳んで狭山のビームを避ける。

 狭山は、撃ち出した赤黒いビームをそのまま下から上へと振り上げる。


 大地がビームで一閃され、縦一列に”怨気”の噴火。

 はるか向こうにそびえ立っていた山もビームの焼け跡を刻まれ、爆発し、崩壊してしまう。


 それほどまでに大規模な攻撃だったので、シャオランもその”怨気”の爆発に巻き込まれて、吹き飛ばされてしまった。


「わぁぁぁ!? 人間が出していい火力じゃないよぉぉ!?」


 今度は日影が”オーバーヒート”で突撃。

 業火をその身から噴出し、まっすぐ狭山に斬りかかる。


「これならどうだぁッ!!」


「正面対決かい? 受けて立とう!」


 狭山は、左右に大きな”怨気”の腕を生成。

 その”怨気”の両腕が、剣を振り上げるように、狭山の頭上へ。


 赤黒い両手から”怨気”が噴出。

 先ほどシャオランを吹き飛ばしたビームに負けず劣らずの大きさだ。


 その”怨気”の奔流を、同じ”怨気”の両手で束のようにまとめて、剣のように日影めがけて振り下ろした。


 日影の”オーバーヒート”と、狭山の”怨気”の剣が激突。

 地の果てまで響くような剣戟の音。

 攻撃の結果、両者は互いを突破できず、押し合いに移行。


 しかし、徐々に狭山が押し始めてきた。

 やがて、渾身の力を込めて、狭山は”怨気”の剣を振り抜く。


「はっ!!」


「くッ!?」


 日影ははじき飛ばされ、勢いよく地面に叩きつけられてしまった。

 すぐさま狭山が追撃を繰り出す。

 日影を押し返した”怨気”の剣を、今度は左から右へ振り抜くように斬りかかった。


「くそッ……!」


 日影は意地で痛みをこらえ、すぐに立ち上がり、”オーバーヒート”でその場から退避。


 直後、狭山の”怨気”の剣が大地を切り裂く。

 先ほどのビームと同じように、切り裂かれた大地から”怨気”の噴火が発生。大地をさらに破壊した。


 圧倒的だ。

 まずは軽く様子見から始めるつもりの日向たちだったが、いきなりその力の差を思い知らされた。


「一億の怨嗟。四十億の積年。ようやく、その触れ込みに見合った威力を、それなりにお披露目できているんじゃないかな」


 ゆっくりと日向たちに歩み寄りながら、狭山は声をかけてきた。

 これに対して、日向たちは警戒心を()き出しにしながら、後ずさるしかできなかった。

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