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第1611話 そして、日向と

 日向の”点火(イグニッション)”の一撃が、狭山の身体を大きく切り裂いた。


 よろめきながら後ずさる狭山。

 右手で押さえている傷口からは、今も炎が燃え、黒煙が噴き出ている。


「当たった……俺の攻撃が……」


 嬉しさよりも、驚きと気まずさの方が勝っているような様子で、日向がつぶやく。


 一方、狭山はまだ倒れない。

 表情も崩さず、相変わらず笑みを浮かべている。

 だが、その笑みは明らかに苦しげだ。


「いや……製造したのは自分だけれど、やはり凄まじい火力だね、その剣は……。斬りつけた全ての敵を焼き尽くすという執念のようなものさえ感じる」


 狭山は”治癒能力(ヒーリング)”で傷を塞ごうとしているようだが、うまくいっていない様子だ。傷を塞いでも、傷口に残された炎と熱は消えず、塞いだ傷口を再び広げてしまっているようだ。


 ここで日向以外の皆も合流。

 狭山は重傷を負ったまま、一対五で日向たちと向かい合うことになる。


「出血もしない。血が流れ出る前に、傷口の熱で蒸発させられる。これではレッドラムも生み出せない。いやはや……絶体絶命だね」


 現在の状況をちゃんと把握していないのか、それともここから逆転できる秘策でもあるのか、何とものん気そうに狭山はつぶやく。


 しかし実際、ここから盤面をひっくり返すだけの奇策をぶち込んでくるのが狭山誠という男だ。そこは日向たちも嫌になるほど把握している。あの狭山を追い詰めている状況だが、五人は油断なく身構えている。


 するとここで、右腕で傷口を押さえながら、狭山が日向に声をかけてきた。


「本当に……本当に強くなったね……。君たち六人全員……もう油断していたら絶対に勝てないほどに……」


「六人、全員……? それは違いますよ狭山さん。もう、北園さんはいないんです……」


「おや。『愛した彼女の魂は、常に自分と共にある』とか、そういうロマンチックなことは言わない派の人間だったっけ、日向くんは。……うん、思い返すと、君ってけっこう現実主義な部分が大きいよね」


 まるで、今際(いまわ)の言葉を語っているかのような雰囲気。

 日向は狭山に、悲しげな視線を向けた。


「……こんなこと言うのは野暮だって思ってるんですけど、どうしても考えてしまうんです。あなたが一人で抱え込まずに、遊星の魂のことを、移住チームの皆にも相談していたら、こんな……現在みたいなことにはならなかったんじゃないかって。超優秀で、ちょっと困ったところはあるけれど、基本的には人畜無害な頼れる大人『狭山誠』として、ずっと付き合っていけたんじゃないかって……」


「うん……。そこは心から反省してる。だから、マモノ対策室室長としての自分は、できるだけ他人を頼るように努力していたよ」


「それは確かに。あなたからの指示で、俺たちだいぶ無茶なことをさせられましたからね……」


「当時は日本最強のチームだった松葉班の連絡が途絶えたから捜索を頼んだり、ロシアのミサイルテロを止めてもらったり、自分が建てた学校を助けてもらうために地球の反対側まで飛んでもらったり、アメリカチームと決着を付けてもらったり、マモノ災害を止めるために次元を越えてもらったり……」


「……改めて羅列すると、なんというか、もう、エグい……」


「そして……七体の『星殺し』を打ち倒し、ここまで来てくれた。何度も自分を助けてくれて、君たちにはどんな感謝の言葉を述べても足りないくらいだ」


「はい……ありがとうございます」


「随分と長くかかってしまったけれど、ようやく自分は、自分の人生最大のミスの解決のために、他人の力を頼ることができている。そして君たちは、そんな自分の『助けを求める声』に応えてくれている。本当に、頼れる子たちになった。自分も思わずにはいられないよ。あと三十億年、君たちと早く出会えていればと」


「さすがに無理ですわ。けれど……あなたから頼られる人間に、俺たちはなれていたんですね。それは、とても嬉しいです。あなたの望み通り、俺たちはあなたを止めてみせます」


「そうはさせないよ。君たち全員、この星もろとも死んでもらうからね」


「いや、今の流れは『分かった、よろしく頼む』って返す場面だったでしょ。前もって聞いてはいましたけど、本当に狂ってるなこの人……」


 少し、長話が過ぎた。

 日向たちは改めて、狭山との間合いを慎重に詰める。


 だがその時。

 日向たちの周囲の地面から、真っ赤なマグマが噴き出してきた。

 一か所だけでなく、街中の噴水のように複数個所から。


「む……!? この液体は、マグマか……!?」


「熱っつぅ!? 肩にちょっとかかったぁ!?」


 さらに、この噴き出したマグマの奔流が、まるで意思を持っているかのように動き出す。日向たちめがけて頭上から降りかかり、あるいは大波のように押し寄せる。


「クソッ、ロシアで戦ったプルガトリウムみてぇな能力だ! マグマの熱も普通より高そうだ! オレの”オーバーヒート”で下手にぶち抜くのも危ねぇか……!」


「恐らくは、狭山誠の『星の力』を使った攻撃……! 地盤を操作して噴出孔を(ふさ)ぐのは……くっ、駄目です、塞いでも勢いが抑えられない。突破されてしまう……!」


 そして、日向たちがマグマに気を取られている間に、狭山は”瞬間移動(テレポート)”で逃げてしまった。前方、五人から一キロ近く離れたところに姿を現す。


「エヴァ! キミの次元のゲートで、この場所から離れよう! ここにいるのは危険だよぉ!」


「そうしようぜ! 狭山のところまで直通のゲートを開いてやれ!」


 シャオランと日影がそのようにエヴァに声をかけ、エヴァもそれを了承しようとしたが、それを日向が止めた。


「待った! たぶんそれが狭山さんの狙いじゃないかな! 俺たちが次元のゲートで移動するのを予測して、出てきたところを一網打尽とか!」


「それはさすがに考えすぎじゃ……いやでもサヤマならそれくらいするかな……」


「前に狭山さんから教わったんだよ。『最も相手を罠や策に()めやすい瞬間。それは相手が勝利を確信した時』だって。今はまさにその状況。あの人は負傷して、俺たちは追い詰めるだけ。あの人が逆転の一手を仕込んでくるなら、この場面が一番だ! この動く溶岩はいかにも派手で危険だけど、あくまで俺たちを誘導するための囮なんだ!」


「だったら、どうするのです? ただ追いかけても、また狭山は超能力で逃げてしまうでしょう。馬鹿正直に追いかけ続ければ、私たちはジリジリと溶岩に体力を奪われてしまいます」


 エヴァがそう尋ねた。

 本堂と日影も答えを知りたそうな眼差しを向けている。

 それに対して、日向は返答。


「……とりあえず、今は馬鹿正直に追いかけよう」


「『とりあえず』という事は、いずれ何か仕込むつもりなのだな?」


「それはもちろん。特に日影は”オーバーヒート”を使って、がっつりと狭山さんを追い立ててくれ」


「仮に、普通に追いつけたら、そのままボコっていいのか?」


「ああ、いいよ」


「よっしゃ、決まりだ。そんじゃさっさと動くぞ! そら、いつの間にか周りがマグマの海に囲まれてやがる。残ったこの陸地めがけて、マグマが降り注いできやがるぞ!」


「た、退避ー!」


 日向たちは一斉にその場から飛び立ち、降り注いできたマグマを回避。それぞれで空中を飛行し、大蛇のように襲い来るマグマの奔流を回避しつつ、狭山のもとへ向かった。

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