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第1608話 シャオランと

 狭山は自分の血でレッドラムを生み出し、日向たちを攻撃させる。

 そして彼自身は、孤立していたシャオランに攻撃を仕掛けた。


 狭山が拳に”怨気”を(まと)わせ、シャオランに殴りかかる。

 彼の流派は形意拳。シンプルな型、まっすぐな攻撃が多いが、それゆえに単純に威力が高い、質実剛健を体現したような中国拳法だ。


 繰り出される狭山のまっすぐな拳。叩きつけてくる鉄槌。

 シャオランはそれらを、盾に見立てた左腕で次々と()らし、反撃の右(ひじ)を振り上げる。狙いは狭山の鳩尾(みぞおち)だ。


「やぁぁッ!!」


 シャオランの攻撃は命中……したと思ったのだが、(ひじ)が当たったのは狭山の身体の表面だけで、芯まで届く前に滑るように左へずれて回避されてしまった。これでは攻撃が当たっていないのも同然だ。


 そして、一瞬だけでも肘の先端が狭山に触れたことで、シャオランは自分の攻撃が命中したものだと一瞬だけ誤認。狭山はその隙を逃さず、シャオランの首筋に貫手を突き刺す構え。


 狭山が貫手を放った。

 しかし、シャオランはこれに反応し、身を屈める。

 それと同時に右足を突き出し、狭山の左足を崩す。


 これで狭山を転倒させられれば良かったのだが、狭山もシャオランの一手を先読みしていた。蹴られた左足をダメージに逆らわないように後ろへ逃がし、転倒を防止。そのまま右拳を振り上げて、体勢を低くしているシャオランめがけて振り下ろす。


「闇の練気法”爆炎”!!」


「地の練気法”大金剛”ッ!!」


 シャオランも両腕を交差し、狭山の拳を受け止める。

 凄絶な打撃音が響き渡った。

 狭山の拳が叩きつけられた衝撃で、シャオランを中心に大地が砕ける。


 恐るべき一撃だったが、シャオランは見事に受け止めている。狭山の拳に宿っている”怨気”も、彼が身に(まと)っている”空の気質”が(はじ)いて、シャオランに寄せ付けない。


 互いに押し込み合い、押し返し合う膠着(こうちゃく)状態。

 その最中に、狭山がシャオランに声をかけてきた。


「それが、師匠(せんせい)でも……ミオンさんでも到達できなかった”空の練気法”か。恐怖を振り払う勇気の練気。実に興味深い」


「そういえばサヤマも、ボクの師匠から技を教わってたんだっけ」


「そうだよ。今まで黙っていたけれど、つまり君は、自分にとって(おとうと)弟子(でし)なんだ」


「もう、それならもっと早く教えてくれればよかったのに、ねっ!」


 ここで一気にシャオランが狭山を押し返そうと、彼の拳を受け止めている両腕を力強く振るう。


 しかし、狭山はこれも先読み。

 シャオランが両腕を振るうタイミングに合わせて、彼の腹部をまっすぐ蹴り飛ばした。


「はっ!」


「うぐぅ!?」


 ”空の練気法”は、”地の練気法”による筋肉硬化の能力も常時発動している。よって現在のシャオランは常に超人的な打たれ強さを有しているのだが、それでも狭山の蹴りは内臓に響いた。


「マモノ対策室室長を務め、君たちと共にあったあの時、弟弟子である君の成長を見ていたのは、我が子を見守るように楽しかったよ。自分自身の弟子でもない以上、勝手なことを言われていると君は思うだろうけどね」


 蹴り飛ばしたシャオランに、狭山は追撃。一瞬のうちに距離を詰めて、劈拳(へきけん)でシャオランのガードを崩し、崩拳で顔面を殴り飛ばした。


 ここでシャオランは”水の練気法”を使用。

 顔面を殴られたダメージを利用して、バク転を繰り出す。

 その際に振り上げた右足で、狭山の胸板を切り裂いた。


「むっ」


 思わぬダメージを受けて、狭山の反撃の手が止まった。

 その瞬間を見逃さず、シャオランが攻勢に転じる。


 先ほどの狭山のように、シャオランもまた瞬時に狭山との間合いを詰める。彼の流派、八極拳の射程に(とら)えるために。


「そんなことはないよ! なんと言うか、ちょっとうまく表現できないけどさ、あの日々の中で、ボクがサヤマにとって特別な存在であれたなら、なんだか嬉しい!」


「そうか、君はそう言ってくれるのか。ありがとう、シャオランくん」


 間合いを詰めるシャオラン。

 そのシャオランを待ち構える狭山。

 距離が縮まるまでの時間は一秒足らず。


 その一秒足らずの間に、二人は次に繰り出すべき一手を考える。

 突き、前蹴り、肘打ち、回し蹴り、防御、回避、掴み、投げ。

 どの手が最善か、一瞬のうちに判断する。


 狭山との間合いがゼロになった瞬間、シャオランが身を(ひるがえ)した。


「鉄山靠か……!」


 相手の防御を、防御ごと粉砕する威力を誇る鉄山靠。

 シャオランの攻撃を回避するため、狭山は後ろへ下がる。

 その攻撃後の隙を突いて、反撃を叩き込むつもりだ。


 しかしシャオランは、身体を回転(ターン)させただけで、鉄山靠は繰り出さなかった。フェイントだ。後ろに下がっていた狭山は、まだ迎撃のための体勢が整っていない。


「もらったよサヤマ!」


「……と、油断させておいて」


 シャオランが接近してきたタイミングで、狭山が右拳をまっすぐ突き出してきた。彼もまた、シャオランの攻撃を誘うためのフェイントを仕込んでいた。


 だが、突き出された狭山の右腕を、シャオランが左手で掴んで引っ張り、下げる。これによって狭山の身体が前へつんのめった。


「おっと……!」


「今度こそ、もらったよ! 外門頂肘(がいもんちょうちゅう)ッ!!」


 シャオランが右(ひじ)を折りたたみながら、その先端を狭山の右わき腹に突き刺した。狭山は吹っ飛ばされ、足でブレーキをかけながら止まる。


 しかし狭山もわき腹の間に左手を挟み、シャオランの肘をかろうじて防御していた。さすがに左手だけで全ての衝撃を受け止めるのは厳しかったのか、痛みを振り払うように左手をパタパタと動かしている。


「こうして弟弟子の成長を(なま)で実感できるというのは、本当に心が(おど)るね……!」


「ボクだって、師匠以外じゃ、同門対決なんて初めてだからね! ウソみたいだけど、今はちょっと楽しいよ!」


 二人は向かい合い、再び拳を構える。

 両者ともに、ここまで練気法を交えた肉弾戦ばかりで攻防を繰り広げているのは、同じ師を持った武人として、存分に試合を満喫するためなのだろう。


 しかし、ここで狭山の横から渦巻く暴風が飛んできた。

 狭山は大きくジャンプして、これを回避。


「今の攻撃は、エヴァちゃんか。もう足止めしていたレッドラムを片付けちゃったのか」


「お楽しみのところお邪魔します。無駄に戦闘を長引かせるつもりは、私にはありませんので。シャオランも、いつまでも二人だけの戦いを続けているわけにはいかないでしょう?」


「まぁ、仕方ないか。よし、それじゃあここからは真面目に!」


 そう答えて、シャオランは”空の気質”を展開。

 空へ逃げた狭山を(とら)えるため、展開した気質をさらに広げる。


 これに対して、狭山は空気を蹴ってさらに跳躍。

 はるか上空にて滞空し、赤黒い巨大火球を周囲に八個ほど生成。

 その禍々しい色は、恐らくは”怨気”の性質が備わった炎だ。


「ならば自分も、ここからは真面目に」


 狭山が右手をシャオランに向ける。

 それに合わせて、八個の巨大火球がシャオランめがけて飛んでいく。

 燃え盛る炎の塊が降り注ぐさまは、まるで流星群だ。


 火球がシャオランの”空の気質”の領域内に入った。

 その瞬間に、シャオランが連続して拳を振るう。

 火球に衝撃が与えられ、次々と誘爆した。


「やぁぁぁッ!!」


 全ての火球が破壊され、爆炎がシャオランと狭山の間で広がる。

 炎で互いに互いの姿が見えなくなるが、狭山はすでに”怨気”の光線を放つ用意。


「レッドラムを通じて、君たちの戦いは常に見ていた。この場面、次に君たちがどう動くか、直接見ずとも予想がつく」


 そして狭山が”怨気”の光線を放つ用意を整えた。

 ……が、それを地上のシャオランには向けず、自分の真後ろに向ける。


 その狭山の後ろには、次元のゲートで彼の背後を取ろうとしていたエヴァの姿があった。


「しまった、気づかれた……!」


「やぁエヴァちゃん。これはウェルカムサービスだよ」


 そう言って、狭山はエヴァに”怨気”の光線を発射した。

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