第1606話 この星を守るための戦い
日向たち五人と、狭山の決戦が始まった。
まずは、狭山が引き起こした地割れを飛び越え、落雷を掻い潜り、日影が斬りかかる。”オーバーヒート”の速度も乗せた、開幕早々の渾身の一撃だ。
「おるぁぁッ!!」
これに対して、なんと狭山は素手で防御。
両腕を交差させて構え、日影の斬撃を受け止めた。
よく見ると、日影の斬撃を受け止めた狭山の両腕に、赤黒いエネルギー障壁が発生している。恐らくは超能力でバリアーを生成し、それを両腕にピンポイントで纏わせ、鎧としたのだ。
「今の一撃を逃げもせず受け止めるたぁ、良い度胸してんじゃねぇか!」
「そりゃあ、記念すべき第一撃だからね。受けなければ、不作法というものだろう?」
現在の日影は”オーバーヒート”を行使中のため、狭山に『太陽の牙』の刃を押し当てながら火炎をまき散らしている状態だ。日影の刃を受け止め続けている狭山も容赦なく炎に炙られている。
しかし、まったく効いていないのか、それとも熱を感じていないのか、狭山は涼しい顔だ。そしてお構いなしに日影の剣を振り払い、右足で回し蹴りを繰り出し、その足から赤黒いオーラの刃を飛ばす。
「”鎌風”!」
「この程度ッ!」
日影は『太陽の牙』を振り抜き、狭山の”鎌風”を打ち消した。
その日影の横を通り抜けて、本堂が右腕の刃で狭山に斬りかかる。
「行きますよ……」
「どうぞ」
狭山に接近し、刃を生成した右腕を引き絞った本堂。
だが、彼が繰り出したのは右のローキックだった。右腕はフェイントだ。
雷電を纏い、稲妻のような速度で繰り出された本堂のローキックだったが、狭山はこれをジャンプして回避し、逆に本堂の頭部めがけて左逆回し蹴りを繰り出す。
あわや被弾するところだったが、本堂もギリギリのところで頭を下げて回避。遠心力がたっぷりと乗った狭山のかかとが、音を立てて本堂の頭上を通過した。
「くっ……! 一旦距離を取り、仕切り直す……!」
本堂は全身に電気をチャージし、それを一気に解放。
電撃はまるで爆発のように、本堂の周囲一帯を吹き飛ばした。
だがその一方で、狭山も身に纏う”怨気”の圧力を高め、そして爆発させた。本堂の電撃と狭山の”怨気”が激突し、両者は共に大きく後退する。
「奇遇だね。同じ攻撃を考えていたようだ。けれどこれで君に”怨気”が付着……おや? ”怨気”が付着していない? まだシャオランくんは”空の気質”を展開していないようだけど……」
本堂が”怨気”を受けていないのを見て、首をかしげる狭山。
しかし、すぐにその原因を特定し、合点がいったようにうなずいた。
「……なるほど、エヴァちゃんの能力か。シャオランくんの”空の気質”と同様の性質を持つ蒼い霧を発生させて、自分の”怨気”が付着してもすぐに打ち消せるよう予防しているね」
狭山の言うとおり、いつの間にかこの周囲一帯がうっすらとした蒼い霧に包まれている。あまりにも薄いので、よく目を凝らさなければ見えない程度だが、霧の効能は確かなようだ。
「見た目に反して、なかなか強力な効力を持つ霧だ。自分の”怨気”の出力にまで影響を及ぼしている。……良いね。自分もこの日を楽しみにして、君たちを待っていたんだ。それくらいやってもらわなくちゃ困る」
楽しそうに微笑みながら、狭山は右の拳に”怨気”を集中。
その右拳で地面を殴りつけると、”怨気”が大地を割りながら次々と噴出。押し寄せる波のようにエヴァへと迫る。
エヴァは、見上げるくらいに高くジャンプして”怨気”の噴煙を回避。そのまま空中で杖を構えて、地上の狭山めがけて熱線を発射。
「焼き尽くせ……”シヴァの眼光”!!」
発射されたエヴァの熱線は、地上に着弾すると同時に半径三百メートルを吹き飛ばすほどの大爆発を巻き起こす。狭山はその着弾地点から動いていなかった。命中だ。
……かと思いきや。
狭山は赤黒いバリアーを展開し、エヴァの熱線を防御していた。
「君に返した『星の力』を再び奪い取れば、自分はこの星の全ての力を回収できたことになる。それはすなわち、神にも等しい能力。くれぐれも奪われないようにねエヴァちゃん。君がやられたら、君たちは……この星は敗北確定だ」
そう言いながら、狭山は空中のエヴァめがけて大ジャンプ。
彼女の腹部を貫くべく、右の拳に”怨気”を集中させる。
しかし同時に、跳躍した狭山の背後から、素早くシャオランの”空の気質”が追い付いてきた。エヴァに向かって飛んでいた狭山を包み込む。
「おや」
「空の練気法”無間”ッ!!」
地上にいるシャオランが、その場で拳を振り下ろす。
すると、空高く跳んでいた狭山の頭部に強烈な衝撃が叩きつけられ、地面に向かってまっすぐ落下。
シャオランの”空の練気法”は、四つの練気法の全ての性質を併せ持っている。そこには当然、攻撃力を飛躍的に強化する”火の練気法”も含まれる。土煙が舞い上がるほどの勢いで、狭山は地面に叩きつけられた。
初めてかもしれない。
日向たちが、まともな一撃を狭山に打ち込んだのは。
その事実に喜んだり興奮したりする間もなく、シャオランはすぐさま日向の方へ振り向き、彼に声をかける。
「ヒューガ! 今だよ!」
そのシャオランの声を受けるより早く、日向は”紅炎奔流”の用意。まだ土煙が晴れやらぬうちに、その中にいるであろう狭山に大爆炎をお見舞いする。
「ナイス、シャオラン! 追撃は任せて! 太陽の牙……」
「そこに自分はもういないけど、それでも撃つのかい?」
「は!? 後ろ!?」
背後から声をかけられた。
狭山はすでに”瞬間移動”を使い、日向の後ろに移動していたのだ。
慌てて日向は振り返り、同時に『太陽の牙』を薙ぎ払おうとするが、その右腕を狭山の右手に掴まれ、止められてしまった。
そのまま狭山は、日向の右肩も左手で掴み、がら空きになった日向の右わき腹に右ひざを突き刺す。
「はっ!!」
「がぼっ……!?」
あばら骨が残らず粉砕されて、内蔵に突き刺さるほどの衝撃。
だが、日向は倒れず、踏ん張り、”復讐火”を発動。
まだ『太陽の牙』の間合いにいる狭山めがけて、フルスイングをお見舞いする。
「ぐ……りゃああああっ!!」
しかし、日向の刃は空を切る。
狭山は大きなバク宙を繰り出し、上空へと逃げていた。
上空に滞空し、狭山は地上の日向めがけて”怨気”の赤黒い光線を発射。同色の禍々しいスパークを放つ、高出力のエネルギーだ。
「小手調べといこう。これくらいで終わらないでくれよ、日向くん?」
「手厳しい小手調べですねっ!」
これに対して、日向も今度こそ”紅炎奔流”を発射。
二人の炎と光線は空中で激突し、熱波渦巻く大爆発が発生した。
狭山が地上に着地すると、また四方から皆が攻撃を仕掛ける。
絶えず猛攻に晒されている狭山だが、その表情は相変わらず、楽しそうであった。
「何しろ、この星で最後のお祭りだからねぇ。ゆっくり楽しもうじゃないか!」
「最後なんかにさせませんよ! あなたを倒して、祝勝会です!」
「あとついでに、テメェの葬式も同時開催してやるぜッ!」
日向と日影も左右から斬りかかりつつ、狭山にそう言い返した。