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第1601話 世界各地にて

 狭山誠が用意した七体の『星殺し』は、すべて(たお)された。

 実に九十日以上をかけてこの星を巡った少年少女と、その仲間たちによって。


 ロストエデンが倒されたタイミングで、この星に異変が起こっていた。

 ただし、異変とは言っても、良い異変だ。


 今までずっとこの星の空を(おお)い隠していた、分厚い灰色の雲。

 それが綺麗さっぱりと消え去って、久しぶりの空が見えていたのだ。


 この現象は一部地域だけでなく、この星の全ての地域で起こっていた。


 雪が舞う北国。

 ロシアの山間、ホログラートミサイル基地。


 そこではズィークフリドとグスタフ大佐の両名が、突き抜けるように青い冬空を見上げていた。


「ズィーク……雲が晴れたな」


「…………。(うなずくズィークフリド)」


「お前はこの現象、どう見ている? 私は、思うのだ。この星で何か、良いことが起きたのではないかと。そして、それはきっと、あの日下部くんたちが関係している」


「…………。(うなずく)」


「全てが終わったのか、それともこれから終わらせるのか……。ともかく、彼らの無事を祈るばかりだ……」



◆     ◆     ◆



 同時刻。

 こちらはアメリカ合衆国、機密兵器開発所。


 ここでは現在、発電機関や農作物プラントといったライフラインを完備しているこの施設を人類再興の拠点にするべく、アメリカのマモノ討伐チームや生存者たちが作業を行なっている。


 その機密兵器開発所の玄関でもある資材搬入口に、ジャックとコーネリアスが帰還した。


「おーやってるやってる。労働に精が出るねぇ同志諸君」


「お! お前ジャックじゃねぇか! コーディもいやがる! ブラジルから帰還したのかよ!」


「どうやってこっちに戻ってきたのよ? ヘリとか、日本チームが持っていた飛空艇とか、そういった飛行物体はまったく確認できなかったわよ?」


「アイツらと一緒にいたエヴァがな、次元のゲートを(ひら)けるようになったんで、ここまで送ってもらったんだよ。んで、ここから先の戦いは、残念ながら俺たちじゃもうついて行けねーと判断して、後はアイツらに託して離脱させてもらった」


「お前らでも付いていけない戦いになるって? そりゃどんな地獄だよ?」


「ま、言ってしまえば、ラストバトルってヤツだよ」


「……そうか。いよいよ決着の時なんだな。この星の未来はこれからも続くのか、それとも終わるのか……」


 ジャックの返答を聞いて、集まってきた兵士たちは沈黙した。

 戦友である日本チームの勝利を、心の底から祈った。


 その時、その兵士の中の一人が、コーネリアスの後ろを見て何かに気づく。


「コーネリアス少尉が引きずってきた、あの大きな箱……。あれって、棺桶(かんおけ)ですか?」


「……ああ、そうだ。俺たちも報告しとかねーとな。レイカの親父さん、ここに来てるんだろ? 会えるか?」



◆     ◆     ◆



 こちらも同日、同時刻。

 日本海、海上。


 海の上を漂う、二隻のミサイル駆逐艦。

 そしてもう一隻。生存者たちが集まるヘリコプター搭載護衛艦『ひゅうが』。


 日向たちを送り出した後、この空母艦隊はレッドラムの襲撃を退けつつ、各地を転々と移動していた。その戦いの間に、三隻残っていたミサイル駆逐艦も新たに一隻、沈められてしまった。


 その空母艦隊の、空母『ひゅうが』にて。

 マモノ対策室臨時室長を務める倉間が、日向の父親……日下部陽介がいるブリーフィングルームに飛び込んできた。


「おい日下部一佐! 大変だぞ!」


「どうしたよ倉間室長さん? この空が久しぶりに晴れ渡った以上に大変なことが起こったのか?」


「マモノ対策室のメンバー……アンタの息子の仲間の本堂仁からスマホで連絡が入った! 連中は先日、七体の『星殺し』を撃破! 少し休息を取った後、いよいよ狭山の野郎と……この”最後の災害(テラ・バスタード)”を引き起こした張本人との決戦に向かうそうだ!」


「おいおい大ニュースじゃねぇか! そうか、そんな予感はしてたが、あの青空は日向たちが取り戻してくれたんだなぁ!」


「ただ……全員無事とはいかなかったようだ。あんたの息子と交際もしていた北園良乃が、戦死したらしい……」


「北園ちゃんが……? マジか、良い子だったのにな……。日向もさぞツラいだろうが……なんとなく父親の俺には分かる。こういう時、あえて声はかけずそっとしておいてやるのが、日向にとっては助かると思う」


 陽介もまた北園の死を(いた)み、黙祷。

 しばらくブリーフィングルームが静寂に包まれる。


 その沈黙を破って、倉間が話を再開した。


「……報告を続けるぞ。さっき、本堂からスマホで連絡を受けたって言ったな?」


「ああ、それだ。そっちも気になってた。今まで電話、携帯、無線、その他一切の通信が遮断されていたはずだが……電波が回復したのか?」


「そうらしい。試しに俺のスマホから、他の人間のスマホにもかけてみたが、全部つながったよ。日向たちが七体の『星殺し』を倒したからかもしれないな」


「そうか! だったら、こうしちゃいられねぇ! 今から各海上自衛隊基地に連絡を取る! 人間だって強ぇんだ! どこかの基地はまだ生きているかもしれねぇし、壊滅した基地にまだ生き残りがいるなら拾って助けてやらねぇとな!」


「同感だ。俺も政府関係の各施設や、古巣の陸上自衛隊基地に連絡してみるよ」


「はっは! 忙しくなるなぁ! 俺たちも日向たちに負けていられねぇぜ!」


 さっそく陽介と倉間はそれぞれのスマホを取り出し、方々への連絡を開始する。


 一方、そのブリーフィングルームの外。

 そこには、狭山の補佐を務めていた的井がいた。


 彼女もまた電話通信が回復したことを倉間と陽介の二人に報告しようとここに来て、ブリーフィングルーム内の二人の話が聞こえてきたので、聞き耳を立てていた。


「日下部くんたちと……狭山さんが……いよいよ……」


 彼女は狭山に慕情を抱いていた。

 その狭山が、まもなく命を落とすかもしれない。


 この星の未来のためにも、狭山は倒されなければならない。

 頭では分かっているのだが、彼の無事も願ってしまう自分に気づいた。


「我ながら、なかなか振り切れないものね……。どうしてあんな人と出会ってしまったのかしら」


 悪態をつく言葉とは裏腹に、わずかに微笑みながら、彼女はそうつぶやいた。

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