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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1594話 罪業の終焉

 レオネ祭司長にトドメを刺すため、日向と日影が動く。

 まず動いたのは日影。


「”オーバーヒート”ッ!!」


 日影が激しい炎を(まと)い、レオネ祭司長めがけて一直線に飛んでいく。彼が通過した勢いで白い花が舞い上がり、同時に火が燃え移って焦げ落ちる。大地に咲いている白い花も焼き払われる。


 白い花吹雪が舞い上がり、壁のように日影の行く手を阻むが、やはり炎の塊と化している今の日影にそのような妨害は通用しない。花吹雪をあっさりと突破し、その先のレオネ祭司長へ迫る。


 音速に到達するほどの猛スピードで滑空する日影だが、レオネ祭司長はすでに日影の動きを(とら)えている。右手を振るい、風を凝縮した真空刃を射出してきた。エヴァの”スサノオの一太刀”と同じく、空間そのものを断裂させる威力を持つ超常のかまいたちだ。


「はっ!」


 レオネ祭司長の真空刃は、日影が身に(まと)う灼熱の炎もお構いなしに切り裂いて突破。『太陽の牙』を持っている彼の右腕を切断、斬り落とした。


「ぐッ!? クッソ、ここまで来て止められるかぁぁッ!!」


 日影もまたお構いなしに突撃。

 バランスを崩しながらも、その身体をぶつけるように、レオネ祭司長に向かって飛んでいく。


 レオネ祭司長は身をよじって、日影の回避を試みる。

 しかし完全には回避しきれず、彼の身体の一部が引っ掛かって、強烈な衝撃と熱が叩きつけられた。


「くぅっ……! しかし、私はまだ終わらない……ロストエデンは終わらない! そして、『罪業』が……(そそ)がれることは、ない……!」


 大きく体勢を崩すも、再び立ち上がるレオネ祭司長。

 日影は完全に飛行のバランスを失い、彼女の背後にて派手に転倒。


「これでしばらく彼は動けないはず。次は『牙』を……!」


 日影を気にしつつも、正面に視線を戻したレオネ祭司長は、驚愕の表情を見せた。すでに目と鼻の先に日向が迫っていたからだ。


「もう逃がしませんよ、レオネ祭司長っ!!」


「馬鹿な。想定よりずっと接近が早い。”復讐火(リベンジェンス)”が適用されていない彼の身体能力は常人並み。そして刃と化した私の花弁は、彼の足止めをするには十分。以上の二点から、これだけの短時間で彼に接近される事は、絶対に有り得なかったはず……」


 なぜ、日向はレオネ祭司長の予測を超えて、短時間で接近することができたのか。


 まず第一に、日向はレオネ祭司長の予想に反して、ここまで来るのに白い花弁に邪魔されることはほとんどなかったのだ。先ほど日影が”オーバーヒート”でレオネ祭司長に接近した際、その軌道上の白い花が全て焼き払われ、レオネ祭司長まで続く一本道になったからだ。


 そして二つ目。日向の身体能力についてだが、それは日向の後ろからついて来ていた北園の姿を見て、レオネ祭司長は察した。


「なるほど……。北園良乃が『牙』の体内を”発火能力(パイロキネシス)”で焼いて、それを利用して”復讐火(リベンジェンス)”を発生させている……。そうして強化した身体能力で、ここまでの急接近を……!」


 今度こそ完全に日向に追い詰められたレオネ祭司長だが、それでも彼女は諦めていなかった。残されたわずかな猶予で、右の手のひらに、時間が許す限り『星の力』を充填し、凝縮する。


 そうしてレオネ祭司長の右手の上に、またあの蒼い光球が生成された。

 急造のため、今までより威力は落ちているが、それでも込められた『星の力』の量は凶悪そのもの。


 その蒼球を、レオネ祭司長は日向めがけて突き出した。


「我が罪業を、(ゆる)されよ……! ”終焉果実・失楽園(ロスト・アーリア )”!!」


 対する日向も、尋常ならざる熱波と共に『太陽の牙』から灼光の刃を生み出し、それを振り下ろす。


「太陽の牙……”最大火力(ギガイグニート)”ッ!!」


 日向の灼熱の光剣と、レオネ祭司長の蒼い光球が激突する。


 灼熱の光剣は、激突してきた蒼い光球を一撃で消し飛ばし、焼失させた。


 つまり打ち勝ったのは、日向。

 やはり『太陽』の炎の前には、いくら『星の力』を凝縮しても、その力関係が(くつがえ)ることはなく。


 振り下ろされた『太陽の牙』の勢いは止まらない。

 そのままレオネ祭司長の左鎖骨に食い込み、彼女の胸部から右わき腹にかけて大きく切り裂いた。


「あ……」


 レオネ祭司長が、唖然(あぜん)とした声を上げた。

 彼女の背後で浮かんでいた大きな月桂冠もまた、彼女もろとも真っ二つにされて、焼き尽くされた。


 それとほぼ同時に、切り裂かれた彼女の身体から、強烈な熱波が突き抜けた。この大地の果てまで届くのではないかと思うほどの、紅蓮の剣風が。


 レオネ祭司長は震える手で、自分の胸部に触れる。


 日向の炎斬の威力があまりにも高すぎたために(いま)だに落ちずにくっついてはいるが、もうレオネ祭司長の身体は真っ二つにされている。胴体に大きく刻まれた緋色の斬撃痕からはおびただしい量の出血が見られ、黒煙も噴き上がっている。


 そして、彼女の生命活動を支えていた心臓も、完全に破壊されていた。


「……お見……事……うぐ……」


 これまでの驚異的な生命力が嘘のように、レオネ祭司長は背中から、白い花畑の中に倒れ込んだ。

 その衝撃で白い花が舞い上がり、日向の(ほほ)をなぞるように飛んできたが、もう日向の身体が花弁によって切り裂かれることはなかった。


 終わったのだ。

 最後の『星殺し』ロストエデンは、ここに(たお)された。


 日向も”最大火力(ギガイグニート)”を解除し、息を整える。

 ついにロストエデンを倒したが、歓声を上げる気にはなれなかった。


 白い花畑の中に沈み、沈黙しているレオネ祭司長。

 狭山の記憶で見た彼女は、その狭山を教え、導いた人格者だった。

 本来、こんなふうに終わっていい人間では、なかったはずだった。


「それでも俺たちは、彼女を倒す必要があった……。『人間は、間違えながら生きていく』か……。我ながらよく言ったよ……」


 つぶやく日向。

 その時、彼の後ろから北園が歩み寄ってきた。


「日向くん。やったね」


「うん。北園さんもありがとう。最後は、おかげで勝ちまで持っていけた。こっちの負担も軽くて、最高の火力調整だったよ」


「ううん、どういたしま……して……」


 言葉の途中で、北園の身体が大きく揺れる。

 そして、日向の方に向かって倒れてきた。


「き、北園さん!?」


 倒れてきた北園を受け止める日向。

 そして、同時に思い出した。

 ロストエデンの最期が、今の北園の最期だということを。

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