第1591話 間違えながら生きていく
先ほどまで全員、レオネ祭司長の白い花によって倒れていた日向の仲間たちだったが、今では全員が白い花を振り払い、立ち上がっている。
「馬鹿な……。自分自身に咲いている花さえ除去できないほどに消耗していたはず。時間をかけたならいざ知らず、あの短時間で、しかも全員、どうやって……」
「ちょっと格好つけて口上を述べたりしましたけど、実は俺もそのへん、全然わかってないんです。誰のおかげだったの?」
レオネ祭司長を警戒しつつ後ろを振り向き、日向は仲間たちに尋ねる。
すると、全員が北園の方を見た。
「北園さんのおかげ?」
「さっき、少し日影くんに白い花を取ってもらって、それでちょっとだけ超能力のエネルギーも回復したから、日向くんとレオネ祭司長が話をしている間に、目視超能力でみんなの身体の花を凍らせたの。まずはシャオランくんから。それから本堂さん、ミオンさん、視界に入った人から順番に」
「そんな器用な使い方もできたのか……」
「私もできるとは思わなかったけど、せっかく日向くんが助けてくれたのに、それをレオネ祭司長が間違いだって言うからさ、見返してやるーって思って」
「それでしっかり結果を出してるんだから、さすが北園さん」
「えへへー。ほめられた」
北園から話を聞いた日向は、再びレオネ祭司長の方へと向き直り、彼女に声をかけた。
「どうですか? これでもまだ、俺が北園さんを助けたのは間違いだったって言いますか?」
「結果論に過ぎません。それにどの道、あの場面において、貴方は彼女を助けるより、私を攻撃するべきだった事は紛れもなく事実。貴方はこの星の全てを背負って戦っている身でありながら、己のエゴのために貴重な一手を無駄にした!」
そう叫ぶと、レオネ祭司長は背後の大きな月桂冠を頭上に浮かべて、その中心から大きな緑のビームを勢いよく発射。さらに月桂冠の円周から追尾光線も次々と射出。
日向たちも一斉に散開し、ビームを回避。
追尾光線は北園と本堂が電撃で撃ち落とし、日向は『太陽の牙』を振るって打ち払う。
「随分と、無知とか間違いに厳しいんですね! 狭山さんの記憶で見たあなたは、そんな性格じゃなかったと感じましたが!」
追尾光線を打ち払いながら、日向がレオネ祭司長に声をかける。
それと同時に、本堂とミオンが追尾光線を回避しながら突撃。
レオネ祭司長との距離を詰めて、それぞれ攻撃を仕掛ける。
「切り裂いてくれる……!」
「右手は使えなくなっちゃったけど、それなら足よ!」
目にも留まらぬ速度で繰り出される二人の攻撃。
レオネ祭司長は両手で捌いていたが、やがて対処しきれなくなり、左腕を斬られて大量出血。さらに右わき腹を蹴り飛ばされて大きく後ずさる。
「くっ……!」
レオネ祭司長は”瞬間移動”を使用し、本堂たちから距離を取る。
だが、その移動先で、あらかじめシャオランが”空の気質”の領域を展開。レオネ祭司長が入ってきた瞬間、”無間”の拳でレオネ祭司長の脊髄に強打。
「やぁぁッ!!」
「ぐ……!」
強烈な衝撃が迸る。
レオネ祭司長の動きが止まるが、すぐに持ち直し、シャオランに向かって輝く猛吹雪を発射。
大地に咲き誇る白い花が、吹雪によって舞い散り、凍る。
シャオランは大きく左へ跳んで、この吹雪を回避。
シャオランが下がると、今度は日向がレオネ祭司長に駆け寄る。
『太陽の牙』をイグニッション状態にして、右方向から接近し、斬りかかる。
「人間は全知全能じゃないんです! どうしたって間違いは起こすし、何も知らないまま間違った道を進むことなんてしょっちゅうです! でも、その間違った道の先に最高のゴールは無いって、誰が決められるんですか? 間違った道の上じゃ、良い思い出は作れないんですか!?」
剣を振るいながら、レオネ祭司長にそう問いかける日向。
彼女は何も答えず、攻撃を回避しつつ、日向を暴風で吹き飛ばす体勢に。
しかし、そのレオネ祭司長の意識が突如としてブラックアウトする。
脳髄に電流が走ったような痛みと共に。
「う……!? 今のは、北園良乃の超能力……!」
彼女の推察どおり、今のは北園の”電撃能力”の攻撃。目視による超能力で、レオネ祭司長の脳髄に直接、電撃を流した。
そうしてレオネ祭司長の動きが止まった瞬間を狙い、日向が『太陽の牙』で刺突を繰り出す。狙いは彼女の心臓だ。
「はぁぁっ!!」
……だが、レオネ祭司長が重力操作の能力を使用。
日向はレオネ祭司長の目の前で地面に叩きつけられ、凄まじい重力に押し潰されて立てなくなってしまう。
「がはっ……!?」
「ああっ、日向くん!? 日向くんを放してー!」
北園が”電撃能力”の威力を強め、レオネ祭司長の脳髄にさらなる高圧の電流をお見舞いする。まっとうな生物なら間違いなく即死する攻撃だが、レオネ祭司長は耐えている。
電撃を流されながらも、レオネ祭司長は北園を一瞥。
すると、また北園の身体に白い花が咲いて、彼女のエネルギーを奪ってしまう。
「あ、また……!」
「キタゾノ! 援護すル!」
コーネリアスが北園のもとへ駆け寄り、彼女を守りつつ白い花の除去にかかる。
一方、日向はまだレオネ祭司長の重力に押し潰されていた。
その重さは凄まじく、地面はひび割れ、日向の手足は変な方向に曲がり、内臓が潰れて吐血する。
「あっ、が……! ぐ……おぉ……”復讐火”……!!」
その押し潰されるダメージを逆に身体強化に利用して、日向は超重力の中で無理やり立ち上がった。そしてレオネ祭司長を見つめて、再び声をかける。
「たとえば俺だって、この『太陽の牙』があんな特級呪物だって知ってたら絶対に拾いませんでしたし、狭山さんがあんな危険人物だって分かっていたなら、もっと早く止めていました! けれど、あの人と過ごした時間は今でも大切な思い出ですし、ここまでの皆との旅も、辛いことや大変なこともたくさんありましたけど、楽しかった! それもまた、間違いなく事実なんです……!」
無理やり立ち上がった日向を見て、反撃を受ける前に彼から距離を取ろうとするレオネ祭司長。
しかしその前に、急に彼女を白い冷気が包み込み、次の瞬間には彼女の五体が瞬時に凍り付いた。
「これは……」
「私の能力、です……!」
少し離れたところで、エヴァがそう答えた。先ほどまで身体に咲いていた白い花にエネルギーを吸収されていたが、それも日影によって取り払われ、力を取り戻したようだ。
凍って動けなくなったレオネ祭司長めがけて、日影が飛んでくる。
”オーバーヒート”によって炎に包まれ、炎の矢のように。
「日向ごと吹っ飛ばしてやるッ!!」
「何度来ても同じこと……!」
レオネ祭司長は、また重力場を発生させて日影を落とすつもりだ。
……が、ここで日影は軌道を変更。
急に高度を上げて、レオネ祭司長の上空を通過した。
「なに……? 攻撃を外した……?」
「ありゃ、つまり陽動だぜ。ミス・レオネ」
レオネ祭司長の背後でジャックの声がした。
それと同時に、ジャックは強烈な勢いで踏み込む。
もうすでに、彼とレオネ祭司長の間合いはゼロ距離だ。
全身を時計回りに引き絞り、溜め込んだパワーを一気に解放するように、ジャックは右手の高周波ブレード『鏡花』を全力で突き出した。
「”パイルバンカー”ッ!!」
それは恐らく、生身の人間が生み出せる史上最大級の馬力。
恐るべき勢いで突き出された『鏡花』の切っ先は、デザートイーグルの銃弾にも耐えたレオネ祭司長の表皮を……彼女の右わき腹を貫いた。
「くぅっ!?」
「悪ぃな、容赦はしねーぜ!」
レオネ祭司長の右わき腹に突き立てた『鏡花』を、ジャックは刃を右へ捻りながら左へ振り抜く。レオネ祭司長の右わき腹が切り開かれた。
「小癪……!」
レオネ祭司長は力を溜めた後、全身から強烈な熱風を放出。近くにいたジャックを、そして次に攻撃を仕掛けようとしていた本堂やシャオラン、日影やミオンをまとめて吹き飛ばしてしまった。
「うおおっ!? 熱ちちちち!?」
「ぬぅ……! 尋常ならざる高温だ……。マモノ化して人間よりも高い熱耐性を持っている俺にも、これだけのダメージを……!」
「あっつぅぅ!?」
「クソ、しぶとい野郎だぜ……!」
「地の練気法”岩窟”で耐えられるけど、これ以上は近づけないわね……!」
だが、そんな熱風を真正面から突っ切って、レオネ祭司長に接近する人物が一人。日向である。”復讐火”をフル稼働して、炎の塊になりながら突撃する。
レオネ祭司長は、接近してくる日向に対して、先ほど彼を気絶させたようなカウンターの掌底を突き出す。彼の刺突に合わせた一撃だ。
しかし日向は、今度は右肩を突き出して、レオネ祭司長に激突。
刺突を予測して繰り出されたレオネ祭司長の掌底を受け止めつつ、彼女に体当たり。
「らぁぁっ!!」
「うっ……!?」
電車に激突されたかのような勢いで、レオネ祭司長は吹っ飛ばされた。
そして日向は、再び彼女に言葉をかけた。
「人間は、間違えながら生きていく。自分が選んだ道が正解か間違いか、いつだって悩んでる。その間違いが罪とされることもあるでしょうし、罰が必要になることもあるでしょう。でも、間違いを恐れて何の行動も起こせないんじゃ、俺たちはどこへも行けやしない!」