第1589話 終焉果実・失楽園
レオネ祭司長が仕掛けてくる。
『星の力』を充填し、強力な攻撃を仕掛けてくるつもりだ。
現在、レオネ祭司長は目を閉じて、静かに集中しているような様子だ。彼女の全身が淡い蒼色の光を放ち、空気が震えているように見える。どう見ても、何らかの大技を発動する雰囲気である。
「と、止めないと! 私の目視超能力は、この距離じゃ届かないから……これならどう!? ”氷炎発破”!!」
北園が上空のレオネ祭司長めがけて、火炎弾と冷気弾を同時発射。
それに合わせて、本堂とミオンも動く。
「援護する! 雷撃……!」
「私もやるわよ! ”鎌風”!」
本堂が全身から電撃を、ミオンは右足を振り抜いて鋭い真空刃を射出。それぞれレオネ祭司長に向かって飛んでいく。
しかし、レオネ祭司長の背中の月桂冠が発光し、そこから緑の追尾光線を発射。本堂の電撃もミオンの真空刃も撃ち落とされ、北園の”氷炎発破”も炎と冷気が混ざり合う前に破壊されてしまった。
追尾光線はまだ射出され続けている。
残った光線が地上に降り注ぎ、着弾。
次々と緑の爆発が巻き起こり、北園たちも容赦なく巻き込まれてしまう。
「わわっ、バリアー!」
「くっ……これでは片手間で処理されるか……!」
「レオネちゃん、攻撃しながら『星の力』の充填を続けてるわ! さすがに器用ね。エヴァちゃんよりも手数が多い……!」
このレオネ祭司長の追尾光線を掻い潜って、エヴァとシャオランが前に出た。エヴァもまた『星の力』を充填させ、シャオランは蒼白い”空の気質”をその肉体に滾らせている。
「向こうが手数で押すならば、大火力で押し潰します! ”シヴァの眼光”!!」
「火の練気法”炎龍”ッ! いっけぇぇ!!」
エヴァが放った灼熱の熱線と、シャオランが放った”空の気質”の大奔流が、降り注ぐ緑の追尾光線を粉砕しながら、同時にレオネ祭司長へと飛んでいく。
だがレオネ祭司長は、今度は自分の周囲に、渦巻く強力な重力場を発生させる。
その重力場が軌道を捻じ曲げ、エヴァの熱線もシャオランの気功波もレオネ祭司長から逸らしてしまった。
「しまった、失敗してしまいました……!」
「も、もう一発、間に合うかな……!?」
すると、今度は日影が”オーバーヒート”で地上から飛び立ち、レオネ祭司長へ接近を試みる。
「だったら直接叩き落としてやるッ!」
「学習しませんね」
レオネ祭司長がそうつぶやくと、閉じていた目をカッと開いた。
同時に、先ほどエヴァたちの攻撃を逸らした重力場が波動となって射出され、日影に襲い掛かる。
重力の波動を真正面から受けた日影は、吹き飛ばされはしなかったが突破することもできず、空中で制止。
「くそッ、これくらい……!」
「ならば、駄目押しです」
その言葉と共に、レオネ祭司長の背中の後ろの大きな月桂冠が彼女の頭上へと浮かぶ。
その月桂冠の中心に緑色の生命エネルギーが集中していき、巨大な光線となって日影に射出された。
「ぐッ……うおおおおおッ!?」
重力波と巨大光線の二重攻撃を受けた日影は、とうとう押し負けて緑の光線に流されてしまう。そして大爆発と共に地上へ叩きつけられた。
日影を押し流し、地上に着弾した緑の光線。
その爆発の規模は相当なもので、周囲にいた仲間たちも巻き込まれてしまった。
巻き込まれた皆は軽傷、あるいは能力による防御でほぼ無傷ではあるが、体勢を崩され、爆風でレオネ祭司長を見失い、行動が阻害されてしまう。
「ぺっぺっ、口に砂が入っちまった。オマエら、無事か? ヒカゲのヤツ、押し込まれてるんじゃねーぜ……」
「な、なんとか。ボクとエヴァは無事」
ジャックの呼びかけに、シャオランがそう返答。
日影はなんとか生き延びているようだが、ぐったりとその場に倒れている。
その一方で、近くにいたコーネリアスが、ジッとレオネ祭司長を見つめていた。
「……おイ。あれハ、まずいのではないカ……?」
その言葉を聞いて、皆の視線が一斉に、上空にいるレオネ祭司長へと向けられる。
レオネ祭司長の右手の上に、蒼い輝きを放つエネルギー球が一つ、生成されていた。
ちょうどリンゴくらいの大きさのエネルギー球だが、コーネリアスから見ても分かった。あのエネルギー球は、信じられないほどに膨大な『星の力』が凝縮されて作られている。
次いで、エヴァも言葉を発する。
「あれは……私の”星の咆哮”に匹敵するエネルギーが感じられます……! あれが爆発したら、この街ごと吹き飛ばされるかと……!」
「おいウソだろ!? どーすんだ!? ヒュウガはまだ気絶してんだぞ! そんなエネルギー、アイツ以外に対抗できるヤツいねーだろ!?」
「使える手段をすべて使って防御するしかありません! 皆さん、集まってください! オリハルコンの岩壁を生成し、防護壁にします!」
そう言ってエヴァが地面に手を当て、”地震”の権能で大地を隆起。
その隆起した大地に『星の力』を流し込み、蒼い結晶へと変化させる。
そのはずだったのだが。
隆起した大地がオリハルコン化しない。
少しだけ蒼く結晶化するが、大部分は土のままだ。
「これは……! 隆起させた地面に、レオネの白い花が咲いている……! オリハルコン化のための『星の力』を奪い去ってしまう……!」
「うぇぇぇ!? ”星の咆哮”並みの攻撃を生身で受け止めろってことぉ!?」
「と、とりあえず私がバリアー張るね!」
北園が大きなドーム状のバリアーを生成し、皆をその中に匿う。
しかし、エヴァだけがバリアーの外へと飛び出し、レオネ祭司長に立ち向かう。
「エヴァちゃん!? なんでバリアーから出るの!?」
「良乃のバリアーでも、あのエネルギーを受けるのは危険だと思ったからです! ただ、私なら、あの攻撃をどうにかできるはず! 六体の『星殺し』から『星の力』を取り戻した今の私なら、正面からの撃ち合いであればレオネには負けません!」
そう答えると、エヴァは再び『星の力』を充填。
レオネ祭司長と同じく、エヴァもまた周囲の空間が震えるほどのエネルギーをその身に宿す。
そうしているうちに、レオネ祭司長が、右手に浮かべていた蒼いエネルギー球を地上へと落とした。
「無知は罪。無力は罪。欲は罪。
罪には罰を。業には裁きを。
星よ……赦したまえ。”終焉果実・失楽園”」
レオネ祭司長の手から離れた、蒼いエネルギー球。
落下していくうちに、その速度をぐんぐんと上げて地上へと迫る。
ここで、エヴァも『星の力』を充填完了。
落ちてくる蒼いエネルギー球めがけて、超巨大な蒼いエネルギーの奔流を撃ち出した。
「星よ、奏でたまえ……”星の咆哮”!!」
射出と同時に、エヴァの周囲の地表がめくれ上がる。
それほどの凄まじい威力で撃ち出しているということだ。
やがてエヴァの”星の咆哮”が、レオネ祭司長のエネルギー球に命中する……その直前。
レオネ祭司長のエネルギー球が、独りでに爆発。
その凝縮されていた『星の力』を一気に解放するように、周囲に尋常ならざる破壊の衝撃を巻き起こす。
蒼い衝撃波と、エヴァの光線が激突。
撃ち負けたのは、エヴァだった。
真っ向から突破されたというより、あまりにも強烈な衝撃によって”星の咆哮”が崩されてしまい、そのまま霧散させられてしまった……そんな決着だった。
「そ、そんな!? 出力は私が勝っていたはず!? ……うああああっ!?」
迫ってきた蒼い衝撃波に、エヴァが吹き飛ばされてしまった。
そして、その後ろにいた、北園のバリアーに包まれている皆も。
異常なまでの破壊エネルギーは、バリアーも一撃で粉砕してしまった。
「きゃあああっ!?」
「うおおおおおッ!?」
「わぁぁぁぁ!?」
皆を悉く薙ぎ払い。
地表も、流れていた河も、残っていた建造物も全て吹き飛ばし。
ようやく、蒼い衝撃波は収まった。