第1587話 シン・ロストエデン討滅戦
日向たちと、レオネ祭司長の、最後の戦闘が幕を開けた。
まずは日向が飛び掛かり、レオネ祭司長めがけてまっすぐ『太陽の牙』を振り下ろす。
分かりやすい、直線的な第一撃。
だが、その日向の下を潜り抜けて、姿勢を低くしながら本堂がレオネ祭司長に接近。
日向がレオネ祭司長の視線を上に向けさせ、本堂が視界外から間合いを詰める、見事な連携と言えるだろう。
そのまま本堂はレオネ祭司長との間合いをゼロまで詰めて、電気を帯びた右腕の刃を思いっきり振り上げた。
「ふんっ……!」
だが、本堂の攻撃は外れた。
レオネ祭司長は”瞬間移動”を使い、二人からさらに離れた位置に姿を現した。
「今の私は、いわば外殻と本体が一つになった姿。この姿であれば、外殻と私自身の能力、どちらも際限なく行使することが可能です」
そう言うとレオネ祭司長は、日向と本堂の二人に右手を向けて、その手のひらから緑のビームを発射。ロストエデンの外殻が放っていたビームよりずっと小規模だが、それよりも威力が凝縮されたような迫力が感じられる、極太の明るい緑の光線だ。
日向と本堂の二人は左右に分かれて、このビームを回避。
ビームが通り過ぎた後の地面が、焼け焦げながら深く抉られていた。
「今のビームは、ロストエデンの外殻は飽きるほど使ってましたけど、レオネ祭司長は今まで使っていなかった……!」
「彼女の言葉通り、外殻と本体、両方の能力が使えるという事か……!」
さらに、レオネ祭司長が右手を振り上げると、彼女の周囲から木の幹ほどに太い四本の茨が生えてきて、日向たちに襲い掛かった。
これに対して、エヴァが前に出た。
杖の先端を向けて、そこから強烈な竜巻をまっすぐ発射。
「吹き荒べ……”セトの暴風”!!」
強烈な風の螺旋に巻き込まれた四本の茨。
しばらく耐えながら突き進もうとしていたが、やがてバラバラに引きちぎられた。
茨を突破して、エヴァの竜巻はレオネ祭司長に襲い掛かる。
しかし、レオネ祭司長はまたも”瞬間移動”を使用し、竜巻を回避した。
だが、”瞬間移動”を終えてレオネ祭司長が姿を現した瞬間、その彼女のこめかみに銃弾が撃ち込まれた。ジャックのデザートイーグルだ。移動地点を予測して、あらかじめ狙っていたのだ。
ところが、ジャックの銃弾は確かにレオネ祭司長のこめかみに命中したが、金属音と共に弾かれてしまった。少しは彼女の頭皮に傷がついているが、とても銃弾を……ましてや大型拳銃デザートイーグルを撃ち込まれたダメージとは思えないほどに軽傷である。
「堅ってぇ!? ロストエデンの進化で獲得した耐久力もそのまま受け継いでるってことかよ!」
その言葉に、レオネ祭司長は答えない。
ただ黙ったまま、ジャックを一瞥。
その瞬間、ジャックの身体から、あの白い花が生えてきた。
そして同時に、彼の全身から力が抜け落ちる。
「うぐッ……! その集中開花能力も健在ってコトかい……!」
「ジャック! しっかりしロ!」
ジャックの近くにいたコーネリアスが、彼を助け起こす。
その二人に、レオネ祭司長が右の手のひらを向けた。
「またビームを撃ってくるカ……!」
コーネリアスは左手に冷気を発生させ、足元に叩きつける。
氷柱の氷壁が生成され、彼らとレオネ祭司長の射線を遮断した。
……が、そのコーネリアスの行動は読まれていた。
彼らの周囲に、爆発する緑の蕾が複数咲く。
「しまっタ、右手はフェイント……! ぐぅぅっ!?」
蕾が爆発し、二人はその緑の爆風に巻き込まれてしまった。
コーネリアスはギリギリで回避行動をとったが、彼が肩を貸していたジャックと共に大きく吹き飛ばされる。
まだ爆風も晴れぬうちに、レオネ祭司長はジャックたちにトドメを刺すべく、次なる攻撃の用意。
そのレオネ祭司長の身体が、突如として炎上。
北園の目視による超能力だ。
身体が炎上していることを意に介していないかのように、レオネ祭司長は上空にいる北園をゆっくりと見上げ、口を開く。
「愛する者を守るため、ただひたすらに力を求めた、我らアーリアの最後の姫。貴女はヴェルデュに適合した者の中でも、最も強力な進化を果たしましたね」
そう告げると、レオネ祭司長は全身からエネルギーでも発したのか、身動き一つせずに一瞬で、身体を包んでいた炎を振り払った。
レオネ祭司長の背後の大きな月桂冠から、北園めがけて緑のホーミングビームが次々と放たれる。
北園は上下左右に激しく飛行しながら、レオネ祭司長のホーミングビームを回避し続ける。それと同時に火球や電磁球を撃ち返す。
「なるほど、よく避ける」
そうつぶやき、レオネ祭司長は”瞬間移動”を発動。
北園の目の前に現れ、彼女の腹部に右の手のひらを当てる。
「わ!? め、目の前!?」
「ここまで近づけば、避けようがないでしょう?」
直後、レオネ祭司長の右手からエネルギー弾が放たれ、ゼロ距離で北園の腹部に直撃。大爆発と共に、北園は撃墜されてしまった。
「きゃあああっ!?」
北園を撃墜したレオネ祭司長。
その彼女に、今度は日影が”オーバーヒート”で猛接近。
激しい炎を噴出する『太陽の牙』を、逆手に持って振り抜いた。
「おるぁぁッ!!」
レオネ祭司長はすぐさま日影から距離を取り、この斬撃をギリギリで回避。
だが、日影の勢いは止まらない。
そのままレオネ祭司長との間合いを詰めて、右の回し蹴りを放った。
「吹っ飛べッ!!」
レオネ祭司長は右腕を挟み、日影の回し蹴りをガード。
ガードされたが、お構いなしに日影は右足を振り抜いて、彼女を地表まで蹴り飛ばした。
地表に叩きつけられたレオネ祭司長は、大きくバウンドしながらも受け身を取って着地。足でブレーキをかけて、吹っ飛ばされた勢いを殺す。
「強烈……。しかし、進化の効果は出ている。あの程度の炎であれば、彼らの『太陽』の炎にも幾らか耐えられる」
日影の蹴りを受け止めた右腕の調子を確認しながら、レオネ祭司長がつぶやく。
そのレオネ祭司長を包み込むように、シャオランの”空の気質”が展開。
空の練気法”無間”を使って、遠距離から動かずにレオネ祭司長に殴りかかる。
「い、いくぞぉぉ!」
……しかし、シャオランの攻撃は不発。
彼の足元から無数のツタが生えて、彼を拘束してしまった。
拳を構えたままの姿勢で、シャオランは動けなくなってしまう。
「う、うう……! しまった……!」
「どこにいようと当てられる、間合いを無視する拳。受けないためには、そもそも攻撃を打たせなければいい」
拘束したシャオランに攻撃を仕掛けようとするレオネ祭司長。
そこへ、横からミオンが殴りかかった。
一瞬で十発近く繰り出されたミオンの拳を、レオネ祭司長は流れるような動きで回避。
今度はレオネ祭司長が掌底を突き出す。
その掌底をミオンが抑え、二人は身体ごと激突。
「ミオンクヌリフェ。こうして貴女と拳を交えるのも久しぶりですね」
「うふふ、久しぶりどころじゃないわよ~、七十億年ぶりくらいじゃないかしら~。これは私も燃えてくるわね~!」
「張り切っているところ悪いのですが、貴女に素手勝負を挑むなど愚の骨頂も甚だしいというもの。私はもう満足したので下がらせて頂きます」
そう言ってレオネ祭司長は飛び退き、ミオンから大きく距離を取る。
しかし、ミオンもレオネ祭司長を逃がさない。
瞬間移動じみた速度で前進し、一気にレオネ祭司長との間合いを詰める。
「つれないこと言わないで、もうちょっと付き合ってちょうだいな!」
そしてミオンが拳を突き出した。
その拳に纏うは、燃えるような”火の気質”。
命中。
地平の果てまで届くのではないかと思うほどの衝撃が突き抜ける。
だが、レオネ祭司長は微動だにせず、両手でミオンの拳を受け止めている。
ミオンの拳を受け止めているレオネ祭司長の両手もまた、深い砂色の気質を纏っていた。地の練気法の”瞬塊”だ。
「私の”爆砕”を受け止めるなんて、無茶するわね~」
「相変わらず恐ろしい威力の拳ですね。もう再生させましたが、両手の骨が一撃で粉々です。しかし……貴女は自分の心配をした方がいいでしょう」
「それはいったいどういう……うっ!? これは……」
レオネ祭司長と言葉を交わしている途中で、ミオンは自分の右拳に違和感を感じた。先ほどレオネ祭司長に受け止められた方の拳だ。
すぐに飛び退き、右拳を確認するミオン。
彼女の拳が、消えていた。