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第147話 断頭刑に処す

「あ、やば……」


 波に流され、ギロチン・ジョーの口の中へと放り込まれた日向。

 逃げる間もなく、その大顎がバグンと閉じた。


「ヒューガぁぁぁ!?」


 シャオランが日向の名を叫ぶ。

 本堂と日影も神妙な面持ちで日向の安否を心配する。


「……日影。お前や日向は、マモノの胃袋に放り込まれても復活出来るのか?」


「分からねぇな……。こりゃちょっとマズいか……?」




「……グオアアアアアアアアッ!?」


 しかし突然、ギロチン・ジョーが絶叫を上げた。

 そして開いた口の中を見ると、『太陽の牙』をつっかえ棒にして上顎を突き刺している日向の姿が。


「だから言ったろ! 俺なんか食ったら腹壊すって!」


「グオアアアアアアアアッ!?」


 ギロチン・ジョーは頭をもたげ、口を右に左にと大きく振り回す。

 やがてその勢いに負け、日向はギロチン・ジョーの口の中から追い出された。


「ああああぁぁぁぁぁぁ……」


 空中へと放り投げられた日向は、そのままどこかへ飛んで行った。

 高さ12メートル、距離80。

 この飛距離ではもう助からないだろう。


 そして、日向と入れ替わるように北園が復帰した。

 状況を確認するため、日影に話しかける。


「戻ったよ! ……あれ? 日向くんは?」


「死んだ」


「あちゃあ……。じゃあ、仇を取らないとね! ……あ、シャオランくんが怪我してる!? 治さないと!」


「こ、これくらいなら大丈夫! 治癒能力ヒーリングを使うと、どうしても隙を晒しちゃうからね……。それより、ギロチン・ジョーも消耗しているはずだよ。一気に決着をつけよう!」


「……む。来るぞ!」


 本堂が、残った三人に注意を促す。

 ギロチン・ジョーが波に乗って、四人を噛み潰さんと迫ってくる。


 そのギロチン・ジョーを迎え撃つべく、北園が床の水を凍らせる。


凍結能力フリージング!」


 分厚い氷がギロチン・ジョーへと迫る。

 しかしジョーは波の流れを変えて、迫る氷を左に回り込んで避けた。


 その時、シャオランがギロチン・ジョーの口の中に何かを発見した。


「んん……あれは……?」


 それは日向の『太陽の牙』だった。日向は振り飛ばされたが、つっかえ棒となった『太陽の牙』は、未だにギロチン・ジョーの上顎に突き刺さったままだ。


「あれを上手く利用できれば……」


 突き刺さった『太陽の牙』を見ながら、シャオランは呟いた。


「グオオオオオオオッ!!」


 四人の左側面に回り込んだギロチン・ジョーが、口を開いて飛びかかってくる。しかし四人はいち早くその場から離れ、噛みつき攻撃を避けた。


 そして、攻撃を避けた隙に日影がジョーの口元へと斬りかかる。


「おるぁッ!!」

「グアアアアアッ!?」


『太陽の牙』の刀身は、ギロチン・ジョーの甲殻を深く抉った。

 ギロチン・ジョーは頭を大きくもたげ、悲鳴を上げる。


「まだまだぁッ!!」


 ここで終わらせる勢いで、日影は連続してギロチン・ジョーを斬りつける。


 ……しかしギロチン・ジョーは倒れない。

 日影がジョーの体力を見誤った。

 ギロチン・ジョーは力ずくで日影の攻撃を突破し、噛みつきにかかった。


「グオアアアアアアアアッ!!」

「やべっ……!?」


 咄嗟に後ろへと飛び退く日影。

 しかしギロチン・ジョーの方が速い。

 顔に近い口元で、空中に浮いていた日影の下半身にかぶりついた。


「ぐ……ッ!?」

「ひ、日影くんっ!?」


 日影の下半身がギロチン・ジョーの口元に咥え込まれた。


 日向がつっかえ棒として突き刺した『太陽の牙』は、ギロチン・ジョーの口の先端あたりにある。ワニの口は縦に長いため、先端より先に口元が閉じる。つまり、口元で挟んだ日影を噛み砕く分には、『太陽の牙』はつっかえ棒として機能しないのだ。


 捕らえられた日影の脚に、容赦の無いギロチン刑が執行される。


「グウウウウウウ……!」

「ぐ……あ……!?」


 ギロチン・ジョーに噛まれた日影が顔を歪める。

 咥え込まれた脚に、尋常ではない激痛が走る。

 バキバキと、骨が噛み潰される音がした。

 北園が自身を呼ぶ声が、水の中で聞いているかのように、頭の中で反響する。


 しかし。

 日影の目は、まだ死んでいない。


「……おぉぉぉぉぉッ!!」


 日影はギロチン・ジョーに咥え込まれたまま上半身を持ち上げ、手に持つ『太陽の牙』をジョーの顔に突き刺した。


「グオアアアアアアアアッ!? グオアアアアアアアアッ!!」

「クソが……久しぶりに泥仕合としゃれ込むか! 燃えろ、『太陽の牙』!!」


 日影の声を受け、突き立てられた刀身に炎が灯る。

 それを日影は、噛まれたまま右に左にと動かして、傷口をさらに抉った。


 ギロチン・ジョーはたまらず、日影を地面に叩きつけた。


「グオアアアアアアアアッ!!」

「ぐっ!?」


 水が貯まっている床に勢いよく転がされる日影。

 日影の脚に火が灯り、再生を始めるが、まだとても動ける状態ではない。


 そしてギロチン・ジョーはすぐさま体勢を立て直し、その巨大な顎を開き、日影に追撃を仕掛けに来た。


「クソっ、こいつ、まだくたばらねぇか……!」


「……いや、これで終わりだよ!」


 日影に迫るギロチン・ジョーの横から、シャオランが駆け寄ってきた。身に纏う気質は砂色。『地の練気法』だ。身体能力が全体的に底上げされる。


 シャオランがギロチン・ジョーの前まで接近。

 そこから人間離れした大跳躍を披露する。


 そして、空中で呼吸を変えた。

 シャオランの足に赤色のオーラが灯る。『火の練気法』だ。

 シャオランは、跳びながら『火の練気法』に切り替えたのだ。


 そして、ギロチン・ジョーの上顎に流星のような飛び蹴りをお見舞いした。


「……せやぁぁぁぁッ!!」

「グボ……ッ!?」


 ギロチン・ジョーの口はシャオランの蹴りの威力によって強制的に閉じられ、口内にある日向の『太陽の牙』が、さらに上顎へと突き刺さり、貫通した。断頭刑の炸裂である。


 口を閉じられ、もはや断末魔を上げることも叶わない。

 ギロチン・ジョーは静かに、水が溜まった床へと沈んだ。



◆     ◆     ◆



 ギロチン・ジョーを討伐し終えた五人は、調整池の出入り口から地上へと帰還した。


 日向たちが戦った調整池は、街中の野球グラウンドの真下に建造されている。つまり、調整池の出入り口もまた、グラウンドのある公園の側に建てられている。


 地上に戻った五人を出迎えたのは、多数の野次馬。

 老若男女勢揃いしており、テレビカメラまでやって来ている。


「ご覧ください! 今、マモノ討伐チームの少年少女たちが帰還しました!」

「あれがマモノ討伐チーム? え、銃とか持ってないの?」

「剣持ってるよ! きっとアレでマモノを倒したのよ!」

「んな馬鹿な。マモノを即死させられる剣か何かかよ」

「見てあのメガネの人! カッコよくない!? アタシ、超タイプなんですけど!」

「小さな子供もいるぞ。あんな子が一体どうやって……?」

「同じ顔のヤツがいるぜ。双子かな?」



「何だこれ」


「熱烈な歓迎だねー」


「どさくさに紛れてボクのことを『小さい』って言った人はどいつだー!!」


「テレビカメラもいるな。日向、身バレするのは嫌だとか言ってなかったか?」


「いや、でもほら、俺ってカメラには映らないですから……」


「しかし、日影は映るのだろう? お前と同じ顔した日影は」


「……しまった! おい日影、早く顔隠して!」


「分かってるから手ぇ放せ! しょっぴかれる犯罪者みてぇになってんだろ!」


 五人は民衆を掻き分けながらその場を離れる。

 と、その先に狭山が立っているのを見つけた。乗ってきた通信車もある。


「やあ、お疲れ様! とりあえず、まずは車に乗って、銭湯にでも行こうか?」


「あ、さんせーい! もう身体洗いたくて仕方なかったんです!」


(北園さんがお風呂……)


「日向くん、どうしたの? ぽけーっとしてるよ?」


「い、いや、何でもない。何でもございません。ささ、早く車に乗ろう」


「??」


 狭山を合わせた六人が車に乗り込む。

 後の始末は地元警察が上手くやってくれるだろう。

 疲れと汚れにまみれた身体を癒すため、六人を乗せた車は銭湯へと走り出した。



◆     ◆     ◆



 五人が銭湯に向かう少し前。十字市にて。


『速報です。福岡市内の断水が回復しました。原因はマモノの仕業と判明し、マモノ対策室は討伐チームを派遣、無事にマモノの討伐に成功したとのことです。現場の岡本さん、現在の様子はどうなっていますか?』


『はい、現場の岡本です。マモノ討伐の知らせは入ったものの、討伐チームはまだ帰還していな―――あ、いえ! ご覧ください! 今、マモノ討伐チームの少年少女たちが帰還しました!』


 テレビでニュース速報が流れている。

 ソファにくつろいでそれを眺めているのは、日向の母だ。


 テレビには、四人の少年少女たちが映っている。

 皆、テレビカメラから顔を背け、顔まではよく分からない。


「へー。マモノ討伐チームの人たちって、結構若いのねー」


 何気なくニュース映像を見る日向の母。

 洋菓子に手を伸ばしながら、いつもの暇つぶしである。



「……え? 日向……?」


 洋菓子へと伸ばした手が、ピタリと止まった。

 テレビに映る息子の姿を見た瞬間に。

 テレビの中の息子は顔を背けているが、母親として見間違えるハズもない。


「ど、どうなって……? それによく見たら、あっちのあの子は北園さん……?」



 ……本当は、日向の母が見た少年は日影なのだが、彼女はそれを知らない。

 彼女は、息子の影が分離していることも、息子の寿命が一年ほどになっていることさえも、未だに知らないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何とか強敵を倒したと思いきや、まさかの親バレ?! 多くの「なろう」作家のみなさんなら、日向くんの気持ちわかるかも?! [気になる点] 果たして、読者サービスは、あるのでしょうか!? 期待し…
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