第1584話 不死の解剖
分かった。
日向が、確かにそう言った。
不死身の『星殺し』ロストエデンの倒し方が分かったのだと。
皆の視線が一斉に日向へと集まる。
期待、驚愕、本当に倒せるのかという懐疑。
様々な感情が皆の視線には込められている。
「日向くん、本当に分かったの? ロストエデンの倒し方が……」
北園がそう尋ねる。
それに対して、日向は強くうなずいた。
「今度こそ分かったと思う。けど、もしもこの方法まで外れていて、またロストエデンに復活されたら厄介だ。俺の考えが正しいかどうか、確かめることができる方法がある。まずはそれをやってみたい」
「確かめる方法って?」
北園に尋ねられると、日向は日影に声をかけた。
「日影。お前が仕留めたっていうレオネ祭司長の遺体がどこにあるか、分かるか? 確かめるにはレオネ祭司長の遺体を調べる必要がある」
「レオネの遺体だ? まぁ、場所は憶えてるけどよ。少し歩くぞ」
日影の案内を受けて、日向たちは移動。
崩れたビルの瓦礫の山までやって来た。
「そういや、ロストエデンの攻撃でこのビルも崩れちまってたか。どこかにレオネの遺体が埋まってるはずだ」
「まずは掘り起こしか。遺体があまりひどい状態になっていなければいいけど」
日向たちはそれぞれ手分けして、瓦礫を撤去。
ほどなくして、レオネ祭司長の遺体を発見した。
日影に貫かれた腹部の傷以外、特に目立った損傷は無い。大きな瓦礫に押し潰されてはいなかったようだ。
「レオネちゃんの遺体、見つけたわね。それで、次はどうするのかしら?」
ミオンが日向に問いかける。
すると日向は、今度は本堂に声をかけた。
「本堂さん。このレオネ祭司長の遺体の解剖をお願いできませんか?」
「解剖だと?」
解剖は、下手をすると遺体に要らない傷をつけてしまう恐れがある。それは死者に対しての無礼だ。素人が行なうべきではない。そういった考えからか、さすがの本堂もあまり乗り気ではないように見える。
「俺の志望は解剖医ではないぞ」
「分かっています。でも、この中で最も人体に詳しそうで、一番うまく解剖してくれそうなのが本堂さんですから……」
「それは違いないが……。せめて聞かせてくれ。俺がレオネ祭司長の遺体を解剖すれば、本当にロストエデンの倒し方が分かるのだな?」
「はい。俺の予想が正しければ、レオネ祭司長の遺体には――」
日向は本堂に、ロストエデンの倒し方、それを確かめる方法を教える。
それを聞いた本堂は、少し目を丸くした後、うなずいた。
「……承った。やってみよう」
「ありがとうございます」
「流石に素手でやるのはやりにくいが。メスかナイフか、何かあるだろうか」
本堂が皆にそう尋ねる。
ジャックがナイフを取り出し、本堂に手渡した。
「これでいいかホンドウ。軍用のサバイバルナイフだが」
「助かる」
ジャックからナイフを受け取り、本堂は執刀に取り掛かった。
本堂が手に持つサバイバルナイフが、レオネ祭司長の胸を切開する。
やはりグロテスクな光景なので、北園やシャオランあたりは目を逸らしている。
なにせ初めての執刀なので、本堂も緊張気味だ。
手探り状態で、日向から教えられた「それ」をレオネ祭司長の遺体から探す。
数分後。
本堂は、日向に声をかけた。
「……日向! お前の言ったとおりだった! このレオネ祭司長の遺体には、心臓が無い!」
相当、驚いているのだろう。
普段は冷静沈着な本堂が、驚愕と興奮に任せて言葉を発している。
「瓦礫に押し潰されたわけでも、日影に突き刺された際に損傷したわけでもない。あるべき場所に始めから無かったように、彼女の胸の中は空洞になっている。これは一体どういう事だ……!?」
「やっぱりそうでしたか! それが、ロストエデンの不死身の秘密です! 俺が『レオネ祭司長がロストエデンの本体だ』と予想したこと……それは間違いじゃなかったんです。外殻が滅びても、本体はまだ残っている。だから本体であるレオネ祭司長を倒せば、ロストエデンも終わる」
「しかし、外殻も本体も倒したにもかかわらず、ロストエデンはまだ復活の兆しを見せている」
「はい。レオネ祭司長を倒しても、まだロストエデンは終わっていない。それは、レオネ祭司長自身も、ロストエデンの外殻と同じ『細工』を施していたからです」
「ロストエデンの外殻と同じ細工……」
その日向の言葉を聞いた本堂は、少し考えこんだ後、ハッとした表情を見せた。
「……そうか! レオネ祭司長もまた、肉体と心臓を分離しているという事か! 外殻と本体を分離しているロストエデンのように!」
「そうです! 日影が仕留めたのは、レオネ祭司長の肉体だけだった! この人の心臓は、まだ別のどこかで動き続けている! ロストエデンを倒すには、どこかに隠されているレオネ祭司長の心臓を見つけ出して、破壊しなければならない!」
その言葉を聞いて、皆の間にどよめきが沸き起こる。
これまでの中で、もっとも確かな手ごたえを感じた。
しかしそこへ、シャオランが手を挙げて日向に質問。
「で、でもさ。そのレオネの心臓っていうのはどこにあるの? ボクたち、最初はロストエデンの正体が分からなかったからさ、ロストエデンを探すために飛空艇でブラジルの色々な場所を見て回ったよね。でも、レオネの心臓なんて、それっぽいものはまったく見覚えがないよ」
シャオランの言葉を聞いた皆が、また消沈しかける。
確かに、レオネ祭司長の心臓の隠し場所が分からなければ、結局ロストエデンは倒せない。
しかし、そのシャオランの問いかけに、日向が自信ありげな声で返答。
「大丈夫。それについても、アテがある」
「あるんだ!?」
「心臓っていうのは、車で言えばメインエンジンにも例えられる。生命活動の中心となるパーツだ。つまり、人体の中で最もエネルギーに満ちている。あるいは、エネルギーを生み出す起点となるもの」
「そうだね。ボクも練気法を使う時、心臓を循環する血流、湧き上がるエネルギー、色々と意識してるよ」
「心臓は、エネルギーの中心点だ。このブラジルの大地にもあったよな? 『星の力』というエネルギーが最も集中している場所。緑化現象の中心地が」
その日向の言葉を横で聞いていたエヴァが、ハッとした表情を見せた。
「まさか……ブラジリアの国立公園……!」
「それしか考えられない。俺たちが最初にあの国立公園に行った時、あの『星の力』の中心点に咲いていたロストエデンを伐採した。ロストエデンさえ倒せば『星の力』を取り返せると思い込んでいた。そう思い込んでいたから、ここまで遠回りしてしまった。きっとあの場所に……ロストエデンとの因縁が始まったあの場所に、レオネ祭司長の心臓があるはずだ」
「しかし、私たちは一度、あの国立公園を焼き払っています。それに巻き込まれていないのは……」
「きっと、地中深くに埋まっているんだと思う。それなら森を焼き払っただけじゃ、炎は届かない。エヴァがこのブラジルの『大地』からずっと『星の力』を感じるのにも説明がつく」
「確かに……全てのつじつまが合います……!」
これで、確定した。
このロストエデン討伐作戦のための最終目的地は、ブラジリアだ。