第1572話 有り得ざる回復能力
日影はすでに何度もロストエデンを斬りつけている。
しかしロストエデンは、日影から受けた傷を全て回復させていた。
日影や日向が持つ『太陽の牙』は、『星の力』による傷の再生を妨げる能力を持っている。仕組みとしては、『太陽の牙』による傷跡には、その剣と同じく”太陽”の属性を持つ熱が残る。その熱が、傷を塞ごうとする『星の力』を焼いてしまうことによるものだ。
だが、ロストエデンは日影から受けた傷を綺麗さっぱり治していた。
考えられる可能性としては、ロストエデンの回復能力は『星の力』に由来するものではなく、アーリアの民の超能力に由来するものというパターン。
地球と太陽とでは、太陽の方がずっと力が強い。
それどころか、太陽の熱があったから、地球はここまで繁栄できたと言ってもいい。
そういった概念も合わさった結果、『太陽の牙』はこの星に対する特効を有しているのだ。この星の力を宿した生物に致命的な威力を発揮し、付けた傷の治癒さえ妨げる、一種の呪いのような攻撃性を。
しかし、アーリアの民の超能力であれば、そういった力関係も働かない。
”治癒能力”などの能力であれば、『太陽の牙』で受けた傷も回復できる。
日影の話を聞いて、ここまで考えたスピカだが、どうしても腑に落ちない点もあった。
「ロストエデンの本体であるレオネ祭司長は”治癒能力”をはじめとした回復系の超能力は使えなかったはず……。”星通力”でこの星の”生命”の権能を利用したら傷の回復はできるけど、それならつまり『星の力』を使っているわけだから、日影くんの『太陽の牙』を克服している説明がつかない……」
「とにかく、ダメージを回復されるからって言って、何もしねぇんじゃ逃げられちまう。オレはこのまま攻撃を続けるぞ!」
スピカにそう告げて、日影はロストエデンへ接近を試みる。
ロストエデンは日影を叩き落とすため、左右の腕を一本ずつ振り上げ、手を大きく広げながら振り下ろした。
振り下ろされたロストエデンの両手を、日影は器用にくぐり抜けて回避。そのまま飛行速度を上げて、火の球になりながらロストエデンの顔面に激突した。
「”落陽鉄槌”ッ!!」
大爆発が巻き起こり、ロストエデンがわずかに怯む。
だが、やはり与えたダメージが再生を開始している。
焼け焦げたツタや皮膚が剥がれ落ち、その下から新しいツタや皮膚が生えてくるような、そんな回復方法だった。
「ダメージ自体は与えることができる。そのダメージを回復させるために、ヤツが持っているエネルギーも消費させている。だが、そのエネルギーが周りの白い花のせいですぐに補充されるって話だったな。どうすりゃいいってんだクソッたれ……。マジで日向の火力以外に倒し切れる方法が……」
……と、その時、日影の周囲が緑色にキラキラと輝く。
この緑の光はロストエデンの細胞だ。
日影の周囲の細胞のエネルギーを増幅させ、爆裂させるつもりだ。
「あぶねぇな!」
すぐさま日影はその場から離れる。
直後、緑の爆発が連続して起こるが、そこにもう日影はいない。
だが、その退避した日影を狙って、ロストエデンの右手が振るわれる。
「やべッ、動きを誘導されたか!? ぐぁッ!?」
直撃。
撃墜されたハエのごとく、日影は高速で吹っ飛ばされてしまった。
吹っ飛ばされた日影は、その先の五階建てのビルの屋上に落下。床の上を派手に転がり、そして停止。
「痛ぅ……やってくれるぜ……」
痛みをこらえながら立ち上がる日影。
その時、彼は自分のダメージの回復速度が遅くなっていることに気づく。
「”再生の炎”がいよいよガス欠一歩手前か……! そりゃそうだ、今日はここまでずっと戦いっぱなしだったからな。むしろ、ここまでよく長続きしてくれたモンだ。だが、このままじゃ……」
苦い表情をしながら、日影はロストエデンに目を向ける。
彼が心配したとおり、ロストエデンは日影がいなくなったことで前進を再開。足元の建物を崩しながら北へと向かう。本堂たちがロストエデンを攻撃し続けているが、お構いなしだ。
「やっぱりかチクショウ! 出し惜しみしてる場合じゃねぇな! ここで全部出し切ってでも、ロストエデンを止めねぇと! 北園に飛空艇を破壊された今、ここでロストエデンに逃げられたら、もう追いつけねぇ!」
日影は自身の肉体に宿る炎のエネルギーを振り絞り、再び”オーバーヒート”を発動しようとした……が、いったん中断。
「……ロストエデンが、動きを止めた?」
日影の言うとおり、ロストエデンが急に停止した。
まだ攻撃を続けている本堂たち三人を追い払うため……ではないようだ。三人の攻撃はほとんど意に介していない。
ロストエデンは、自身の目の前に建っている高層ビルを注視している。あそこに何かあるのだろうか。
すると、ロストエデンが攻撃の用意。
先ほど日影にも発射し、多数のビルを崩壊させた、あの巨大な緑の光線を放とうとしている。
「あのビルが、なんか気に入らねぇのか……?」
そして、ロストエデンが高層ビルに向けて光線を発射。
轟音と共に、一条の緑のエネルギーがまっすぐ放たれた。
すると同時に、ロストエデンが狙った高層ビルの屋上からも、非常に巨大な蒼色の光線が発射された。ロストエデンの緑の光線と正面から激突する。
「なんだ、あの蒼い光線!? ……いや、そうか! エヴァの”星の咆哮”か!」
その日影の解答は、正解である。
ロストエデンの前方のビルの屋上には、エヴァがいる。
彼女と行動を共にしていたジャックとコーネリアスの姿もあった。
こちらはエヴァたち三人の様子。
ロストエデンと光線の撃ち合いをしているエヴァ。
その彼女に、ジャックとコーネリアスが声をかける。
「やっちまえエヴァ! 押し返せ! と言うかだな、押し返してくれねーと、俺たち全員ロストエデンの光線に巻き込まれるからな! お願いだから押し返してくれ!」
「ファイトだエヴァ・アンダーソン。お前ならやれル」
「分かっています……とも……! はぁぁぁ!!」
渾身のエネルギーを注ぎ込み、エヴァは”星の咆哮”の威力をさらに高めた。
そしてついに、エヴァの”星の咆哮”がロストエデンの緑の光線を突破。その先のロストエデンに蒼いエネルギーの奔流が叩きつけられる。
ロストエデンは蒼い奔流に押し流されるように吹き飛ばされた。そして地面に倒れ、それでもなお発射し続けられている”星の咆哮”により、倒れた体勢のまま押し込まれていく。巨大なロストエデンが街の上を滑り、無数の建物が巻き込まれて潰された。
やがて、エヴァの”星の咆哮”が止まった。
ロストエデンは、第七形態に進化した時の場所とさほど変わらぬ位置まで押し戻されていた。
「的が大きいと、大火力も当てやすくていいですね。これならレイカより戦いやすそうです」