第1570話 災厄を追う
ロストエデンの細胞爆発攻撃によって、日影たち五人がいたビルが跡形もなく崩壊してしまった。
しかし、崩壊に巻き込まれる前に、日影たちはそれぞれ脱出。
日影とスピカは自力で空を飛んで屋上を離れる。
本堂やシャオラン、それからミオンは人間離れしたジャンプ力で、別のビルの屋上へと移っていた。
本堂、シャオラン、ミオンの三人は、ビルからビルへと飛び移りながらロストエデンに接近する。スピカもこの三人についていっているようだ。
そして”オーバーヒート”によって五人の中でも頭一つ抜けた機動力を持つ日影は、先に単独でロストエデンに攻撃を仕掛けに行った。
「待ちやがれ! ここまで暴れておいてハイさようならが通じるわけねぇだろうが!」
日影の声に振り向くこともなく、ロストエデンは北の方角に向かって進み続けている。なので日影は遠慮なくロストエデンとの距離を詰める。
まずはすれ違いざまに、ロストエデンの左わき腹を後ろから一撃。音速で飛来した灼熱の刃が、巨大な緑の蛇人に紅蓮色の切り傷を刻む。
わき腹を通過し、ロストエデンの正面に飛び出た日影は、今度はその正面からロストエデンに接近。巨大な脳天を刺し貫いてやろうという算段だ。
「怯みはしねぇし、悲鳴の一つも上げやしねぇ。こっちの攻撃が効いているのかどうか、マジでちっとも分からねぇな……!」
だがロストエデンも、今度は黙って日影を接近させず、反撃してきた。左右三本ずつ、合計六本生えている腕を動かし、その手の指先を全て日影に向ける。
次の瞬間、計三十本のロストエデンの指先から、緑色のレーザーが発射された。三十条の緑の光線が日影に襲い掛かる。
「ちぃッ!」
日影は舌打ちしたものの、ロストエデンへ接近する速度は緩めない。正面からレーザーの群れを搔い潜る。
やがて、日影は見事にロストエデンのレーザー網を突破した。
そのままロストエデンの目の前に飛び出る。
「よっしゃ、もらったぜッ!」
今度こそロストエデンに悲鳴の一つでも上げさせてやろうと、日影は渾身の力を込めて『太陽の牙』を振り下ろした。
……だが、空振り。
日影の刃はロストエデンに命中しなかった。
「なんだと……!?」
顔面だけでも、あれほど巨大なのだ。
普通、日影であれば、ここまで接近できた以上、外すはずがないのだが。
何が起きたのかといえば、答えは単純。
ロストエデンが上体を動かし、日影の攻撃を避けたのだ。
とはいえ、その巨体からは想像もつかないほどに、ロストエデンの上体反らしは速かった。普通、生物はその身体が巨大になればなるほど動きも緩慢になるものだが、今の動きは日影とほとんど大差ないほどに軽やかだった。
さらに、ロストエデンが反撃してきた。
反らした上体を戻すように、日影に頭突きを叩きつけてきた。
「ぐぁッ!?」
それこそ、落ちてきた隕石が直撃したかのような衝撃。
日影は高速で吹っ飛ばされ、その先の高層ビルに窓ガラスごとぶち込まれてしまう。
「ぐ……くそッ……!」
”再生の炎”でダメージを急速回復させつつ、どうにか立ち上がる日影。
そんな日影に、ロストエデンが追撃。
六つの手を一つに合わせ、お椀のような形を作る。
その手の中心に、緑色のエネルギーが集まり始める。
エネルギーの蓄積が完了すると、巨大な緑の光線を日影めがけて発射してきた。
「やべッ……!」
日影はすぐさま”オーバーヒート”を再発動し、叩き込まれていたビルから脱出する。
ロストエデンが放った巨大な光線は、先ほどまで日影がいたビルを真ん中から真っ二つに粉砕し、その先のビルも破壊し、さらにその先のビルまで破壊、崩落させてしまった。
「ったく、いよいよ『星殺し』らしい凶悪さになってきたな! だがな、テメェくらい凶悪なのを、これまでオレたちは六体も屠ってきた! そして、テメェで最後だ! ここまで来て負けられるかよッ!」
この破壊力を目にしても、怯むことなく日影は再びロストエデンに攻撃を仕掛けに行く。
再び日影とロストエデンが攻防を交える。
その間にロストエデンがその長大な尾を動かし、背後の建物群を薙ぎ払った。後ろから近づいていた本堂たち四人を追い払うためだ。
しかし本堂たちも大きく跳躍し、ロストエデンの尾を飛び越える。
それに続けて、シャオランとミオンは風の練気法”飛脚”で空中ジャンプ。さらにロストエデンに接近する。
シャオランとミオンの師弟が、ロストエデンの腰の後ろに肉薄した。
まずはシャオランが火の練気法”爆砕”でロストエデンの腰を殴りつける。
「せいッ! やッ! やぁぁッ!!」
空の練気法”色即是空”により蒼白い色に変化した火の気質が、シャオランの拳が命中すると同時に発散される。その拳の一発一発が、見上げるほどの大岩だろうと容易く粉砕できる威力を有している。
シャオランの攻撃が終わると、今度はミオン。
先ほどシャオランが攻撃した箇所に”如来神掌”を打ち込んだ。
「はぁっ!!」
山をも崩しうる衝撃波が、ロストエデンの内部に直接叩き込まれた。
これには流石のロストエデンも、受けた衝撃によって身体がわずかに前へつんのめる。
さらに、ロストエデンの尾の付け根には本堂が張り付き、両腕に生やした大きな刃でロストエデンを切り刻んでいた。
「おおおおっ……!!」
一呼吸の間に二十発ほど繰り出される本堂の斬撃。
高圧電流を帯びた刃は、鋼線のように丈夫なツタに覆われたロストエデンの体表も難なく傷つける。
だが、この三人の攻撃を受け続けても、ロストエデンはほとんど意に介していない。
と言うのも、ロストエデンは、この三人の攻撃を受けた側から、その受けたダメージを凄まじい再生力で回復させているのだ。傷つけても傷つけても、傷つけた側から傷が消えてしまう。
「此方のことを無視し続けるわけだ。もはや、俺達の攻撃では、こいつをまともに打ち倒すことは不可能か……!」
攻撃を続けながらも、本堂は苦い表情でそうつぶやく。
それに対して、彼について来ていたスピカが声をかける。
「とはいえ、ロストエデンの再生力も無限じゃないはずだよー! それにロストエデンは超能力じゃなくて”生命”の権能を利用して傷を回復させているだろうから、日影くんの『太陽の牙』なら『星の力』を焼き尽くせる! ロストエデンに回復不可能なダメージを負わせることができる!」
「故に、こうして俺達が少しずつでもロストエデンにダメージを与え、エネルギーを消費させることは、決して無駄ではないと言いたいのでしょう? 無論、承知していますとも……!」
スピカにそう返事をして、本堂はロストエデンに攻撃を続ける。
……ところが。
急に本堂は攻撃の手を止めた。
「む……!?」
本堂は何やら怪訝な表情を浮かべた後、大きく跳躍し、ロストエデンから離れる。そして自身の両腕を目視確認。
彼の両腕に、たくさんの小さな白い花が咲いていた。