第16話 仲間探し
三人目の仲間を探すため、二人は十字市の中心街にやってきた。
十字市は地方都市。流石に主要都市に比べると行き交う人々はまばらだが、それでも結構な人数がいて、街も中々に広い。この中から人ひとりを探し出すのは骨だろう。
「さて、改めて来てみると、闇雲に探しても見つかる気がしないな、こりゃ」
「そうだねぇ。ま、根気強く探していこー」
そう言って、俺二人は街中を散策する。
しばらく歩いていると、電機屋に並ぶテレビでニュースをやっているのを見つける。
「…次のニュースです。町内に住む大学生、立花美月さんが、1週間ほど前から行方が分からなくなっています。十字町では4か月前から、女性が行方不明になる事件が相次いでおり、警察は同一犯による犯行と見て捜査を進めています。警視庁は、十字町内に住む女性に対し、むやみな外出は控えるよう注意を呼び掛けています……」
「行方不明事件、ね……」
日向は、なんとなくそれが頭に引っかかり、反芻するように呟いてみる。
「学校でも一時期話題になってたよねー。早退させられた日もあったよね」
日向の呟きに、北園が反応する。
「あー、あったあった。んー、行方不明ねぇ……」
「どうしたの? あの事件が気になるの?」
「いや、これもマモノの仕業だったりするのかなぁって思って」
「女性ばっかり狙うマモノなんているの?」
「ゲームによっては、むしろそういう魔物のほうが多かったりする」
「うわぁ。せめて、そういうのじゃないことを祈るよ……」
その後も二人はひたすら、ただひたすら街を歩き回った。
その間、北園が「疲れたからカフェ行きたい」とか「あの服見てみたい」とか言い出すので、途中から仲間探しに来たのか買い物に来たのかよく分からなくなった始末である。
「財布忘れてるのに、よくもまぁショッピングなんかに行く気になるね……。他人の金で飲むエスプレッソは美味しいかい……?」
「うん、美味しい!」
「満面の笑みで返されたよ。俺はどう反応したらいいんだ」
一方、日向も日向で、途中で見つけたゲームセンターに立ち寄りたいなどと言い出す。この少年、根っからのゲーマーなのだ。
北園も意外と乗り気で、一緒にエアホッケーで遊ぼうと誘ってきた。
現在、得点は9対9。
10点先取なので、あと1点で勝者が決まる。
(エアホッケーなんて、小さい頃に親と遊んで以来だなぁ)
北園が打ち込んでくる円盤を弾き返しながら、日向は思う。
すると……。
「なんか、こうしてるとデートみたいだねっ」
爆弾発言で勝負を決めにかかる北園。
わざわざ「デート」の部分を強調する。
「!!?」
分かりやすく動揺する日向。
そのスキに、日向側のゴールに北園が円盤を叩き込んだ。
「やったぁ! ゴール!」
「あ!? ずっりぃ!?」
「いやー、こんなにあっさり引っかかってくれるとは思わなかったなー」
「ぐぬぬ……。ところで北園さん、今の発言は……」
「えーと、ごめんね。言ってみたかっただけー」
「全くもう、止めてくれよ。俺、そういう冗談に耐性無いから……」
北園に抗議の目線を投げかける日向。
北園は、やや申し訳なさそうな笑顔で日向に手を合わせる。
(……もしかしたら本気かも。そう期待してしまったことは、口が裂けても言えないなー)
手を合わせながら頭を下げる北園を見ながら、日向はそんなことを考えていた。
そんなこんなで、時刻は午後6時をまわり、すっかり陽は落ちていた。
「……全然見つからないね」
北園が呟く。
「見つからないな。予知夢が示したのは別の日だったりしないかな?」
日向が返事をする。
世界を救う予知夢が当分先の出来事であるように、今日、三人目の仲間が見つかるとは限らない。そう思っての発言だ。
「ごめん、分からない。正確な日にちまでは私にも分からないの。ただ、夢に見た光景は夕暮れか、夜みたいだった。だから、まだ分からないと思う。その人が見つかるかどうか。むしろここからが勝負まであるかも」
「マジか。それを早く言ってくれ。……粘るなら、晩飯をこの辺りで済ませることも考えておくか……」
「あ、私はコンビニ弁当でいいよー」
「もう俺に奢ってもらうこと前提なんだな! そりゃそうか、財布忘れてるんだもんな!」
やり取りを交わしながら街の角を曲がる二人。
北園にツッコミを入れるのに夢中で、日向は向こうの角から曲がってくる人に気づかず、ぶつかってしまった。
「あ、すみません」
通り過ぎながら日向は謝る。
「いや、こっちもよそ見してた。悪い」
ぶつかった人も軽く頭を下げながら歩き去っていく。
「あーーーー!!」
北園が大声で叫ぶ。
「え?」
「ん?」
日向と、さっきぶつかった人が振り向く。
そして北園さんは、日向とぶつかった人を指差して……。
「この人だよ! 夢に出てきた人!」
と叫んだのであった。
◆ ◆ ◆
同時刻、とある住宅街の一角にて
「ふぅ……。買い物してたらすっかり遅くなっちゃった」
そう言いながら、一人の女子中学生が閑静な道を歩いていく。
肩に学校指定のバッグを下げて、両手にはスーパーの買い物袋を持っている。
「……そういえば、お兄ちゃん、まだ帰ってないよね。……頑張ってるなぁ。私も早く帰って、晩御飯を作ってあげよう」
その陰から、ズズズ、と、球状の影が忍び寄る。
その傍らに、宙に浮かぶ不気味な影を複数引き連れて。
女子中学生は、背後の気配に気づくことなく、自宅へと帰っていった……。