第1562話 日向VSエドゥ
北園を助けるため、日向は完全な異形と化したエドゥと対決する。
まずはエドゥが仕掛けてきた。
下半身のタコ足のような触手を四本ほど持ち上げ、日向めがけて振り下ろす。
日向はすぐさま右へ逃げて、触手の叩きつけを回避。
ショッピングモールの硬い床が、触手の一撃でたやすく粉砕された。
エドゥの触手を回避した日向は、そのまま右からエドゥに接近。
手に持つ『太陽の牙』に炎を宿し、斬りかかる。
「”点火”っ!!」
……だが、その『太陽の牙』を持つ日向の手を狙って、エドゥが触手状の左腕を伸ばして叩きつけてきた。触手は命中し、腕を打ち据えられた日向は剣を取り落としてしまう。
「ぐっ……!」
「ノロマがァ! 近づけさせるかよォ!」
日向が怯んだ隙に、エドゥは巨大触手で薙ぎ払い。
これに巻き込まれた日向は文字通り蹴散らされ、壁まで吹っ飛ばされて叩きつけられた。
「っぐぁ……!」
「はっハ! 休ませねぇぜェ!!」
壁に叩きつけられた日向めがけて、エドゥはタコ足のような巨大な触手を一本、高速で伸ばして日向に叩きつけた。
しかし、日向はこれを両腕で受け止めてみせた。
”復讐火”により身体能力を強化した結果だ。
「痛いなこの野郎っ!」
受け止めた触手を、日向は思いっきり殴り飛ばす。
殴り飛ばされた触手は、先ほどエドゥが伸ばした以上の速度でエドゥへ返っていき、そのままエドゥ本体に直撃した。
「ぐァ!? てめェ……!」
生意気な反撃を受けて、日向に怒りの目を向けるエドゥ。
その間に日向は『太陽の牙』を手元に呼び戻し、再びエドゥに接近を試みる。
伸縮自在なエドゥの触手を相手に中途半端な距離を取っても、一方的に攻撃され続けるだけだ。戦闘を優位に運びたいなら、恐れを捨ててエドゥの懐に飛び込むのが上策。
だが、エドゥもすでに日向の火力は身に染みて分かっている。
彼を近づけさせまいと、触手を振り回して牽制する。
「近づけるモンならやってみなァ!」
あちらこちらに、エドゥの巨大な触手が叩きつけられる。
一回の叩きつけごとに、周囲の床や柱が派手に粉砕される。
「くそ、これじゃ迂闊に近づけないな……! いっそ一発、わざと被弾して”復讐火”を発動させるのもいいかもだけど、受ける攻撃をしっかり選ばないと、そのまま一気にやられかねない……」
……と、日向が思案していると。
突如として日向の足元から槍のように鋭く細い触手が飛び出し、彼の足や腰を抉った。
「あっぐ!? あいつ、床の下から触手を伸ばしてたな……!」
「当たりだゼ! そら、振り出しに戻りなァ!」
そう言って、エドゥはまたも巨大触手での薙ぎ払いを繰り出し、再び日向を壁まで吹き飛ばしてしまった。日向とエドゥの間合いがまた大きく開いてしまう。
「ぐぅ……! 厄介な奴……!」
いっそ”紅炎奔流”で派手に焼き尽くしてしまえば楽なのだが、エドゥの中に北園が囚われている以上、今はエドゥを炎上させるわけにはいかない。北園を巻き込まない方法でエドゥを倒さなければならない。
「難しい話だけれど、北園さんを助けるためなら、やるしかない。北園さんがヴェルデュになって、もう一緒にはいられないって思って、それでもまた一緒になれたんだ。ここまで来れたのに、お前なんかに邪魔はさせるか……!」
そうつぶやくごとに、日向の中でやる気がみなぎり、『太陽の牙』を杖にして力強く立ち上がる。
ところが。
たったいま力強く立ち上がったのが嘘のように、日向は再びその場に倒れてしまった。糸が切れた人形のように力無く。
「う……!? この脱力感は、エドゥのエネルギー吸収攻撃……!」
ただそこに立っているだけなのに、日向のエネルギーがエドゥに奪われていく。
エドゥは巨大触手を床に突き立てて、周囲一帯から手当たり次第にエネルギーを吸収しているようだ。床に突き刺した彼の触手が緑色に輝き、エネルギーを吸い上げている。
「遊びは終わりダ。こんな能力を使わずとも、俺はもうお前を圧倒できることが証明されタ」
「いい気になるなよ……このくらい……!」
日向は”復讐火”を発動。エネルギーを吸い取られるなら、それ以上のエネルギーを急速に補充し、無理やりにでも動いてエドゥを攻撃する作戦だ。
だがしかし、なんと日向の”復讐火”でエネルギーを生み出しても、生み出した側から全てのエネルギーを持っていかれてしまう。結果として、やはり日向の身体に力は入らなかった。
「嘘だろ……!?」
「ははハ! こいつはいいナ! やっぱりお前、傷とか消耗とかを回復できる能力があるんだナ! ということは、つまりお前は永遠に俺にエネルギーを補給してくれる最高級食材ってわけだァ!」
エドゥは一本の巨大な触手を伸ばし、日向を捕まえてしまう。
その日向を捕まえた触手を通して、彼の生命エネルギーを根こそぎ奪う。
「あああああっ……!?」
「ははは、はははははッ! 見ろよ、どうダ! 頼れる仲間がいないお前なんて、しょせんこんなモンなんダ! お前と互角にやり合える能力があれば、俺はお前なんかに……お前らなんかに負けねぇんダ! あの時、初めてお前らとやり合った時、お前が俺をさんざんコケにしやがったことは、今でもよぉく思い出せるぜェ!」
「まだそんなこと……! エドゥ、いい加減に目を覚ませ! 北園さんの話が本当なら、お前もロストエデンに操られてるわけじゃなくて、自主的に俺を攻撃してるんだよな!? ここで俺たちと敵対して何になる! 俺にコケにされたことに腹を立ててるなら、謝罪するから邪魔しないでもらえるかな!」
「はン! 『敵わないから命乞いしたい』って素直に言ったらどうダ? 聞かねぇけどなァ!」
「あ、がぁぁ……!?」
日向の生命エネルギーが、さらに勢いよく吸い出される。
エドゥが勝負を決めるつもりだ。
「まぁ安心しろヨ。お前はムカつくから殺すが、俺のファミリーも守らなきゃいけねぇっていう本来の目的は忘れてねェ。お前の次はロストエデンをやル。その次は、そうだな、お前らが言う『この星を殺そうとする敵』とやらもついでに倒してやるヨ」
「もうお前のファミリーはいないってのに……! だいたい、お前がロストエデンを倒すのは無理だエドゥ……。ロストエデンの細胞で生きている今のお前は、ロストエデンを倒したら、お前を動かしている細胞も死滅することになるから……」
「バァーカ! お前、いま俺に何をされてるのか分かってねぇのカ? 俺は敵のエネルギーを吸収できル! この能力でロストエデンの全てを吸い上げてやったら、つまりロストエデンが持つ能力も俺に移ることになるだロ? 俺が新しいロストエデンになれば、ロストエデンを倒しても俺は死なずにすむことになるってワケだゼ!」
「お、お前、本気か……!?」
「ああ、本気も本気、超本気だゼ! そうさ、これが今の俺の欲望! 俺は、お前らに代わって、この星を救う英雄とやらになってやるぜェ!!」
エドゥは日向のエネルギーを吸収しながら、高らかにそう宣言した。
しかし、その時。
「それは違うよね、エドゥ」
どこからか、声がした。
それは日向の声でも、エドゥの声でも、エドゥに囚われている北園の声でもない。幼い少年のような声だった。