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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1556話 残酷で、美しい

 北園の爆撃により、戦闘の舞台だった立体駐車場は崩壊した。

 今はもう瓦礫(がれき)の山と化している。


 北園は日向を仕留めたかどうか確認するため、瓦礫の山と化した立体駐車場に降りようとしたが、すぐにその動きを止めた。


「……下手に地上へ降りるのは危ないよね。日向くんの次の手を考えるなら、たぶん瓦礫の中に身を潜めて、私が近づいてきたところを攻撃しようとするはず。日向くんも今の爆撃で負傷してるなら”復讐火(リベンジェンス)”を発動できる。きっとものすごいスピードで私に接近できるから……」


 そこまで考えると、北園は両手から火球や電磁球を発射し、すでに瓦礫の山と化している立体駐車場を再び爆撃。爆発と共に、地上に積もっている瓦礫がさらに細かく砕かれていく。


「私が一番、日向くんのことを分かってあげられるんだもん。日向くんが考えていることなんて、全部お見通しなんだから……!」


 やがて一発の火球が巻き起こした爆炎により、日向が隠れていた瓦礫が破壊された。日向も爆炎にあおられて吹き飛ばされる。


「うわっ!? 熱つつつっ!?」


「見つけた。ここからじゃ目視の超能力は届かないけど、日向くんも攻撃方法は限られる。この安全圏から一方的に攻撃してあげる」


 北園は地上の日向めがけて、火球と電磁球による爆撃を続行。

 日向は右へ左へ必死に逃げるが、何度も吹き飛ばされてしまう。

 転げまわり、炎と電流にその身を焼かれ、傷だらけだ。


「うぐぅっ!? くそ、やっぱり素直にここまで降りてきちゃくれないか! だったら!」


 日向は『太陽の牙』を振りかぶる。

 振りかぶった刀身が、渦巻く灼熱の炎を(まと)う。


 そして日向は、北園に向けて『太陽の牙』を振り下ろし、刀身の炎を射出した。”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”だ。


 これを見て、北園は得意げに微笑(ほほえ)む。


「さっきは自動車の爆発と合わせても、日向くんの炎は私のバリアーを完全には突破できなかった。もう”星殺閃光(バスタードノヴァ)”でも使わないと、日向くんは私を倒せないよ!」


 そう言うと、北園は両手でバリアーを展開。

 力の差を見せつけるように、日向の炎を真正面から受け止めてみせた。


 ……だが。

 炎と黒煙が晴れると同時に、北園は驚きで目を丸くすることになる。


「……あれ? 日向くんが地上にいない? どこかに隠れた?」


「いいや、その逆だよ」


「えっ!?」


 北園の()()から声が聞こえた。

 すぐさま顔を上げる北園。

 日向が彼女の頭上を取り、『太陽の牙』を振りかぶっている。


「今さら”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”で北園さんのバリアーを突破できるなんて最初から思っていなかった。だから、ワゴン車を爆破した一発目の”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”はブラフに使った。北園さんにわざとバリアーで防御させて、『もう”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”は恐れる必要は無い』って()り込んで、炎を目くらましに使うっていう発想から遠ざけるために」


 炎で北園の視界を塞いでいる間に、日向は”復讐火(リベンジェンス)”を発動して大ジャンプし、彼女の頭上を取ったのだ。


 日向の”復讐火(リベンジェンス)”はまだ効果が続いている。

 振りかぶった『太陽の牙』を、北園のバリアーに思いっきり叩きつけた。


「らぁぁぁっ!!」


「くぅっ!?」


 地上へ向かってまっすぐ吹っ飛ばされる北園。

 地面に激突する直前に体勢を立て直し、着地した。


 日向もまた落下し、地上へ着地。

 しかし”復讐火(リベンジェンス)”の効果は途切れ、今の彼は常人としての身体能力しかない。


 そんな状態で高所から落下すれば、当然ながら足骨(そくこつ)は砕け散る。


「っぐぅぅ!!」


 足から崩れ落ち、膝を強打し、最後は上半身が地面に叩きつけられた。

 意識を失ってもおかしくない重傷だったが、すぐさま日向は”復讐火(リベンジェンス)”を発動。


 再び飛躍的なパワーアップを発揮した日向は、一直線に北園へ接近。彼女を刺し貫くべく『太陽の牙』を構える。


 この瞬間、日向を待ち構える北園はハッとした。

 この光景は、夢で見た覚えがある。

 日向が、北園を刺し貫く予知夢。


「……でも、日向くんが教えてくれたんだよ? 予知夢には、(あらが)ってもいいんだって」


 因果とは、美しくも残酷なものだ。

 かつては全ての予知夢を実現させようと躍起になっていた北園が、今は予知夢に抗おうとしている。

 日向は以前、予知夢のためなら誰かを傷つけるのも(いと)わなかった彼女を止めたが、今は彼が北園を傷つける予知夢を実現させようとしている。


 接近してくる日向を視界に捉える北園。

 ”電撃能力(ボルテージ)”を使い、日向の脳髄に電流を流そうとする。


 日向はそれを阻止するために、左手で握っていた砂を北園の顔面めがけてばら撒く。


 北園が砂を避けるにしても、払いのけるにしても、一瞬だけ超能力の発動が遅れる。その一瞬の猶予さえあれば、日向の刃は北園に届く。


 ……が。


「そう来るって思ってたよ!」


 北園は左へ身体を()らし、日向が投げつけてきた砂を回避。

 それと同時に右腕を突き出し、ドレスの(そで)のようになっている桜色の花弁から緑色のツタを伸ばしてきた。


 まっすぐ、そして鋭く伸びてきた北園のツタは、日向の心臓を貫いた。


「ぶぐっ……!?」


 日向は、口から大量の血を吐いた。

 さっきまで猛烈な勢いで北園めがけて走っていたのが、嘘のように失速する。


「勝った……! 貫かれたのは私じゃなくて、日向くんだったね……!」


 勝利したのは北園。

 彼女は今までのように明るい笑顔を見せて、そうつぶやいた。


 ところが。

 日向はまだ倒れない。

 北園のツタに心臓を串刺しにされながらも、立ち続けている。

 その目もまだ死んでおらず、北園をまっすぐ見据えている。


「はぁっ……はっ……げほっ……」


「ま、まだ倒れないの? もう勝負は決まったでしょ? ここから逆転なんて、いくら日向くんでも無理だと思うよ……?」


 北園の声は聞こえなかったのか。

 それとも、聞こえていたのか。


 とにかく日向は、ツタに心臓を貫かれながらも、北園に向かって一歩前進した。自分の胸を貫くツタをさらに深く通しながら。


「”再生の炎”でギリギリ命をつなぎ止めてるの……? とにかく、まだやる気なら、こっちも容赦しないよ……!?」


 そう言って、北園は”凍結能力(フリージング)”を行使。

 血色の氷柱(つらら)が、日向の腕や背中を内側から突き破った。


「あぐぁ……!?」


 日向の身体が、前に向かってガクリと倒れる。

 無理もない。これほどの攻撃を受けて生きている人間などいない。


 ……いや。

 日向は踏ん張った。

 そして歩みを再開し、北園に向かってまた一歩進む。


「こ、来ないでよ!」


 北園は目視による”発火能力(パイロキネシス)”を行使。

 日向の全身が炎に包まれた。


「うぁぁぁぁぁ!?」


 大きくのけ()り、日向は熱さに(もだ)え苦しむ。

 だが、我に返ったかのように、また北園に向かって歩き出す。

 その身が炎上していることさえお構いなしに。


 心臓を貫かれ。

 腕や背中を血色の氷柱で串刺しにされて。

 現在進行形で全身を炎に焼かれて。

 それでもなお。それでもなお。


 もう、彼を傷つけたくない。

 ボロボロという言葉すら生ぬるい日向の姿を見て、北園は一瞬、そう思った。


 北園から見て、血まみれになりながらも歩みを止めない日向の姿は、(むご)たらしくも美しく、そして恐ろしくも愛おしく感じた。


 愛おしく感じたからこそ、もうこれ以上攻撃したくない。

 怖くて拒絶したいが、彼を完全に(こわ)してしまうのは嫌だ。


 愛おしく感じれば、嫌でも先ほどの日向からの口づけを思い出し、また北園の胸が高鳴り始める。


 しかし一方で、これほど彼を傷つけた自分のことを、彼はどう思っているのか、それを考えるのが怖い。

 

 一言ではとても言い表せない初めての感情が、今の北園の心を支配していた。


「な……なんで止まらないの……? そもそも、”復讐火(リベンジェンス)”はまだ使えるんでしょ……? それを使って回復して、逃げちゃえばいいのに……」


 近づいてくる日向に対して、北園はわずかに震えながら問いかける。

 今の北園が日向に恐怖を感じているのは、それが理由のひとつ。

 日向は、今すぐにでも彼を蝕む痛みから逃げられるはずなのに、そうしない。


 また一歩、日向は北園に歩み寄る。

 そして、炎に包まれながら、北園の問いに返答した。


「ここまで……さんざん隠れたり色々したりしておいて、今さらだけど……最後くらいは逃げたくなかったんだ……。北園さんをヴェルデュにしてしまったのは、俺だから……。これは、罰なんだ……」


「わ……私のためだって、いうの……?」


「勝手……だけどさ……かはっ……、これで少しは許して、くれないかな……。俺のためにヴェルデュになってくれて……そんな北園さんの善意を否定する、俺のことを……」


 やがて、ついに日向は北園の右肩に左手をかける。

 そして、『太陽の牙』を持つ右腕を引き(しぼ)り……。


「北園さん。俺の……勝ちだ」


 ほんの一瞬、日向の全身が大炎上。

 ”復讐火(リベンジェンス)”で、ここまでの傷を全て修復した。


 それと同時に強化された腕力で。

 日向は、北園の身体に『太陽の牙』を突き刺した。

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