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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1555話 蹂躙

 日向が投げつけたワゴン車と”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”による大爆発に巻き込まれた北園。


 やがて爆炎が晴れ、北園の姿が黒煙の中から現れる。

 いくらか火傷は負っているものの、北園はいまだ健在だった。

 彼女のバリアーは、もはや日向の”紅炎奔流(ヒートウェイブ)”さえも受けきれるほど強固になっている。


「はぁ……あぶなかった……。そうだ、日向くんはどこ……?」


 反撃のため、すぐに日向の姿を探す北園。

 先ほどワゴン車が飛んできた方向を見るが、もうそこに日向はいない。

 北園がワゴン車と炎を防いでいる間に、またどこかへ移動したようだ。


「今度はいったいどこに……!」


 ……と、その時。

 北園は、自分のすぐ後ろに誰かが立っている気配を感じた。


「後ろにいる……!? しかも、すぐ近く!」


 すぐさま後ろを振り返る北園。

 背後に日向がいるのはまず間違いない。

 日向がいることを前提に、彼女は後ろを振り向くと同時に超能力を行使。


 北園の予想通り、彼女の背後には日向がいた。『太陽の牙』を構えながら北園に接近していたようだが、彼女の超能力により、全身を内側から血の氷柱(つらら)で串刺しにされてしまった。


「がは……!? ぐ、くぅっ……!」


 全身血まみれのトゲだらけという惨状にされてしまった日向だが、意地と気合いでこの痛みに耐えて、目の前の北園めがけて『太陽の牙』を振り下ろす。


 しかし、その刃は北園には届かなかった。

 彼女が作り、そして振るった氷の大剣により『太陽の牙』を握りしめていた彼の両腕を斬り飛ばされてしまった。


「ぐぁ……!」


「ね? 日向くんより私の方が強い……!」


 背中から倒れそうになる日向。

 その日向の氷の大剣の切っ先を向け、腹部を貫いてトドメを刺そうとする北園。


 しかし、日向は踏ん張った。

 そして”復讐火(リベンジェンス)”を発動し、全身火だるまになりつつ身体を高速再生しながら北園に激突。


「らぁぁぁぁっ!!」


「きゃっ!?」


 その激突の勢いで、日向は北園を床の上に押し倒す。

 不意を突かれて、北園は氷の大剣を取り落とした。


 日向は倒れた北園の上に乗り、左手で北園の目を隠しつつ、彼女の身体を抑え込もうとする。


「無理だよ! ”復讐火(リベンジェンス)”のパワーアップは一瞬でしょ? もうたった一秒あれば私は日向くんをどかせるもん!」


 北園の言うとおりだ。

 馬乗りになったところで、身体能力の差は歴然。

 彼女の言うとおり、一秒後には日向は吹き飛ばされているだろう。

 

 逆に言えば、北園に吹き飛ばされるまで一秒ほどの猶予があるということだが、今の日向は『太陽の牙』を持たず、丸腰の状態。”復讐火(リベンジェンス)”のパワーアップがなければ、ヴェルデュ化した北園を素手で殺すことは、日向にはまず不可能。


 ここまで追い詰めておきながら、決定打がない。

 いらない反撃を受ける前に、日向は北園から離れるしかない。


「……いや。トドメは刺せなくても、できることはある……!」


 そう言うと。

 日向は。

 両手で北園を押さえつつ。

 北園の(くちびる)に、自身の唇を重ねた。


「ん…………?」


 北園は、現状がすぐには理解できず、キョトンとしている。


 だが、すぐに現状を理解し、今日一番の驚愕の表情になった。


「……ん!? んー!? むー!?」


 北園はすぐに日向を振りほどこうとしたが、なぜか彼女の両腕は自身の意志に反して、むしろ日向を逃がさないようにホールドする。


 口づけをしている日向の顔は、当然ながら北園のすぐ目の前にある。その気になれば、彼女はすぐにでも超能力で日向の頭を吹き飛ばせるはずだが、なぜかそうしない。


 胸は高鳴り。

 (ほほ)紅潮(こうちょう)し。

 頭の中は()で上がり。

 興奮で身体の節々が硬直してしまう。


 受け入れてしまっている。

 彼女の本能が、日向に蹂躙されることを求めてしまっている。


 もともと北園は、日向のことを想いすぎて、彼のためにヴェルデュになったのだ。そんな彼から愛を捧げられたら、彼女としては自身の欲望の本懐(ほんかい)を果たしたも同然。


 それでも北園は「今は勝負の最中」と自分に言い聞かせて日向をどかそうとするが、やはり日向を受け入れようとする本能も止められず、日向を突き放すにしても受け入れるにしても中途半端な動きになってしまい、結果としてさらに日向に好き放題された。


 だが、その胸の高鳴りが最高潮に達しようとした瞬間、その興奮の全てが裏返ったかのように北園は正気を取り戻す。そして渾身の力で日向を押しのけた。


「あ、あっちいってー!」


「っとと、退散退散……」


 怒られる前に逃げる子供のように、日向は急いで北園から離れていき、再び姿を消した。


 まだ高鳴っている胸に手を当てながら、北園は身を起こす。

 日向はすでに次の策の用意をしているのだろうが、北園はいまだに頭の中がぐるぐるで、何も考えられない状態だ。


「し、集中。集中しないと……」


 周囲を見回して日向の姿を探す北園だが、やはりまだ混乱状態は続いている。日向を探しているものの、「見つけた時にどういう攻撃を仕掛けてやろうか」といった思考はまったく回せていない。

 先ほどの日向は、あの短時間の間に北園へできる攻撃としては最高の選択肢を選んだと言えるだろう。たったの一撃で、彼女の思考回路はぐちゃぐちゃだ。


「うう……ううう~~~……! なんであんなこと思いつくかなぁ……!? 私にトドメを刺す猶予がないからって、あ、あんなこと、なに考えてたらこんな時にあんなこと……、はじめてがアレってどうかと思う……!」


 まだ動揺が続く北園だが、その胸の高鳴りは、だんだんと怒りに変わってきた。勝手に自分をこんなにドキドキさせて許せないという、わりと理不尽な怒りに。


「これ以上の時間をかけてたら、本当に日影くんたちがロストエデンを倒しちゃう。もう日向くんの土俵に付き合うのはやめよう。私の得意分野で、一方的に終わらせちゃうもん……!」


 そう言うと北園は空中浮遊し、この立体駐車場から飛び出して上空へ。


 立体駐車場を空中から見下ろしながら、北園は自身の周囲に火球や冷気弾、それから電磁球などを生成する。それも、五十を優に超えるほど大量に。


 北園が両腕を交差させるように降ると、それらのエネルギー弾が一斉に立体駐車場へ降り注ぐ。三色の爆撃にさらされて、立体駐車場がどんどん崩壊していく。


 そして最後に、北園は”氷炎発破(フュージョンバスター)”を放った。


「顔も見ることなく吹き飛ばしてあげるからっ!!」


 北園が放った火球と冷気弾が、混ざり合いながら飛んでいく。

 そして立体駐車場に着弾する直前、完全に混ざり合った二色のエネルギー弾が、特大の大爆発を巻き起こした。


 その大爆発を受けて、日向が隠れているであろう立体駐車場は、完全に崩壊した。

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