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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1552話 これで良かった

 レイカとアカネのもとを去ったジャックたち三人は、エヴァの能力で空を飛び、別のビルの屋上へ移動していた。


 ジャックレイカから預かった『鏡花』を右の義手で持ち、レイカによって切り裂かれた左の義手の調子を気にしている。


「……やっぱ動かねーな。まいったな。動かなくなった義手ってのは下手な重りよりジャマだ」


「修理はできないのですか、ジャック? あなたの腕なのですから、修理くらいできるのでは?」


 エヴァがそう尋ねてきたが、彼は首を横に振る。


「俺が着けてるからって、俺が修理できるワケじゃねーよ。修理や整備は門外漢だ。車のドライバーだって、自分の車が壊れても自力で修理できるヤツなんざ少数だろ?」


「すみませんが、ちょっとよく分からない例えです」


「ああそうか、そもそも機械の概念そのものに疎いんだったなオマエ」


 肩をすくめるジャック。

 それから今度はコーネリアスが彼に声をかけた。


「しかしその腕でハ、今から日向たちのもとへ駆けつけてモ足手まといだろうナ。レイカとの戦闘では何とかなったガ、そのように動かなくなった義手をぶら下げたままでハ、いずれどこかで動きに支障が出テ、足元をすくわれるかもしれン」


「そりゃ同感だ。何かグッドアイデアはねーかな……」


 ジャックはしばらく考え込むと、やがてエヴァに目を向けた。

 彼の視線を受けて、エヴァは首を傾げ、目をぱちくりとさせている。


「そういやオマエ、アメリカで俺と会った時、言ってたよな? 俺の新しい腕を作れるって」


「はい、言ってました。……もしや、今から新しい左腕を?」


「ああ、頼めるか? 一応、この義手の取り外しくらいならできる。コーディが手伝ってくれればな」


「分かりました。少し時間はかかりますが、よろしいですか?」


「頼むぜ。この街にはロストエデンだけじゃなくてヴェルデュもいる。戦力外としてどっかに引っ込むにしても、まったく戦えないままじゃなぁ」


「ではさっそくですが、あなたの血液を少量でいいのでください。それを材料にして、あなたの身体に適合する腕を作ります」


「義手とか服にこびりついてるヤツじゃダメか? レイカに斬られまくったから、腐るほど引っ付いてるんだが」


「あなたを構成する正確な成分が知りたいので、できれば今から血を流していただくのが望ましいです。服に付着しているものでは不純物があるかもです」


「へいへい。言ってみただけだよ」


 ジャックは自分の右の太ももに『鏡花』の刃を軽く押し当て、自分の血を付着させた。それをエヴァの手の上に()らす。


 エヴァがしばらく、手のひらの上のジャックの血をジッと見つめている。

 すると突如として、血を乗せているエヴァの手が蒼く輝き始めた。

 手のひらの上のジャックの血も泡立ちはじめ、血の質量そのものが増えていく。


「ただいま、あなたの血液をもとにして、あなたの新しい腕を生成中です。あなたの血液に含まれている細胞群を『星の力』で増幅、急速進化させています。やっていることはロストエデンの外殻復活と同じですね」


「ホント大概何でもありだな『星の力』って」


「しかシ……今は空気中にもロストエデンの細胞が蔓延しているのだろウ? そんな空気に触れた血液から腕を生成して大丈夫なのカ? レイカの二の舞は御免だゾ?」


 それを聞いて、ジャックがハッとした表情でコーネリアスを見た。

 いま気づきましたとでも言わんばかりに。


 ついでにエヴァもコーネリアスの方を見た。

 いま気づきましたとでも言わんばかりに。

 ブクブク泡立っていたジャックの血液も、急に静かになった。


「……まぁ、ヴェルデュ化の予防薬は飲んでるから、大丈夫だとは思うけどよ」


「どうしますかジャック? 続けますか?」


「さっきまで自信満々だったオマエが疑問形になると一気に不安になるからもっと胸を張ってくれ……」


 その後、少し悩んだものの、ジャックは新しい左腕の生成の続行を決定した。



◆     ◆     ◆



 一方その頃。

 こちらは、ジャックたちが去った後の、レイカとアカネがいるビル屋上。


 レイカは相変わらず、膝をついたまま動かない。

 そのレイカの隣に、アカネがあぐらをかいて座った。


「ずっと殺し合いの最前線にいたんだ。いつかアタシらがくたばる日も来るだろうとは思ってたけど、こんな場所がアタシらの(つい)の地になるなんて、さすがに予想できなかったねぇ。オマケに、アタシらを殺したのはジャックときた」


 もう一言も発しないレイカに語り掛けるように、アカネは一人で楽しそうにつぶやく。


 ……ところが。

 返事をしないと思っていたレイカが、口を開いた。


「……ジャックくんたちは、もう行った?」


「え? レイカ、アンタ今、ジャックの名前を……」


「最後のトドメを受けた時、全部思い出したの。あなたのことも、もちろん思い出したわよアカネ」


「そ、そうなのか……。じゃあなんで、さっきジャックに『鏡花』を渡した時は忘れたままのフリをしてたのさ?」


「あの状況で、今さらジャックくんに『全部思い出した!』っていうのも、なんだか言いにくいなって」


「けど、まだその肉体(カラダ)の生命力は全部尽きたワケじゃない。エヴァに頼んで、傷を治してもらうこともできたんじゃ……」


「駄目よ。多少は正気が戻ったけど、相変わらず今の私はヴェルデュだから。今はもう致命傷を負ったことで諦めもついたけど、また動けるようになったらロストエデンを守ろうとするかもしれない。そんな衝動が私の中で(くすぶ)っている……そんな感覚があるわ」


「……そっか」


 だったらもう仕方ない。

 諦めたように、アカネは寂しそうに微笑んだ。


 それからレイカとアカネは二人で並んで、その場で仰向けになった。

 空はもうすっかり真っ暗だ。


「……一つだけ、後悔してることがあるの」


「何だい今さら」


「あなたを付き合わせてしまったこと。ごめんね、アカネ。道づれにしちゃって」


「良いさ。寂しがりの妹分を一人にするわけにはいかないからねぇ」


「わ、私の人格の方が第一なんだから、私がお姉ちゃんだってば」


「ま、それはいいとして」


「よくないんだけど」


「本当にこれで良かったのかい、レイカ? もうジャックたちの仲間には戻れないとしても、別れの言葉くらい言いたかったんじゃないかい? アイツらのことを忘れたヴェルデュとしてじゃなくて、ちゃんとしたレイカ・サラシナとしてさ」


「それは……うん。そんな気持ちは無かったって言えば嘘になっちゃう。でも、これで良かったの。私は守るべき人々を斬ってしまった。肩を並べるべき仲間たちに刃を向けてしまった。だから私は、人類に敵対したヴェルデュとして幕を下ろすのが(すじ)。でしょ?」


「そうかい。アンタがそれで良いなら、アタシもそれで良いさ」


 それから二人は口を閉じ、真っ暗な空を見つめた。


 今ごろジャックたちはどうしているのか。

 そろそろ日向たちはロストエデンを倒せるだろうか。

 そんなことを考えながら、憑き物が落ちたような微笑みと共に。

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