第1546話 たくさんの友達
時間は少し遡り。
こちらはジャックとコーネリアス、そして二人に同行しているエヴァの様子。
三人は現在、ヴェルデュ化したレイカと交戦中だ。
レイカがエヴァに斬りかかる。
エヴァはちょうど日影と通信をしており、レオネ祭司長の位置を日影に教えている最中だった。
その最中にレイカが斬りかかって来たので、エヴァはすぐに通信機をしまって、オリハルコン化させた杖でレイカの刀を受け止めた。
レイカは自分の身体ごと刀を押し込み、エヴァのガードを突破しようとする。ヴェルデュ化した現在の彼女の膂力は、人間だった時とは比較にならないほど強くなっている。
しかしエヴァも負けていない。
杖を両手で持って、その小さな身体でレイカの刀を押し返し続ける。
”生命”の権能で彼女自身の筋力を強化しているからこそできる芸当だ。
「やりますね、エヴァちゃん! ですが、これはどうですか!?」
レイカがそう言うと、エヴァの左から緑色の人影が迫る。
これは、レイカの”おともだち”だ。
レイカはこの新しい分身を「ロストエデンの分霊のようなもの」と称していたが、正確には、レイカの身体に寄生したロストエデンの細胞が、レイカに語り掛けるために生成した人格である。
レイカの分身は刀の形をした緑色のエネルギーを手に持って、エヴァに斬りかかってきた。
エヴァは高いバク宙を繰り出し、レイカの分身の斬撃を回避。
空中で宙返りしながらレイカの方へ向き直り、杖の先端を向ける。
「焼き尽くせ……”シヴァの眼光”!!」
エヴァの杖の先端から、細い緋色の光線が発射された。
レイカはその場から大きく跳んで、エヴァの光線を回避。
回避されてしまったエヴァの光線は、その向こうにあるビルのど真ん中に命中。その命中箇所を一瞬で溶解させて貫いた。ビルのど真ん中に大穴を開けてしまったのだ。
「それがエヴァちゃんの本気の火力ですか。凄まじいですね。ですが……無駄も多いように感じます。結局のところ、首を一つ斬り落とすだけで人は死ぬのですから」
すると、レイカの左右に四体の分身が出現。
その四体が一斉にエヴァへ飛び掛かってきた。
「こ、これは……!」
さすがのエヴァも、これは厳しい。
分身四人の動きと太刀筋は、レイカとほとんど変わらない。
刀の達人であるレイカが四人に増えて攻撃してくるも同然だ。
エヴァは後ろへ下がりつつ、先ほどと同じようにオリハルコン化させた杖で分身四人の斬撃を防御し続けるが、いつ防御を崩されて斬りつけられるか分からない危うさがある。
ところで、現在エヴァがピンチに陥っているが、彼女と一緒にいるはずのジャックとコーネリアスはエヴァを援護してくれない。
なぜなら。
彼らもまた、レイカの分身と交戦中だからだ。
ジャックとコーネリアスを、それぞれ三体ずつの分身が襲っている。
怒涛の勢いでジャックに斬りかかる、三体の分身。掛け声の一つも発さず、黙って淡々と仕掛けてくるが、溢れんばかりの殺意を体現するかのように太刀筋は大振りで、それがかえってジャックの恐怖心を煽る。
「うおおっと!? あぶねぇぇ!? クソッ! コイツらの斬撃の切れ味じゃ、俺の義手でもマトモにガードするのはヤバいからなぁ! 腕ごと斬り落とされる可能性だってある! ひたすら避けるしかねぇ……!」
そしてコーネリアスも三体の分身の相手をしている。
”吹雪”の異能で冷気を纏わせた弾丸を発射し、正面から飛び掛かってきた分身を一体、対物ライフルで撃ち抜いた。
「たとエ物理的な攻撃でモ、あの分身を構成するエネルギーの配列を乱してやれバ、分身は維持できなくなり消滅するようだナ」
続く二体目がコーネリアスの左側から回り込んできたが、コーネリアスもすぐにそちらへ銃口を向け、一体目と同じように撃ち抜き、消滅させる。
その二体目に気を取られている隙に、三体目の分身がコーネリアスの右側から回り込み、彼の背中を狙って斬りかかった。
「くッ……!」
すぐに三体目にも対物ライフルの銃口を向けるコーネリアス。
だが銃口を向けた瞬間、分身に対物ライフルの銃身を切り裂かれてしまった。
対物ライフルが使い物にならなくなってしまったが、コーネリアスは慌てない。すぐにその対物ライフルを捨てて、義手ではない左の手のひらを分身に向ける。
すると、そのコーネリアスの左の手のひらから、爆発するような冷気の突風が発射された。その強烈な突風に身体を崩されて、三体目の分身も消滅した。
床に捨てた、銃身を叩き斬られてしまった対物ライフルを眺めながら、コーネリアスはつぶやく。
「もうレイカを倒してモ、レオネ祭司長の狙撃はできないナ」
それからすぐにジャックとエヴァも、それぞれ襲ってきていたレイカの分身を消滅させた。しかし二人は無傷とはいかなかったらしく、身体のところどころから出血が見られる。
「二人とモ、大丈夫カ?」
「ふぅ……ふぅ……。なんとか、です」
「こっちもまだいける……が、とんだ誤算だったな……。レイカのヤツ、ちょっと目を離した隙に進化しすぎだぜ……。分身も何体出せるようになってんだ? ひぃ、ふぅ、みぃ……」
三人の正面で、レイカは分身を周囲に展開し、三人を見据えている。
現在レイカが具現化している分身の数は、左右五人ずつで合計十人だ。
「これだけたくさんの友達がいれば、辛いことなんてもう何もない。ですよね?」
レイカがそうつぶやくと、彼女の十人の分身が一斉に走り出す。
十人の分身がジャックたちを取り囲み、その周囲を右へ左へ駆け回る。三人を攪乱するのが狙いなのだろう。
三人を取り囲んでいるレイカの分身が、四方八方から斬りかかってきた。三人の背後から。左右から。正面から。かまいたちのように素早く、すれ違いざまに斬りつけてくる。
さすがの三人も、このような攻撃を完璧に防ぎきるのは難しい。
ジャックの右頬から、コーネリアスの左脚から、エヴァの左腕から、それぞれ少量ながらも血しぶきが舞い上がった。
「こんの……! めんどくせぇ!」
ジャックが左右の拳を振るって、斬りかかってきた二人の分身をかき消した。
しかし、その隙を狙ってレイカがジャックに飛び蹴りを仕掛ける。
「よそ見してる場合ですか!」
「ぐッ!?」
強烈な義足のパワーで蹴られ、大きく吹き飛ばされるジャック。床に落下しても勢いは落ちず、ビルの端まで滑ってようやく停止。
後転して受け身を取るが、すでにレイカはジャックの目の前まで距離を詰め、走りながら居合抜刀の構えを取っていた。
「もらいましたよ、ジャックくん!」
「超電磁居合抜刀か! 後ろには逃げられねーか。だったら、また前回みたいに弾き飛ばして……」
言いながら拳を構えるジャックだったが、ここで直感する。
レイカが構える刀から、並々ならぬ威圧を感じる。
「ただの居合抜刀じゃない……? マズった、コイツぁ受けきれねぇ……!」
「これで終わりです! ”超電磁居合抜刀・大烈風”!!」




