第1543話 譲れぬ思い
こちらは北園をロストエデンから引き離した日影。
”オーバーヒート”をフル稼働し、リオデジャネイロのビル街を飛ぶ。
その日影を、北園も超能力で滑空しながら追いかけてくる。
マッハの速度を出す日影でも振り切れないくらい、彼女の飛行速度も速い。
「日影くんが死ねば、日向くんは助かる……!」
「ちッ。オレに勝つために進化しただけあって、能力が何もかも強化されすぎだぜ……!」
北園が氷の大剣を作り出し、日影に斬りかかる。
日影も『太陽の牙』を構え、それを受け止め、斬り返す。
その反撃を北園が受け止め、再び日影に氷の刃を振るった。
この攻防の間も、日影と北園は超高速飛行を続けている。
ビルとビルの間を縫うように。
時にはビルの窓を破り、反対側へ突き抜けて。
超人同士の空中戦が繰り広げられる。
北園が日影を打ち払い、両者の間合いが開いた。
そのタイミングで、北園が日影を凝視しようとする。
「もう一回、血液で串刺しにしてあげる……!」
「二度とゴメンだ!」
日影は『太陽の牙』を下から上へ振り上げる。
刀身が纏っていた炎が舞い上がり、その炎が日影を覆い隠す。
炎で日影の姿が視認できず、北園の超能力は発動しなかった。
どうやら対象の姿が物理的に見えなくなると、彼女の目視超能力は無効化されるらしい。
そして、その炎の向こうから、日影の『太陽の牙』が飛んできた。
「『太陽の牙』を投げてきた……!」
すぐさまバリアーを張り、『太陽の牙』を受け止める北園。
飛んできた『太陽の牙』がバリアーに激突し、ガギンと音を立てて弾かれた。
その一瞬の隙。
北園が『太陽の牙』に気を取られていた一瞬の隙を突いて、日影が”オーバーヒート”で北園に接近。そのまま音速の勢いで彼女のバリアーに激突。
「おるぁぁぁッ!!」
「きゃっ……!?」
驚異的なパワーアップを遂げた現在の北園でも、さすがに日影の彗星衝突のような一撃を受け止めることはできなかったようだ。バリアーは音を立てて破壊され、その先の北園も蹴散らされた。
衝突と火傷で大きなダメージを受けた北園だが、すぐに自身に”治癒能力”をかけて体力を回復させる。どうやら”治癒能力”による回復力も強化されているらしく、かなりの怪我だったにもかかわらず今まで以上の速度で傷を完治させてみせた。
投げた『太陽の牙』をキャッチしながら、北園が回復した瞬間を目撃していた日影は、思わず苦い表情を浮かべた。
「厄介だな。多少の傷を負わせたところで、負わせた側から回復されちまうか。今の北園を倒すには、一撃で致命傷を喰らわせるしかねぇってことか」
その北園はというと、日影より低い位置で滞空しながら、無数の火球、冷気弾、電磁球を自身の周りに生成している。その生成した三色のエネルギー弾を、日影めがけて次々と発射してきた。
「”オーバーヒート”も”再生の炎”も、『太陽の牙』が発する炎も、使っているエネルギーは全部同じ。長期戦になれば、有利になるのはこっちの方……!」
この北園の弾幕を避けるには、日影も”オーバーヒート”を使うしかない。使わなければ被弾し、その傷を治すために”再生の炎”を稼働せざるを得なくなる。どうあがいても日影は炎のエネルギーを消費しなければならないということだ。
日影は素直に”オーバーヒート”を使用し、右へ飛んで北園の弾幕から逃れる。
北園から見れば左方向へ逃げる日影を狙って、彼女はエネルギー弾を連射し続ける。
「もともと日影くんが日向くんの影で、日影くんはただ日向くんの人生を奪おうとしてるだけでしょ? 日影くんがおとなしく日向くんの影に戻ってくれれば、こんなことにはならなかったのに!」
高速飛行する日影にエネルギー弾を乱射しながら、北園がそう声をかけた。
日影は北園の周囲を飛び回ってエネルギー弾を回避し続け、時にビルの後ろや内部を通過してエネルギー弾を防ぐ盾として利用する。
「そうかもな! だがな、この世に誕生した瞬間に『自分の役目は、自分の本体のやられ役として成長を促すこと』だって悟ったヤツの気持ちがお前に分かるか!?」
一瞬の隙を突いて日影が弾幕をかいくぐり、上昇して北園の頭上を取る。
真下の北園めがけてまっすぐ急降下しながら、日影は『太陽の牙』を思いっきり振り下ろした。
北園はこの攻撃をバリアーでガード。
しかし、攻撃があまりにも強烈。
北園はバリアーごと吹き飛ばされ、地上に激突。
地上に叩きつけられた北園に向かって、日影が流星のように突撃する。
「”落陽鉄槌”ッ!!」
「くぅ……!」
北園はすぐさまその場から離れ、”落陽鉄槌”の直撃は回避。しかし、地表に激突した際の衝撃波と爆炎に吹き飛ばされ、アスファルトの道路の上を転がった。
すぐさま北園は立ち上がり、両手を突き出して猛烈な冷気を発射。
道路上を氷山のように凍らせながら冷気は奔る。
やがて冷気は日影を巻き込み、もろとも吹き飛ばし、その先のビルの外壁に叩きつけた。激突と共にまき散らされた冷気が、ぶちまけた水を凍らせたようにビルの外壁を大規模に凍結させる。
その大規模な氷塊が、爆炎と共に内側から粉砕された。
日影が”オーバーヒート”の炎を発し、氷塊から脱出したのだ。
数十メートルほどの距離を隔て、向かい合う日影と北園。
息を整えながら、日影はあることに気づく。
「やっぱり思った通りだ。北園の目視の超能力は、対象との距離が遠すぎると使えねぇんだ。こんなにまっすぐ向かい合っても、オレの身体がどうこうなる様子がまったくねぇ」
……と考えていると、ここで北園が日影に声をかけてきた。
「私だってたぶん、みんなに思われてるほど鈍くはないよ。日影くんが私のことを大事に想ってくれていたの、なんとなく気づいてた。私のためを思ってくれるなら、ここで死んでくれないかな……!」
「……悪ぃが、お前の頼みでもそれは聞けねぇよ。お前を倒して、ロストエデンを倒して、そして狭山を倒す。大勢に約束しちまってるからな。それに……生きたい。それだけを願って努力して、強くなった。ただひたすら、そのための一年と数か月だった」
「勝手なんだね。日向くんのことは無視して、自分の都合で」
「お互い様だろ。お前は今、自分の欲望のために、この星の未来を犠牲にしようとしてやがる。お前の勝利を願ってくれたヤツら。お前がこの星に平和を取り戻してくれると信じたヤツら。全部裏切ってんだよ。だからもう、お前だろうと、オレは斬る」
両者、譲らない。
二人が発する殺気が激突し、空気が緊張で震えているように見える。
先に動いたのは北園。
日影に向かって滑空しながら接近してきた。
それと同時に自身の周囲に巨大な氷柱を四本生成し、日影めがけて発射する。
日影は”オーバーヒート”を発動すると、自分から北園との間合いを猛スピードで詰める。目視による超能力を使おうとした彼女の攻撃のタイミングを狂わせる狙いだ。それと同時に『太陽の牙』を大きく振るい、飛んできた氷柱を三本破壊。
「日影くんから距離を詰めてきた……! ここまで近づくつもりはなかったけど、今さら急停止はできない。でも、それなら!」
四本目の氷柱の陰に隠れて、北園が間合いを詰めてきた。
これに対して日影は、四本目の氷柱を斬撃で破壊し、粉々にした氷柱のかけらで北園の視界を覆い隠す。
「視界を遮れば、お前の超能力は発動しねぇ!」
「甘いよ、日影くん!」
そう言うと、北園は日影が飛ばした氷柱をくぐり抜けて肉薄してきた。日影がこう反撃してくることを先読みしていたのだ。
至近距離で、北園は日影の顔を目視。
そして、超能力を発動した。
「頭を沸騰させてあげる! ”電撃能力”っ!!」