第1542話 もう通じ合えない
日影のもとに駆けつけ、彼をロストエデンの攻撃から守った日向たち。
その日向たちは現在、北園と向かい合っている。
日向の行動が、ただひたすらに理解できないと言いたげな表情を浮かべながら。
「日向くん……どうして日影くんの味方をするの? 日影くんを殺さないと、日向くんは消えちゃうんだよ?」
「北園さん……」
「そんなにこの星を守りたいの? そのための戦力として日影くんが必要なの? 強い戦力がほしいなら、日影くんを殺した後で、私が日向くんたちと一緒に狭山さんと戦うよ。今の私なら日影くんより強いから」
「……ごめん」
そう答えて、日向は『太陽の牙』を構えた。
北園は悲しそうな表情を浮かべる。
「どうして……? 大好きな人を守ることの何がいけないの?」
「その気持ちは本当に嬉しい。だから、俺も北園さんを守るために、北園さんを止める。もうこれ以上、北園さんが間違いを犯さないように」
「……わからない。私には日向くんがわからないよ」
つぶやくように、北園はそう答えた。
その直後、彼女から凄まじい重圧が放たれる。
全身の産毛まで逆立つのではないかと思うほどの、凶悪な気配。
そして同時に、北園の身体に異変が起こる。
右腕だけを覆っていた桜の花が、さらに彼女の身体を侵食。
彼女の服の下からも、大きめの桃色の花弁がはみ出し始める。
邪魔になって超能力を使ったのか、北園の服が燃えて灰になった。
その服の下では、桜の花が新たな衣服のように彼女の身体を包みつつある。
やがて北園の全身は、桜の花で作られたドレスを着込んだような造形になった。華やかで可愛らしくも感じる見た目だが、そんな可愛らしさではまったく誤魔化しきれないほどに現在の彼女は殺意をみなぎらせている。瞳も鋭く据わっており、危険な香りしかしない。
「そっか……。きっと日向くん、ここまで戦いばっかりだったから疲れてるんだよ。疲れてるから、そんな意味のわからないことも言っちゃうんだよきっと。一回死んでゆっくり休めば、頭もスッキリするんじゃないかって私は思うなぁ……」
もはや話が通じる様子ではない。
今の北園は完全に、人類に仇なす花の怪物だ。
彼女の背後で倒れていたロストエデンも、再び起き上がった。
日向の仲間たちもそれぞれ、戦闘態勢をとる。
「北園……恨むなら俺を恨め。俺がもっと早くヴェルデュ化の真の原因を突き止めていれば、この展開は回避できていた」
「キタゾノ……ホントにやるしかないの……?」
「悪ぃが、オレも譲れねぇぞ、北園」
「北園ちゃん……。これがアーリア王家の最後なのかな……」
「その最後を、こんな形で私たちが看取ることになるなんてね。人生って分からないものよね」
「みんなも邪魔するなら、もう容赦しないよ。これも日向くんのためだから……!」
そう言うと同時に、北園は日向たち全員を視界に納めながら、超能力を行使しようとした。
しかし超能力が発動する直前、ミオンが足元の砂利を北園めがけて蹴り飛ばす。
「せいっ!」
弾幕となって蹴り飛ばされた砂利は、北園の視界を覆い隠す。
北園は左手で、飛んできた砂利を払いのける。
その砂利を払いのけると、目の前に本堂がいた。
彼女の視界が塞がれていた一瞬の間に距離を詰めていたのだ。
本堂は右手の指をチョキの形にして、彼女の目を突いた。
「はっ……!」
「あうっ!?」
大きくのけ反る北園。
本堂の目潰しは直撃した。
両目を押さえる北園の右手の下から流血が見られる。
間髪入れず、本堂は左腕に刃を生成し、それを北園の首めがけて振り抜いた。
「”雷刃一閃”……!」
……しかし、本堂の刃が命中するより早く、北園が全身から熱波を放出。本堂もその熱波に吹き飛ばされ、振るった刃も届かなかった。
「ぐ……! 全身からの”発火能力”だと? また新しい能力の使い方だな……!」
熱波によって全身を焼かれてしまった本堂。
受けた火傷は軽くはないが、まだ戦闘続行は可能だ。
一方、北園も”治癒能力”で目の傷を回復させた。
日向たち全員を、かつての彼女からは考えられない剣幕で睨みつける。
「邪魔しないでよ!」
北園が宙に浮かび、自身の周囲に多数の火球や冷気弾、そして電磁球を生成。それらを一斉に地上の日向たちめがけて発射してきた。
北園の攻撃により、地上で爆炎が発生し、冷気がまき散らされ、稲妻が迸る。三色属性の爆撃の嵐だ。
激しい攻撃だが、狙いは甘い。
日向たちは爆風と爆風の間をくぐり抜け、浮遊する北園の真下へ向かう。
「ロストエデン! みんなを追い払って!」
北園がロストエデンに呼び掛ける。
その声に呼応し、ロストエデンが日向たちの進路を塞ぐように、緑に光る蕾を咲かせた。
その緑の蕾の群生地を焼き払うように、日影が”オーバーヒート”で横断する。
「るぁぁぁッ!!」
彼が発した灼熱のソニックブラストで、緑の蕾は消し飛ばされた。
日影の勢いは止まらず、四つん這いになっているロストエデンの左手首に激突。
日影の激突と同時に大爆炎が巻き起こり、ロストエデンが転倒。
それを見た北園が、焦りの表情を見せた。
「ロストエデンが、あの一発だけでこけちゃった……!? ここまでの戦いで弱っちゃってるんだ。私が回復させてあげないと……!」
そう言うと、北園はロストエデンを凝視する。
すると、ロストエデンの傷がみるみるうちに塞がり始める。
北園がロストエデンに”治癒能力”を使用しているのだ。
この北園の行動に日向が気づき、日影に呼び掛ける。
「北園さんがロストエデンを回復させてる! 日影、北園さんを止めてくれ! 今の北園さんと空中戦でやり合えるのはお前しかいない!」
「仕方ねぇな!」
日向に返事をすると、日影はロストエデンから離れ、北園に攻撃を仕掛ける。
彼が接近と同時に振り下ろした『太陽の牙』を、北園はバリアーで受け止めた。
「さぁ北園。そんなにオレを殺したいなら、相手してやるぜ」
「もう……! 今はちょっとタイミング悪いのに……!」
言いながら、北園も日影の攻撃に対して応戦し、二人はこの場を離れる。
この戦場に残されたのは日向、本堂、シャオラン、スピカ、ミオンの五人。
そして五人の目の前にはロストエデン。
「もうこれ以上進化させるわけにはいかないからな、ロストエデンは倒せない。でも、動けなくなるくらいに弱らせることはできるはず。さっきは日影の激突で転倒してたしな」
「いったんキタゾノはヒカゲに任せて、ボクたちはロストエデンを引き付けるんだね」
「うん。その後、北園さんを追いかけるか、コーネリアス少尉がレオネ祭司長を狙撃するのが早いか、そこはうまく対応していこう」
「わかった。それと……ヒューガ、大丈夫?」
「え?」
「師匠やホンドーがキタゾノを攻撃した時、ヒューガ、やっぱりつらそうだったよ」
「……うん。大丈夫」
短く答えて、日向はロストエデンを見上げると、『太陽の牙』を構えなおした。