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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1538話 覚悟を決めて

 ヴェルデュ化した北園が日影に奇襲を仕掛け、日影は倒れてしまった。


 倒れている日影の前で、北園は笑みを浮かべる。

 自分と日向の二人だけの世界の到来、それがもうすぐ近くまで来ていることを予感して。


「ふふ……それじゃあ最後の仕上げだね。どうせこのままじゃ日影くんも復活するだろうから、もう二度と復活できないくらいに殺し尽くしてあげないとね」


 そうつぶやきながら、北園は日影に右の手のひらを向ける。


 その瞬間。

 日影がいきなり立ち上がり、北園めがけて『太陽の牙』を突き出した。

 彼女の油断を誘う死んだフリだ。


「うるぁぁッ!!」


 ……が、これは金属音と共に食い止められてしまった。

 先ほど北園が日影に向けた右の手のひらからバリアーが発生し、日影の剣の切っ先を受け止めている。


「そう来るんじゃないかなって思ってたよ。日影くんはこの程度じゃ倒せないって」


「北園……お前、ヴェルデュになっちまったのか……。他の連中はどうした?」


「今のところ殺してはいないよ。みんな大切な仲間だったからね。もちろん日影くんも仲間だったけど、今は別。私と日向くんのために、死んでちょうだい?」


 そう返答し、北園は日影を凝視して超能力を行使。

 すると次の瞬間、日影の全身から赤色の棘のようなものが飛び出てきた。


「ぐあッ!?」


 この赤色の棘は、北園の”凍結能力(フリージング)”によって日影の体内の血液を氷柱(つらら)と化したものだ。彼の血液が、内側から彼自身を突き破って出てきたのだ。


 内側から全身を穴だらけにされ、おまけに大量の血液が凍結させられたことで体内で酸素が運搬されなくなり、耐えがたい激痛と酸欠症状が日影を襲う。


 本来なら即死確実の致命傷。

 しかし、日影の根性と”再生の炎”が、ギリギリのところで彼が死の(ふち)へ落ちるのを引き留めた。


 意識が死へ引っ張られるのを回避した日影は、反射的に”オーバーヒート”を発動。周囲に強烈な熱波をまき散らす。


「おぉぉぉぉッ!!」


「きゃっ!? バリアーっ!」


 北園も日影の反撃の気配を感じ取り、後ろへ飛び退きながらバリアーを展開。日影が発した熱波を受け止め、全身を焼かれるのは防いでみせた。


 ”オーバーヒート”を発動した日影は、そのまま北園から離れ、このビルの下へ急降下。そのままビル群の中へ逃げるように姿を消す。


「脳を焼く電撃に、全身の血液を直接凍らせて氷の棘にしちまう能力……。全部、人間だったころの北園じゃ使えなかった能力だ。あの北園は、ヴェルデュになってクソ強くなってやがる……。注意して戦わねぇとマズい。今は様子を見ねぇと……」


 北園から逃れた日影は、血液を失ったことで消耗した体力を回復させるため、ひとまず路地裏へと身を隠した。彼の身体の中で(たぎ)る”再生の炎”が、新たな血潮となって彼の血管を流れ始める。


 だがその時。

 彼のすぐ横で、上空から北園が勢いよく着地してきた。


「日影くん、見ーつけた♪」


 さらに、悪いニュースは続く。

 この路地裏を覗き込むように、ロストエデンがビルとビルの隙間から顔を見せたのだ。


「……今さらだが、日向をこっちに置いて、オレが飛空艇に行きゃあよかったなぁ」


 珍しく、ひどくうんざりした様子で日影はつぶやいた。

 しかし、そんな諦観(ていかん)した言葉とは裏腹に、彼の『太陽の牙』を握る右手には力が込められていた。



◆     ◆     ◆



 一方こちらは、日影のもとへ向かう日向たち八人。


 エヴァの気配感知により、日向たちは迷うことなく日影がいる場所にまっすぐ向かっている。

 そうでなくとも、巨大なロストエデンが派手な音を立てて戦闘を行なっているので、そのロストエデンが暴れている場所に向かえば、おのずと日影と合流できるだろう。


 その時、皆に向けてエヴァが叫ぶ。


「日影とロストエデンの他に、良乃の気配もあります! どうやらすでに日影に攻撃を仕掛けているようです!」


「ヒカゲには相当な無理をさせちゃってるね……。急いで駆けつけてあげないと!」


「北園さん、本気で日影を始末する気なんだな……」


 走りながら、寂しそうに日向がつぶやく。

 とはいえ、力強く走り続ける彼の姿からは、覚悟の意志も感じられる。

 再び北園を前にしても、先ほどのように取り乱すことは、恐らくないだろう。


 ここで、日向たちは二手に分かれる。

 日影のもとへ駆けつけるのは、日向、本堂、シャオラン、スピカ、ミオンの五人。

 そして日向と別行動をとるのはジャック、コーネリアス、エヴァの三人だ。


 レオネ祭司長がロストエデンの本体ならば、彼女を倒せばロストエデンも終わる。そして同時に、日影を狙う北園や、この街に蔓延(はびこ)るヴェルデュたちも一掃できるだろう。レオネ祭司長を倒すことが日影の援護にもつながる。


 そこで、たとえレオネ祭司長が”瞬間移動(テレポート”)で遠くに逃げても狙撃で仕留められるコーネリアスを主軸に置いて、彼女をピンポイントで倒すことに特化した部隊を編成することにした。


 ジャックは、コーネリアスが狙撃に集中するための護衛。

 エヴァは、レオネ祭司長の気配を追うための、コーネリアスのレーダー役だ。


「それでは皆さん。健闘を祈ります」


「ああ。エヴァとジャックたちも気を付けて」


「……けどよ、いいのかヒュウガ? コーディの狙撃が成功したら、キタゾノは問答無用で()っちまう。オマエと最後のトークをするヒマも無いかもなんだぜ?」


「まぁ、その時はその時だ。もう覚悟は決めてる。それに、なんとなくだけど、どんな終わり方になろうと、最後に少しくらい話はできそうな気がするんだ」


「そうかい。それじゃ、悪いが遠慮ナシでやらせてもらうぜ」


「言ったな? 絶対成功させてくれよ」


「おう! 任せとけよ!」


「……ト、ジャックは自信満々に言っているガ、狙撃するのハ俺なのだがナ」


 それからエヴァが”天女の羽衣”の権能を行使。

 彼女とARMOUREDの二人を風のベールが包み、三人は空へ舞い上がった。

 レオネ祭司長を探し、狙撃するための良いポイントを探すために。


 三人と別れた日向たちも、日影を助けに行くため走る。

 まだ距離があるだろうに、ロストエデンの大きな戦闘音がここからも聞こえる。


「この音をたどっていけば、ロストエデンがいる場所に日影もいるはず」


 ……しかし、その時だった。

 日向たちの近くのビルの外壁を破壊し、その向こうから何者かが現れる。


「な、なんだ!?」


「すごい殺気を感じるわね……。皆、注意してちょうだい」


 思わず足を止めた日向たち。

 ミオンの言葉を受けて、皆それぞれ素早く構えを取る。


 現れたのは、ほぼ全身が緑色のツタで覆われた筋肉質の巨漢。

 右腕から胸部にかけて、ヤドリギの花のような植物がびっしりと生えている。

 髪は緑の長髪で、触手のように(うごめ)く。


 どうやら人型のヴェルデュのようだが、他の人型ヴェルデュとは明確に違う点が一つある。それは、顔が人間の原型を留めている点だ。


 そして、その顔に、日向たちはよく見覚えがあった。

 ヴェルデュ化して姿を消していたエドゥだった。


「よぉ、クサカベ……。奇遇だなぁ、こんなところで会っちまうなんテ」


「お前、エドゥか!? くそっ、面倒な奴と出会ってしまった……!」

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