第1527話 祭司長と相まみえる
空を飛ぶ飛空艇から、地上へ降りた日向たち。
エヴァの重力操作でゆっくりと、安全に着地する。
この周辺にはヴェルデュもロストエデンもいないようだ。
先ほどの飛空艇の甲板での戦いが嘘のように、ここは静かだ。
緑色に輝く粒子が、静かに街の中を漂っている。
七人の目標はレオネ祭司長を倒すこと。
日向の推測では、彼女はロストエデンの本体である可能性が高い。
これまで何度も倒しては復活したロストエデンだが、レオネ祭司長を倒すことができれば、二度と復活することはないはずだ。
日向たちが降り立ったこの周辺にレオネ祭司長の姿はないが、エヴァがレオネ祭司長の気配を追うことができる。エヴァが先行し、日向たちはその後に続く。
「そう遠く離れてはいません。向こうが逃げなければ、間もなく遭遇すると思われます」
先へ進みながら、エヴァがそう告げた。
やがて七人は、背の高いビルが立ち並ぶ大通りへとやって来た。
その大通りの真ん中に、レオネ祭司長が立っていた。
レオネ祭司長は、すでに日向たちの方を向いている。
しかし攻撃などはしてこない。静かにその場で佇んでいるだけだ。
日向たちとレオネ祭司長の距離は、まだそれなりに離れている。数字にして七十メートルくらいだろうか。接近したら逃げられるかもしれない。
エヴァの能力などを使って、この場所からレオネ祭司長に遠距離攻撃を仕掛けることも考えたが、日向はどうしても彼女に聞きたいことがあったので、まずは声をかけることに。どうせすでに捕捉されているなら、攻撃から始めようが会話から始めようが同じだろうと判断した。
「レオネ祭司長!」
日向が呼び掛けると、レオネ祭司長も反応した。
こちらに向かってゆっくりと歩み寄りながら、日向と目を合わせる。
「『牙』よ、また会いましたね。ロストエデンに目もくれず、まっすぐ私のもとへやって来たということは、ついにあなたたちも『その答え』にたどり着いたということでしょうか」
「『答え』っていうのは、あなたがロストエデンの本体で、あなたさえ倒せばロストエデンは終わるって話のことですかね」
「如何にも。つまりあなたたちは、この私を殺すためにここまで来たということですね。さて、私も死にたくはないので、可能な限り抵抗させていただきましょう」
「その前に、一つだけ聞かせてくれませんか? あなたは大昔に、アーリア遊星と運命を共にして死亡したはずだった。狭山さんから魂を回収されることもなく。だから、あなたがこの現代に蘇ることはありえなかったはず。それが、どうしてあなたは今、ここにいるのですか?」
「すみませんが、答える義理はありませんね」
レオネ祭司長がそう答え終えると同時に、彼女の周囲から茨のようなツタが生えてきて、日向たちに襲い掛かった。恐らくこの植物は、緑化現象で生えていたツタ植物がヴェルデュ化したものだ。
これに対して、日向たちの陣営からはエヴァが前に出て、杖を掲げて能力を行使。
「吹き抜けよ……”パズズの熱風”!」
エヴァの詠唱と共に、灼熱の風がレオネ祭司長に向かって吹いた。
熱風に巻き込まれたツタのヴェルデュは、熱耐性により焼き尽くすことはできなかったが、風の勢いで押し返すことはできた。
熱風はツタのヴェルデュを突破し、レオネ祭司長も巻き込む。
しかし、レオネ祭司長の周辺のツタのヴェルデュが壁のように絡み合い、彼女を熱風から守った。
レオネが反撃してくる。
彼女が右手をかざすと、日向たちの周囲に、緑色に光る蕾のような植物が生えてきた。
これを見たエヴァが、皆に声をかける。
「皆さん、この植物から全力で離れてください! これはいわゆる爆弾のようなものです!」
「わ、分かった!」
急いで皆はその場から飛び退き、緑の蕾から離れた。
すると、その緑の蕾が急速に膨らんでいき、やがて緑の大爆発を起こした。その蕾の大きさからは想像もつかないほどの爆発規模だった。
あの蕾が爆発した時、まき散らされた緑の爆風に日向たちは見覚えがあった。前の形態のロストエデンも使っていた、全ての生物が等しく持つという”生命”のエネルギーを攻撃に転用したものだ。
蕾の爆発から逃れた七人のうち、本堂が近くのビルの三階あたりの外壁に着地。
そのビルの壁に生い茂っているツタと雑草から、また先ほどの緑の蕾が咲いた。
「生命が花開くには、強力なエネルギーが必要です。それを攻撃に利用したのが、この能力」
「くっ……!」
すぐさまビルの壁を蹴り、その場から離れる本堂。
またも蕾は爆発し、ビルは派手な音を立てて崩壊した。
一方、本堂はビルを離れると同時に、レオネ祭司長めがけて飛び掛かっていた。右腕から生やした刃に雷電を纏わせる。
「一気に決着を付けてくれる。”雷刃一閃”……!」
凝縮された雷のエネルギーが、本堂の刃を青く発光させる。
そしてレオネ祭司長の首を狙って、青雷の刃を振り抜いた。
だが、その本堂の刃を遮るように、レオネ祭司長の隣から太いツタが一本生えており、それが本堂の刃を受け止めてしまっていた。
「お忘れですか? すでにロストエデンは四度の復活を経て、四度の進化を遂げました。それに合わせてヴェルデュも進化しています。耐電性、耐斬撃性ともに、あなたのその技でも易々と突破はできないほどに」
「ぬっ……」
反撃を受ける前に、本堂はツタから刃を引き抜いて後退。
……後退しようとしたのだが、本堂の刃がツタから抜けない。
どうやらツタがすぐに斬られた部分を再生させたらしく、本堂の刃を取り込んでしまっている。
そして、この本堂の刃を取り込んだツタから、またもや緑の蕾が生えてきた。
「しまった……!」
緑色に発行した蕾が爆発を起こし、本堂は超至近距離でこれに巻き込まれてしまった。
「本堂さん!?」
「本堂ッ!」
日向と日影が本堂に声をかける。
本堂は吹き飛ばされ、後ろにいた日向たちのもとへ着地。
「本堂さん、大丈夫ですか!?」
「む……ああ、大丈夫だ。命に別状はない。大きな傷であることは間違いないが」
本堂の言うとおり、彼の身体は蕾の爆発によってズタズタだ。取り込まれていた右腕の刃も大きくひび割れ、ところどころ欠けてしまっている
「仁。私が回復させます」
そう言ってエヴァが本堂のもとへ駆け寄り、彼に”生命”の権能を行使。本堂の自然治癒力を飛躍的に向上させて、彼の傷を治していく。欠けていた右腕の刃も、もともとは本堂自身の腕の骨を変形させて作ったものなので、それも修復されていく。
「助かった、エヴァ。しかしあの蕾、中々に厄介だ。何処にでも咲かせることが出来る爆弾か。シンプルだが強力な能力だな」
「あの蕾はロストエデンの細胞を急速成長させて生み出しているようです。ロストエデンの細胞が多量に付着した植物のヴェルデュに覆われているこの街においては、まさに『何処にでも咲かせることができる爆弾』で間違いないですね」
「ロストエデンの細胞が付着した場所に咲くのか。それは、この植物ヴェルデュを踏んでいる俺達の靴の裏などでも可能なのか?」
「いえ、足の裏に付着した程度であれば、細胞の量が足りません。今のところ、ヴェルデュにしか咲かせられないと思っていいと思います」
「それを聞いて安心した。そんなことが可能なら手が付けられなくなるところだった。いや、足が付けられなくなるとでも言うべきか。地面にな」
「ともあれ皆さん、油断しませんよう。彼女が本当に私と同等の能力を有しているのであれば、まだまだ力を隠しています」
エヴァが皆にそう声をかけ、皆も改めて気を引き締める。
しかしそのエヴァの言葉を聞いて、レオネ祭司長が口を開いた。
「この星の巫女よ。勘違いをしておられるようですが、今の私はあなたほどの能力を発揮することはできません」
「そうなのですか?」
「ええ。今しがた披露したこの能力も、ヴェルデュ達から力を借りているに過ぎません。言ってしまえば、この私にできることなど、いま見せた能力が全て。あなたたちが本気で私を仕留めに来たら、私はなす術もなく倒されてしまうでしょう」
「なるほど。つまり私たちは、もう何の遠慮もなく全力であなたを狩っていいということですね? わざわざ教えてくれてありがとうございます」
「お気になさらず。そのためにこちらには用心棒がいるのですから」
レオネ祭司長がそう告げると、いきなり近くの低いビルが倒壊。こちら側とは反対側の方から強烈な力をぶつけられ、粉砕されたように崩された。
そして、その倒壊したビルの向こうから、緑色の四つん這いの巨人が出現。ロストエデン第五形態だ。