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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1521話 独りよがりな恋心

 エドゥが日向を追い詰めてしまった。

 他の仲間の多くは、急に現れたムカデのヴェルデュの対処を強いられている。


 エドゥは日向のエネルギーを吸収し、よりパワーアップするつもりだ。

 日向も黙ってエドゥに体力を差し出すつもりはない。『太陽の牙』を構え、斬りかかる。


「はっ!」


「遅ぇよ雑魚ガ!」


 エドゥは右腕の鞭のようなツタを一閃し、『太陽の牙』を振りかぶっていた日向の腕を打ち据えた。バチィッ、と強烈な音が響き、日向は剣を取り落としてしまう。


「うっぐ……!?」


「安心しロ! お前らの力で、俺はさらに強くなル! この街モ! この星モ! 俺が全部守ってやるからよォ!」


「くそ、こういう、自分を正義だと信じている狂人ほど厄介な奴はいないよな……!」


 丸腰になってしまった日向に、エドゥはツタを伸ばそうとする。


 そのエドゥの横から、北園が滑空して接近。

 エドゥの顔に右手を当てて、その右の手のひらから火炎を発射。


「えいっ!」


 ゼロ距離からの爆炎がエドゥの顔面に叩きつけられた。

 エドゥは爆炎に包まれながら吹っ飛ばされる。


 北園に助けられた日向だが、今の北園らしからぬえげつない攻撃を見て、少し目を丸くして驚いている様子だった。


「け、けっこう容赦ないね北園さん……」


「日向くんに手を出そうとする人は、許さないもん」


 その一方でエドゥは、今のヴェルデュは火炎にも高い耐性を持っているためか、北園の炎はあまり効いていないようだった。むしろ吹っ飛ばされたことで視界を大きく揺らされた方が効いたのか、気だるそうに左手で目を押さえている。


「くク……。相変わらず良い女だなキタゾノ。自分が信じた男をどこまでも信じる、理想の女ダ」


「ありがと。今のエドゥくんに言われても、あまり嬉しくないけどね」


「なぁキタゾノ。今からでもこっち側に来ねぇカ? 一目惚れなんダ。お前が欲しいんだヨ……」


「絶対やだ。私は日向くんがいいの。それに私、家族を大事にしない人って嫌いだから」


「ああ……俺のファミリーのことカ? アレは仕方ないだロ。俺が今までどれだけ頑張ってきたかも知らないくせに、アイツらは俺のことを信じられないとか言いやがっタ。それでもこの街を守るには、皆の力が必要ダ。だから、その力を借りたのサ。俺は皆の力を一つにまとめて、この街を守らなきゃならねぇかラ……」


「噓つき。守りたいんじゃなくて、支配者になりたいだけじゃないの?」


「……あァ?」


 まさか北園からそんな言葉をかけられるとは思わなかったのか、エドゥが明らかに動揺している。ただし、その動揺は、困惑と一緒に怒りも混じった、爆弾のような危うさを感じるものだ。


 日向もまた、北園がここまでエドゥに言い返すのが意外に感じ、彼女の様子を見ている。


 そんな二人の視線を受けながら、北園は話を続けた。


「今のエドゥくん、すごく力に執着してるよね。他人のエネルギーを吸収してパワーアップする能力まで身に着けて。それってどうして? この街をロストエデンから守るため? たぶん違うよね。私たちには特別な能力があって、エドゥくんには無かった。それが悔しかったんでしょ」


「…………。」


「それに、あなたのファミリーからこんな話も聞いたよ。『ここ最近、エドゥは自分のことをこの世の王だって思ってる』とか『最近のエドゥはファミリーの皆に働かせてばかりで、自分はすごく怠けてる』とか。私たちがこの街に来て、エドゥくんがつまらなそうな顔をしてたのって、私たちがエドゥくんの人気を奪うからって思ったからなんでしょ? この街での自分の権力が奪われるって思ったからでしょ?」


「…………。」

 

「エドゥくんは上流階級の人たちを恨んでたみたいだけど、結局エドゥくんがなりたかったのは、その上流階級だったんでしょ? そうやって力を求めるのも、私たちより強い力を手に入れて、ついでに自分に従わない人を黙らせて、この街の支配者に返り咲きたいから……そうなんでしょ?」


 ここまでエドゥは、北園の言葉を黙って聞いていた。

 しかしここで、ようやくエドゥが口を開く。

 ただならぬ雰囲気と共に。


「……結局、お前も、俺のことを分かっちゃくれねぇのカ。夢中になってる男のこと以外は、何も見えてねぇバカ女だったってことかヨ!」


 そう言ってエドゥは、右手のツタを北園に伸ばしてきた。

 その勢いはかなりのもので、彼女の後ろの日向も巻き込みかねないほど。


 北園はドーム状のバリアーを展開し、エドゥのツタを受け止め、後ろにいる日向も守った。

 ツタはお構いなしに北園のバリアーに巻き付くが、この程度のパワーで彼女のバリアーは破壊されはしない。


 ところが。

 バリアーを維持する北園の表情が、徐々に苦いものになっていく。


「これは……バリアーを維持するエネルギーが抜けていく……!? あのツタが、バリアーそのもののエネルギーを吸い取ってるの……!?」


 北園のバリアーは徐々に薄くなっていき、やがて消滅してしまった。

 その瞬間にエドゥが北園に接近し、彼女を回し蹴りで吹っ飛ばした。


「あぁァ!!」


「きゃあっ!?」


 蹴り飛ばされてしまった北園は、蹴られた腹部を手で押さえながら悶絶していた。恐らくは今の蹴りも、人を超越したパワーで繰り出されたもの。それを彼女はまともに受けてしまったのだ。


 そして、北園が蹴り飛ばされたのを見た日向は、一瞬で強烈な怒りの表情に。

 その怒りの感情のまま、彼は『太陽の牙』に業火を灯す。


「お前……!! 太陽の牙、”点火(イグニッション)”!!」


 エドゥは日向に背中を向けている。

 その背中に、日向は一切の容赦なく斬りかかった。


「おぉぉっ!!」


「”貫く緑棘(ペネトナシオ)”ッ!!」


 エドゥは日向の方を振り向かないまま、全身から生えた触手を動かし、ドリルのように回転させながら日向めがけて突き出させた。


 襲い来る十本ほどのツタに正面から突っ込んでしまった日向。

 その身体に、杭のように太くて鋭いツタが七本ほど突き刺さってしまう。


「あ……ぐぁ……」


「落ち着けヨ。お前のことも忘れちゃいねェ。ちゃんとそのエネルギーは回収してやるサ」


 串刺しにした日向に、エドゥは勝ち誇ったようにそう声をかけた。


 だがしかし。

 ツタが突き刺さった日向の傷口から、異常な火力の炎が噴き出す。


「再生の炎……”復讐火(リベンジェンス)”!!」


 傷口から噴き出した炎が、エドゥのツタを全て灰にした。

 そうして動けるようになった日向は、イグニッション状態の『太陽の牙』を手に、改めてエドゥとの間合いを詰める。


「なぁッ!? お前、なんだその火力……!?」


「真っ二つに、燃え尽きろっ!!」


 叫び、日向は『太陽の牙』を袈裟斬りに振り下ろした。

 とっさに左腕でガードしようとするエドゥ。


 しかし、そんなガードは、日向の火力の前には無力である。

 灼熱の刀身がエドゥの左腕に食い込み、そのまま切断した。


「がぁァぁァぁッ!?」


 吹っ飛び、背中から床に叩きつけられたエドゥ。

 しかしまだ息絶えてはおらず、すぐさま後転受け身を取って立ち上がる。


 立ち上がったが、肘から先が無くなり、傷口から炎が登ってきている自分の左腕を見て、エドゥは再び絶叫した。


「あ……はァぁ……くああぁぁああアアッ!?」


 するとエドゥは、この政府市庁舎のドアに向かって一目散にダッシュ。そのままドアを破壊し、外へと逃げてしまった。


「あ……逃げた!」


 追いかけようとする日向。

 しかしエドゥのスピードは相当なもので、常人並みの速度でしか走れない日向ではとても追いつけない。


 それよりも、北園をはじめとした負傷者の手当てと、エドゥの暴走によって散り散りに逃げ出してしまった生存者たちを集めるのが最優先と判断して、エドゥは追わないことにした。


 他の仲間たちもちょうど、このエントランスに現れた四体のムカデ型ヴェルデュを討伐し終えたところだった。

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