第1520話 暴食の化身
暴走し、生存者にも攻撃を仕掛け始めたエドゥを止めるため、戦闘を繰り広げる日向たち。
エドゥは全身から生えた触手のようなツタを突き刺し、対象の血液や生命エネルギーを奪う能力を獲得しているようだ。しかも、少し触れられただけでも相当な体力を持っていかれてしまう。
日向たちは九人がかりでエドゥと戦っているが、このエドゥの能力は下手をすれば格上が相手でも仕留めてしまうポテンシャルがある。エドゥの手の内がある程度まで判明するまで、日向たちは下手に攻勢に出ることができない。
ミオンがエドゥに接近を試みる。
エドゥは全身のツタを動かし、彼女を迎え撃つ体勢。
「お前はミオンとか言ったナ! お前が一番ヤバいってのは知ってるんだゼ!」
エドゥは全身のツタで、ミオンに向かって凄まじい速度の刺突を連続で繰り出す。まるでマシンガンの連射だ。まともに喰らえばミオンはたちまちハチの巣にされてしまうだろう。
いや、ハチの巣以前に、このエドゥのツタで身体を抉られたら、その瞬間に体力を吸収されてしまう。かすり傷を負うことすら許されないのだ。
「一番警戒してくれるなんて、光栄ね~」
しかしミオンは、これを正面から突破する。
両手だけでなく両肘も使って、襲い来るツタをいなしていく。
上半身の動きも組み合わせて、次々とツタを回避する。
十本ほどのツタでラッシュを繰り出すエドゥだが、ミオンはかすり傷の一つも負わず、自分からエドゥとの距離を詰めていく。まさに神業だ。相手が自身の五倍ほどの手数を持っていても、ものともしない。
やがてミオンは、エドゥとの間合いを完全に詰め切った。
その瞬間、右の拳で下突きを繰り出し、エドゥのみぞおちを殴り飛ばした。
「はっ!!」
「ごはぁァ!?」
吹っ飛ばされるエドゥ。
だが、吹っ飛ばされながらもツタを伸ばし、ミオンに反撃を仕掛けてきた。
ミオンはすぐさま後ろへ下がり、エドゥのツタを回避。
追撃のチャンスだったが、これ以上の深追いはせず、いったんエドゥの様子を見る。
「私であっても、彼の吸収攻撃を受けたら、一瞬で体力を持っていかれちゃうでしょうね。うかつには攻め込めないわ」
ミオンは”拳の黄金律”まで乗せてエドゥを殴りつけたが、彼はまだ健在だ。彼の身体を覆っている、飛空艇の爆撃にも耐えるようになったヴェルデュのツタが、ミオンの拳の威力を軽減させたのだ。
「クソ、痛ェ……!」
今度はシャオランが攻撃を仕掛ける。
ミオンがエドゥに追撃しなかったのを見て、せっかくのチャンスがもったいないと感じたようだ。
「師匠が行かないなら、ボクが代わりに!」
「シャオランくん! あまり踏み込みすぎないで! 直感だけど、嫌な予感がするのよ~!」
そのミオンの忠告を聞き届けたか、それとも最初からそうするつもりだったのか、シャオランは”空の気質”の領域を展開。得意の空の練気法”無間”で、エドゥを遠距離から殴り飛ばすつもりだ。
しかしエドゥは、シャオランの行動を読んでいた。
「何度も同じ手を食うかァ!」
エドゥは右腕のツタをシャオランに伸ばした。
ツタは触手のようにシャオランに巻き付き、彼を捕まえてしまう。
このままでは、巻き付いたツタに突き刺され、エドゥに体力を奪われてしまう。
シャオランは地の練気法”大金剛”を使用し、全身の筋肉を硬化させて対抗する。
「キミの体力吸収は、ツタを相手に突き刺さないと発揮できない。そもそもツタを刺さらせなければ吸収なんかできないでしょ……!」
「知ってんだよォ! そんな弱点なんかなァ!」
「え……!?」
そう言うとエドゥは、シャオランを捕まえていた右腕のツタを思いっきり引っ張った。それによってシャオランも、身体が宙に浮く勢いでエドゥのもとへ引き寄せられる。
「わっ!?」
「喰らいやがレ! ”貫く緑棘”ッ!!」
エドゥは、身体中から生えている触手のようなツタを、雑巾のように力強く引き絞る。そして、その引き絞った力を解放しながら、シャオランめがけて全てのツタを突き出した。
繰り出されたエドゥのツタは、まさに削岩機。
螺旋の回転が空気を貫きながら、シャオランに迫りくる。
シャオランは先ほどエドゥに引っ張られ、まだ身体が宙に浮いている状態だ。”大金剛”を使っている状態とはいえ、このままではエドゥが繰り出したツタに正面から突っ込んでしまう。しかし逃げようにも、エドゥのツタはまだシャオランに絡みついたまま。
そして、エドゥのツタがシャオランに命中。
ツタの先端は、鋼のように硬化しているはずのシャオランの身体に、浅くではあるが突き刺さった。
「うぐっ……!?」
マズった。
体力を吸い取られる。
シャオランがそう思った、その瞬間。
エヴァがエドゥに接近し、”地震”の震動エネルギーを込めた杖で、彼を殴り飛ばした。
「”ティアマットの鳴動”!!」
「がはぁッ!?」
強烈な攻撃を受けて、エドゥは派手に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。
エヴァの攻撃の衝撃によって、シャオランの身体からエドゥのツタが引き抜かれ、解放される。
「シャオラン、大丈夫ですか?」
「な、なんとか……と言いたいところだけど、あの一瞬でしっかり体力は持っていかれちゃったみたい……。少しすれば復帰できると思うけど、ちょっと休ませて……」
そう言ってシャオランは膝をついてしまった。
想像以上に強力なエドゥの吸収攻撃に、エヴァも舌を巻く。
「あの一瞬で、シャオランに膝をつかせるほどの体力を奪ったとは……。まるで全てを喰らい尽くそうとする暴食の化身ですね……」
その一方で、エドゥはまだ健在だった。
今では岩山すら一撃で崩落させる、エヴァの震動を受けていながらも。
あらかじめシャオランから体力を奪っていたことで、彼女の攻撃に耐える余裕ができていたか。
「痛ぇ……ああ痛ぇェ!! クソッ! まだ力が足りねェ! コイツら全員ぶっ殺すには、こんなモンじゃまだ足りねェ!!」
そう言いながら、エドゥは何やら周囲をキョロキョロと見回し始める。何かを探しているような様子だ。
それを見た日向は、エドゥの意図を察する。
「あいつまさか、また生存者を襲って食うつもりか……!」
その日向の予想は正解だったようだ。
エドゥは日向たちがいない方向……生存者が逃げた通路へ向かおうとする。
本堂やミオン、ジャックやコーネリアスもまた、日向と同じくエドゥの次なる行動を察したようだ。生存者たちのもとへ行かせないよう、エドゥの進路をふさぐように立ちはだかる。
ところが。
「引っ掛かったなァ!!」
エドゥは、道を塞いだ四人がいる方向へ走りながら、そのスピードと体勢を完全に維持したまま左へ跳躍。その先にいた日向に強烈なタックルを喰らわせた。
「はぁァ!!」
「うわっ、こっち!? うぐぅぅっ!?」
日向が壁際まで吹き飛ばされてしまった。
今のエドゥの方向転換にまったく反応できず、ジャックや本堂は目を丸くしていた。
「アイツ、あのスピードと体勢のまま、いきなり跳びやがった!? 予備動作がまったく無かったぜ!?」
「ああ。俺でも反応が遅れるほどいきなりだった……」
「足で踏み込む代わりに、全身から生えている触手で跳躍したのよ! だからエドゥくん自身の身体は、方向転換のための予備動作を取る必要がなかったんだわ!」
「エドゥの足を狙撃シ、ヒュウガを援護すル」
コーネリアスがエドゥの足へ対物ライフルの銃口を向け、他の仲間たちも日向を助けるため、エドゥを追おうとする。
しかしその時、彼らの目の前の床が急に下から盛り上がり、このエントランスの天井まで届きそうな長さのムカデ型ヴェルデュが姿を現した。数は四体。
「ギャギャギャアアアア!!」
「うお!? コイツら、ムカデのヴェルデュか!?」
「連中の身体が邪魔デ、エドゥを狙えン……!」
「物理的に通り抜けることも難しそうだ。全く、このタイミングで……!」
「文句を言っても彼らはどいてくれないわ。一刻も早く倒すわよ! エヴァちゃんも手伝って! 日影くんも、そろそろ体力回復したでしょう!?」
「分かりました……!」
「ああ、いけるぜ」
まるで壁のように立ちふさがったムカデのヴェルデュを排除にかかる六人。
しかしその間に、エドゥは日向を壁際まで追い詰めてしまっていた。
背後の壁に逃げ道を断たれている日向に、エドゥが言葉をかけてきた。
「まずはお前からダ。お前のその無尽蔵の生命力が枯れ果てるまで生命力を吸収してやル。その吸収した生命力で俺はさらなるパワーアップを果たし、その次にお前の仲間たちを始末すル。完璧なプランだロ?」
「くっ……!」