第1519話 エドゥの暴走
生存者たちに日向たちを攻撃させようと扇動したエドゥ。
しかし生存者たちは、エドゥではなく、日向たちを指示した。
何人かのエドゥのファミリーが、口々にエドゥに意見する。
『確かに彼らは、最終的に俺たちの楽園を終わらせるつもりだったんだろう。けどそれは、この星を守るために避けては通れない道だったんだろ? だったら仕方ないさ。この星が滅んだら元も子もないからな』
『それに、ヴェルデュが凶暴化して、食料の調達が難しくなった時、食べ物も分けてくれた。俺たちを守るため、最前線でヴェルデュと戦ってくれた。それは事実だ。彼らは俺たちを滅ぼしたいんじゃなくて、この星を守るために、結果的に俺たちの楽園を奪わなきゃいけなかっただけだ』
『ここ最近じゃ、お前より、こいつらの方がよっぽど、俺たちを守るために働いてくれたしなぁ』
『だいたいエドゥよぉ。お前、この戦いでさ、わざと俺たちを攻撃して、ヒュウガたちの注意を逸らそうとしてただろ。そんなことするリーダーにはついていけねぇよ』
もう完全に、エドゥはアウェイだった。
唖然とした表情で、自分が信じていたファミリーを見つめている。
しかし同時に。
彼の瞳は、どす黒い闇を宿し始めていた。
『は……? はぁ? は? は? ……は?』
「……今だッ!」
エドゥが茫然自失としている隙に、日影がエドゥに接近。
本堂もまたエドゥとの距離を詰め、二人がそれぞれの刃を振るう。
日影と本堂の攻撃によって、エドゥの触手が切断される。
その触手が装備していたガトリング砲とミサイルランチャー、そして火炎放射器も床に落下した。
だが、エドゥは二人の攻撃にまったく反応していない。
自分を拒絶したファミリーの皆を見つめ続けている。
「な、なんだ? アイツ、自分が何されたのか全然気づいてねぇのか……?」
「……嫌な予感がするな」
するとエドゥは、これまでで最も速いスピードで、自分に意見したファミリーたちの目前まで詰め寄った。
『お前か? 今、ふざけたことを抜かしやがったのは』
『ひっ!? え、エドゥ!? ちょっと待て、落ち着けって! だって、何も間違ったことは言ってな――』
うろたえるファミリーの若者を、エドゥは身体から生えている触手のようなツタで突き刺した。その若者だけでなく、彼の周囲にいたファミリーや、ファミリーとは無関係の生存者数人までも。
『ぎゃあああ!? え、エドゥ……待って……』
『あぁぁぁ!? い、痛いぃぃぃ!?』
『あ、が、だ、誰か、助けて……』
ツタで突き刺された人々が、みるみるうちにミイラのように干からびていく。身体の養分を急速に吸い取られているようだ。
そしてエドゥがツタを引き抜くと、糸が切れた操り人形のように、干からびた人々は床に倒れた。
驚愕。焦燥。恐怖。
先ほどまで日向たちを支持してくれていた生存者たちは、顔を真っ青にしながらエドゥの所業を見ていた。
自分に賛同しなかったファミリーを黙らせたエドゥは、他の生存者たちの方をゆっくりと振り向く。
『まだ……いたよな? 俺を裏切ったヤツら……』
『ひっ、ひぃぃぃ!?』
『に、逃げろ! 逃げろぉぉ!!』
生存者たちはパニックになり、我先にとその場から逃げ出した。
その生存者の一人にエドゥは一瞬で追いつき、左手で押さえつけ、触手状のツタを突き刺し、干からびさせた。
ここで、ジャックが日向に声をかける。
「ヒュウガ! もう手加減なしでアイツ殺すぞ! 完全にイカれやがった!」
「ああ! 自分で助けるって言っておいて、その助けるはずの生存者を手にかけた。もう一切の容赦も必要ない!」
ジャックがデザートイーグルでエドゥを射撃して、怯ませたところへ日向が斬りかかる。
そういう動きをするはずだったのだが、エドゥは全身から生えた触手状のツタでジャックの弾丸を叩き落とした。そして自身は万全の体勢で日向を迎え撃つ。
後には引けない。
エドゥを怯ませることには失敗したが、そのまま日向は斬撃を仕掛ける。
しかし、エドゥは左の拳で思いっきり日向を殴りつけ、吹っ飛ばしてしまった。
「らァッ!!」
「うぐぅっ!?」
床に叩きつけられ、バウンドするほどの衝撃。
先ほどよりも明らかにエドゥのパワーが向上している。
「くぅ……! 生存者からエネルギーを吸い取ってパワーアップしたのか……!?」
「仕方ねぇだロ……。俺はアイツらのためにあんなに頑張ったのに、裏切ったアイツらが悪いんダ……。俺に協力してくれないなら、そのエネルギーだけ借りるって形でも、協力してもらわなきゃなァ……。このチカラで街に平和を取り戻せれば、アイツらだって浮かばれるだろうよォ……」
うわごとをつぶやくように言葉を発しながらも、エドゥは戦闘態勢を解いていない。生存者たちが逃げた廊下の方を見て、そちらへ向かって猛ダッシュ。
その道の途中に、本堂が立ちふさがった。
エドゥは本堂を突破するため飛び掛かる。
「どきやがれッ!」
「断る。喰らえ、”轟雷砲”……!!」
まっすぐ飛び掛かってきたエドゥに、本堂は自身の右拳を向ける。
すでにエドゥは本堂に向かって跳躍しており、身体は宙に浮いている。今さら跳躍の軌道を変えることはできず、本堂の”轟雷砲”に正面から突っ込むしかない。
そう思われたのだが、エドゥは全身から生えたツタを真下へ伸ばし、床に突き刺した。その床に突き刺したツタで自身の身体を引っ張り、急降下。
その結果、本堂が放った”轟雷砲”は、その下をくぐられる形でエドゥに回避されてしまった。電撃はエドゥの真上を通過し、その先の壁に大穴を開ける。
「しまった……!」
本堂とエドゥの間合いは至近距離。
着地したばかりで低い体勢をしているエドゥは、その体勢のまま足払いを繰り出し、本堂を転倒させた。
エドゥが素早く立ち上がり、倒れている本堂めがけて触手状のツタを突き刺しにかかる。
「死ねぇェ!!」
本堂はすぐさま体勢を立て直し、その場から飛び退く。
先ほどまで本堂が倒れていた場所に、エドゥのツタが槍の雨のように次々と突き刺さった。
本堂に攻撃した隙を突いて、日影がエドゥの右から接近。『太陽の牙』を右から左へ思いっきり振り抜く。
「おるぁぁッ!!」
エドゥの首を狙った、情け容赦ない一撃。
しかしエドゥは大きく身体を後ろへ反らし、日影の斬撃を避けた。
エドゥは身体を反らした体勢のまま、身体から生えたツタを動かし、目の前の日影めがけて突き刺しにかかる。
普通なら、後ろへ下がって避けるのだろう。
だが日影は、逆に自分からエドゥへ突撃し、”オーバードライヴ”の炎に包まれた状態で彼にタックルを喰らわせ、突き飛ばした。
「るぁッ!!」
「ぐッ……!」
至近距離から大砲の砲弾を撃ち込まれたような衝撃。
エドゥは吹っ飛ばされたが、身体から生えたツタを床に突き刺してブレーキをかける。
すぐさまエドゥに追い打ちを仕掛けようとする日影。
しかし、接近するために右足を踏み出した瞬間、力が抜けたように日影は床に崩れ落ちてしまった。
「ぐ……!? 一瞬、身体に力が入らなかった……! さっきタックルを喰らわせた時、エドゥがカウンターでツタを突き刺してきたが、その時に体力を吸い取られたのか……。あの一瞬で相当な量を奪われちまった……!」
その一方で、日影が追撃してこないと見るや否や、エドゥは鞭のように長く太いツタが生えた右腕を振りかぶり、日影めがけて叩きつけてきた。
「はぁァ!!」
「ちッ!」
日影も後ろへ飛んで、エドゥのツタを回避。
叩きつけられたツタは、その場所に鉄骨でも落下してきたのかと思うほどに、派手な音を立てて床を粉砕してしまった。先ほどよりもさらにパワーが増している。
日影のエネルギーを吸収して、エドゥはさらにパワーアップしたようだ。
床を粉砕した右腕のツタを引き戻し、エドゥはニヤリと笑みを浮かべながらつぶやいた。
「ははは……良い能力だナ……! お前らに対抗できる能力があれば、俺はお前らなんかに負けねぇんだよォ!!」