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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1517話 お前らが来たから

 少し前。

 レイカに斬られて、意識朦朧(もうろう)となっていたエドゥ。


 彼は現在、北館エントランス近くの個室のソファーに横たえられていた。付近には彼のファミリーが三人ほどいて、万が一のヴェルデュの襲撃に備えてエドゥを守っている。


 レイカに胴体を深く切り裂かれ、右手も手首から斬り飛ばされてしまい、大量出血してしまったエドゥ。北園とエヴァの能力によってすでに傷は塞がれているが、血液を失ったことで消耗した体力はまだ戻らない。


 彼はほとんど意識を失っていたが、夢を見るように思考を回していた。


(生きていれば、いつか必ず逆転のチャンスは来る……。こんなところで死ねるか……。チャンスを……チャンスを待つんだ……)


 意地とプライドでひたすら思考を回し、その意識が()()()()()()へ引っ張られないように、エドゥは己を保っている。


 しかし、思考を回し続ければ、疲れもする。

 疲れたら、思考はネガティブな方へと流れていく。


 エドゥの近くのソファーには、テオも寝かされていた。

 テオはもう、息をしていなかった。


(どうして……こうなった……)


 多くのファミリーを失い、テオまで失った現状に対して、エドゥは己に問いかける。


 なぜ、こんなことになったか。


 緑化現象という、いつ崩れるかも分からない平和の上であぐらをかき続けていた結果なのか。

 ヴェルデュやロストエデンという存在について、もっと早くから自分たちで対策を練っておくべきだったのか。


 ()()()()()()()()()


 全ては、彼らが来たからだ。

 彼らが来たから、この街の平和は崩れ去った。


 ヴェルデュが凶暴化したのも、ロストエデンがパワーアップしたのも、彼らがこの街に来て、余計なことをしたからではないか。


 自分が斬られたのも、テオが死んだのも、彼らが連れてきたあの女が裏切ったからだ。


 彼らさえいなかったら。

 彼らが来なければ、今回の全ての惨劇は起こらなかったはずだ。


(アイツらさえ来なければ、俺たちはこれからも平和に生きることができたはずだったんだ。アイツらが来るまでは、ヴェルデュは弱かったし、ロストエデンなんて知らなくても何も問題はなかった)


 もう、彼らには好きにさせない。

 もちろん、事態がここまで来てしまったからには、ヴェルデュとロストエデンも同様に放ってはおけない。


(ヴェルデュも、アイツらも、ロストエデンも、俺が全部片付ける。これ以上この街がメチャクチャにされる前に、この街を(むしば)む全てを排除する。そして、俺たちの街を、俺たちの手に取り戻す……!)


 そのためには、チカラが必要だ。

 自分に敵対する全てをひねり潰す、強大な力が。


 エドゥが力を強く求めた、その瞬間。

 肉を突き破る音と共に、彼の右腕から太い植物のツタが生えてきた。


(こ、コイツは、まさか……!)


 一瞬、ギョッとした表情を見せたエドゥ。

 しかし、己の中で湧き上がってくる力を感じ、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。


(これだ……。このチカラがあれば、もう誰にも勝手な真似はさせやしねぇ……!)



◆     ◆     ◆



 そして、現在。


 転がり込んできたエドゥアルド・ファミリーの構成員の報告を受けて、日向たちは北館エントランスへ移動。


 そこでは、なんとシャオランとミオンが、エドゥと戦闘を繰り広げていた。


「シャオラン! ミオンさん! エドゥ! これはいったい何の騒ぎだ!?」


 三人に呼び掛ける日向。

 シャオランはエドゥに向かって油断なく構えながら、日向に返答。


「エドゥを見てよヒューガ! あいつ、ヴェルデュになっちゃったんだよ!」


 シャオランの言うとおり、エドゥは全身が植物のツタに巻かれたヴェルデュになっていた。ツタにはヤドリギの花のような、極小の黄緑色の花弁がいくつも咲いている。


 ヴェルデュ化したエドゥは、身体のあちこちから太い触手のようなツタが生えている。そのツタでガトリング砲や火炎放射器、ミサイルランチャーを持ち上げ、重武装していた。


 斬り飛ばされた右手は、ツタが絡み合うように新しい右手が形成されている。さらに右腕からは鞭のように長いツタも何本か生えており、そのツタで三丁のアサルトライフルを装備。


 もはや文句のつけようがないほど、エドゥは異形と化していた。

 そして彼は、日向たちを見つけると、歪んだ笑みを浮かべて声をかけてきた。


「よぉぉォ! 誰かと思えばヒュウガ・クサカベ御一行様じゃねぇカ!」


「エドゥ! お前、どうしちゃったんだその恰好は!」


「ははハ! どうやら俺もなっちまったらしイ! クソッたれのヴェルデュになァ! けど正直、このチカラはいいぜ、すごく良イ! 俺がやりたかったことが全部できそうだァ!」


 そう言うとエドゥは、装備しているアサルトライフルやガトリング砲、ミサイルランチャーに火炎放射器を全て一斉に発射し始めた。目の前にいる日向たちを狙ったものではなく、己の力を誇示するかのような無差別乱射だ。


 エドゥの射撃は日向たちを狙ってはいないが、あまりにも大量の銃器を一斉射撃するので、その流れ弾の多くが日向たちに襲い掛かる。


 北園が前に出て、バリアーを展開。

 エドゥが放った弾丸を防いでくれた。


「バリアーっ!」


 さらに、エドゥが放った一発のミサイルが、北園のバリアーを飛び越えて、ねじれるような軌道を描きながら、生存者の一団が退避しているスペースへ飛来。急なミサイルの接近に、生存者たちが悲鳴を上げた。


 そこへミオンが駆けつけて、飛んできたミサイル本体を下から蹴り上げた。


「やっ!」


 蹴り上げられたミサイルは、そのまま天井へ飛んでいき、激突して爆発。天井の一部が崩れ落ちてきたが、真下にいるミオンには当たらない軌道だ。ミオンもその場から動かず、落ちてきた岩をやり過ごす。


 ミオンほどの達人がエドゥを仕留めきれていなかったのは、仮にも仲間だった彼を殺していいのかという迷いと、こうやってエドゥの無差別攻撃から生存者を守っていたためだろう。


 やがて一斉射撃を終えたエドゥは、急に静かな口調で語り始める。


「……最初から、こうすりゃよかったんダ」


「こうすれば……っていうのは?」


「ヴェルデュの力は、上手く使えば俺たちの助けになることが、こうして証明されタ。お前たちの言うことなんか聞かず、ヴェルデュやロストエデンと共存して生きていく道もあったはずダ……」


「それは違うぞエドゥ。ロストエデンは『星殺し』なんだ。共存なんて道は絶対にありえない。お前がそうやってヴェルデュ化して力を与えられたのだって、きっとロストエデンがこの星を滅ぼすための策略……」


「うるせぇ……ああうるせェ!! そう言ってお前らがこの街に、俺たちにもたらしたのはなんダ! 破滅ばかりじゃねぇカ! お前らが来て、大勢が死んダ! それなりに平和だったこの街は、もう明日まで生きるのも難しい地獄になっタ!」


 叫びながら、エドゥは全武装を日向たちへ向けた。

 煮えたぎるような怒りの表情を見せつつ、エドゥは話を続ける。


「もともと、お前らはそのつもりだったんだロ。この星の平和とやらを取り戻すため、俺たちの楽園をぶち壊ス。最初からそのつもりだったはずダ。ここまでの地獄を見せられるとは思ってなかったけどナ」


「それは、こっちも同じだ! こんな事態にするつもりはなかった! たしかに、緑化現象で作られたお前らの楽園は失ってもらうつもりだった。けど、こんな滅びをもたらすつもりじゃ……!」


「もういイ。御託(ごたく)はたくさんダ。お前らじゃこの街は救えなかっタ。お前らが救えないなら、俺が皆を救うしかなイ。まずは、この街で余計なことばかりしやがって事態を悪化させてきたお前らを排除すル。それからヴェルデュどもを一掃するにせよ、共存を目指すにせよ、まずはお前らを片付けないと始まらねェ!」


「よせエドゥ! 俺たちはここで争ってる場合じゃ……」


「死ね、よそ者。もうこれ以上、俺の街とファミリーに手を出すナ……!」


 そう告げて、エドゥは日向たちに襲い掛かってきた。

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