第1513話 緑に呑まれた少女剣士
ヴェルデュとなったレイカとの戦闘を開始した日向、日影、本堂、ジャックの四人。
レイカもまた高周波ブレードを構え、四人の出方を窺っている。
先に動いたのはレイカ。
急に四人に背中を向けると……。
「私との戦いが始まるって言いましたね? あれは嘘です!」
そう言って、背後の窓に向かってダッシュ。
窓ガラスを破壊し、外へと飛び出した。
「あ、逃げた!」
「クソが! 追いかけるぞ! 死んでも逃がすな!」
「彼女、あんなに嘘をつく人間だっただろうか。これもヴェルデュ化の影響か」
「さっきの口ぶりだと、まだヴェルデュやロストエデンについて情報を持ってそうだ。捕まえて洗いざらい吐かせてやる!」
日向たちもまたレイカを追いかけ、窓から飛び出る。
ここは二階だったが、日影もジャックも、そして日向も、しっかり五点受け身を使って着地。本堂は素の脚力で着地の衝撃に耐えた。
一方、レイカは義足による自慢の脚力で、すでに日向たちからかなり離れている。さらに、街中の複雑な構造の裏通りに逃げ込んだ。ここで自分を見失わせ、四人を完璧に撒くつもりだ。
「いくら今の私でも、あの四人を同時に相手取って勝利するというのは非常に難しいです。ここはいったん退くとしましょう。それに、彼らが私を追いかけるのに夢中になって、それぞれ孤立してくれたらしめたもの。物陰から忍び寄って、一人ずつひとりずつ……」
しかし、追いかけっこに関しては、向こうが一枚上手だったようだ。
周囲の建物の屋根と屋根を飛び越えながら、本堂がレイカを追跡。
そしてレイカの道を塞ぐように、彼女の目の前へ飛び降りた。
「逃がさんぞ、レイカ」
「おっと、本堂さん。もう追いついてきたのですか。この裏通りで私を見失ってくれて、振り切れたと思ったのですが」
「こうも街が静かだと、お前一人の足音はよく響く。今の俺の聴力なら、それを辿って追跡が可能だ」
さらに、その本堂を追いかけて、日影が”オーバーヒート”で空からやって来た。レイカの背後に着陸し、本堂と挟み撃ちにする。
「さぁて追い詰めたぜ大量殺人犯さんよ。おとなしくお縄を頂戴しろって奴だぜ」
「私が推理小説の犯人役なら、この状況は敗北確定ですが、すでに探偵ごっこは終わっているのですよ。ここからは斬り合いのお時間です」
「いくら今のお前でも、一対二では厳しかろう」
「いいえ、二対二ですよ」
レイカがそう言うと、彼女の隣に例の新しいお友達……緑色のエネルギーで構成された少女が姿を現した。レイカと同じように刀状のエネルギーを構え、戦闘態勢をとっている。
そしてレイカたちは二人同時に動き出し、斬りかかった。
レイカは正面の本堂に。お友達は後方の日影に。
「ちッ! ”二重人格”の新しい能力とやらか!」
日影は”オーバードライヴ”を発動し、お友達の斬撃を受け止め、反撃の一太刀を放つ。
しかし、お友達はその反撃を凌ぎ、再び斬撃。
その斬撃も防いで、また日影が反撃。
それも凌ぎ、反撃。
それも防ぎ、斬撃。
「やりやがる! 剣術はレイカと同レベルと見てよさそうだな!」
斬撃と斬撃の激しい応酬。
お友達の戦闘能力は、”オーバードライヴ”を発動した日影といい勝負だ。
そしてこちらは本堂とレイカ。
レイカの初撃は、渾身の力で振り下ろした上段斬り。
確かにレイカも見た目によらず筋力はあるが、それでも人間の範疇に留まっている。今のマモノ化した本堂の腕力には、正面からでは絶対に勝てない。
なので本堂は両腕に刃を生やし、それを使ってレイカの上段斬りを正面からガード。彼女の攻撃を完全に受け止めた後、その隙を突くつもりだ。
ところが、本堂がレイカの斬撃をガードすると、大きな金属音と共に、彼の身体が後ろへと吹き飛ばされてしまった。
「くっ!? ミス・レイカの腕力が異常に向上している……!? そうか、ヴェルデュ化の影響か……!」
「その通りです、よっ!」
続いてレイカが本堂の首を狙って、左から右へ刀を振るう。
今度は本堂も全力で踏ん張り、右腕の刃でレイカの斬撃を防御。
刃と刃がぶつかり合う音。
そして同時に、金属が斬り裂かれるような耳障りな音。
レイカの刀身が、本堂の刃に食い込んでいる。
「流石は、鋼鉄をも切断する高周波ブレード。腕の骨を変質させた程度の俺の刃では、諸共斬り飛ばされかねん……!」
本堂はすぐさまレイカの刀を振り払う。
するとレイカは、振り払われた勢いで身体を回転させながら本堂から距離を取り、刀を左から右へ振り抜いた。
レイカの刀から”暴風”の異能による真空刃が放たれる。
本堂は左腕からも刃を生やし、この真空刃を斬り裂いて破壊した。
ここで、レイカの友達と刃を交えていた日影も、『太陽の牙』を振り抜いてレイカの友達を後退させた。
吹き飛ばされたレイカの友達は、本堂と交戦しているレイカの隣に並び立つ。挟み撃ちにされながら、レイカが本堂を、友達が日影を、それぞれ警戒する形に。
さらに、日向とジャックもこの戦場にやって来た。
本堂の後ろからやってきて、レイカと対峙する。
「や、やっと追いついた!」
「レイカ、悪いが容赦はしねーぞ? 地獄でマードックの説教を喰らってくるこった」
「うーん、やっぱり私とお友達の二人だけじゃ厳しいですね。あともう二人は人手が欲しいところでしょうか?」
レイカがそうつぶやくと、一瞬、彼女の全身に緑色のスパークが奔った。そして次の瞬間、彼女の身体から二人の緑色のエネルギー体が出現し、レイカの友達が三人になった。
「あら! 本当に友達が増えました! ふふ、これでますますにぎやかになりますね! もう寂しくなんかありません!」
「おいおい……友達はそういう増やし方するモンじゃねーぜ」
げんなりしながらツッコむジャック。
そんな彼の言葉もどこ吹く風で、レイカと三人の友達が一気に襲い掛かってきた。