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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1507話 音無き侵入

 日向と北園がレイカとやり取りを交わしたあたりから、三十分ほどが経過したころ。


 ここは政府市庁舎内のヴェルデュ研究室。

 医学、薬学、植物学などを(おさ)めた五人の学者が、ヴェルデュ化について調べている最中だ。


 彼らは現在、ここ最近にヴェルデュ化した生存者のデータと、先ほど飛空艇内でヴェルデュ化したエドゥアルド・ファミリーの構成員のデータを比較しているようだ。


 五人は顔を合わせ、母国の言葉で話し合っている。


『やはり……()()じゃないのか。ヴェルデュ化の原因は』


『しかし、()()と断定するには、まだ説明がつかない部分も……』


『だが説明がつく部分も多い。現状、思い当たる可能性としては一番高い』


『ただ、原因が()()となると、我々の能力でヴェルデュ化の治療薬を作るには、未知の部分が多すぎる……』


『時間と手間をかければ開発も不可能ではないかもしれんが、その両方が不足している。あの不思議な能力を使う、外国の子供たちに協力を仰げば、あるいはいけるだろうか?』


 ……と、その時だ。

 この研究室のドアが、コンコンとノックされる音がした。


 誰かが部屋に入ってきた。

 学者たちは、その人物を笑顔で招き入れた。


『ああ、君か。何の用かな?』



◆     ◆     ◆



 政府市庁舎の外では、まだ雨が降り続いている。

 ヴェルデュの襲撃は、いっそ不気味に感じるほど発生していない。


 この政府市庁舎は、四角い中庭を中心として、東西南北の四つの本館で囲んでいる構造となっている。生存者たちが集められているエントランスがあるのは北館だ。ヴェルデュ研究室があるのも北館の二階である。


 北館は、それぞれ東館と西館と直接行き来できる構造になっている。つまり、東館や西館に侵入したヴェルデュが、そのまま北館のエントランスに侵攻してくる可能性もあるということ。


 そのため、現在はエドゥアルド・ファミリーの構成員たち数人が、それぞれ東館と西館の見張りを担当している。彼らだけでは現在のヴェルデュにはまず勝てないので、ヴェルデュの接近を見たらすぐに日向たちに知らせるようエドゥから命じられている。


 この政府市庁舎に避難してから時間が経ち、最初こそパニックになっていた生存者たちも、だんだんと落ち着きを取り戻してきた。いや、騒いでも状況は好転しないと認識して諦めた、と言った方が正確かもしれない。


 そのため、日向たちのうちの何人かもまたエントランスを離れて、東館や西館でヴェルデュの姿を探している。見張りの目が増えればヴェルデュの発見も早くなり、早い段階で倒せれば生存者たちにヴェルデュの襲撃を悟らせず、余計な混乱を抑えることができる……という狙いだ。


 東館には日向と北園とミオン。西館には日影とシャオランとスピカ。

 生存者が集まる北館は、本堂とエヴァとARMOUREDが引き続き担当。


 東館の一室の窓から、外の様子を見ている日向と北園。

 現在時刻は午後二時くらい。外は相変わらずの雨。


「ヴェルデュ、いないね」


 北園が声をかけてきた。

 日向もうなずき、彼女に返事。


「いないな。いないに越したことはないけど、ロストエデンを倒すまで、あれだけ派手に襲撃してきたのに、それが今はピタリと()んでいる。なんか気味悪いよね」


 返事をしながら、日向はふと思う。

 北園が見た「日向が北園を『太陽の牙』で刺し殺す予知夢」について。


 少し前まで二人であれだけ警戒していた予知夢だが、今はこの通り、当たり前のように二人一緒に行動している。


 決して気を緩めているわけではない。

 日向は何度も北園から距離を取ろうとした。

 しかし、北園の方から日向に寄ってくるのだ。


(さっきのレイカさんの件といい、最近の北園さん、やたらと積極的になってる気がする。もうあの予知夢は実現しないものと思ってるのかな……)


 すでに予知夢は回避できた。

 そう考えるのは、さすがに都合が良すぎるだろう。


 なにせ日向は、あの予知夢が実現する条件……仲間同士で命を奪い合う展開が現実になる可能性を、先ほど目の当たりにしたばかりだ。ずばり、ヴェルデュ化である。


 日向は”再生の炎”があるので、恐らくヴェルデュ化はしない。

 ならば北園がヴェルデュ化して、それを日向が始末することになる。そういう展開ではないか。


「絶対に、そんなことにはさせない」


 心の中で、固く日向は誓う。


 この予知夢を確実に回避するためにも、やはりヴェルデュ化の原因は明らかにしなければならない。ヴェルデュ研究チームの学者たちが、何か良い答えを出してくれることを祈るばかりだ。


 それと、ここまで予想を立てたのであれば、北園にもこの予想を共有してもらうべきだろう。日向はさっそく北園に声をかけようとした……その時だった。


(日向くん! 北園ちゃん! ちょっといいかしら!?)


「この声は……ミオンさん?」


 日向と北園の頭の中で、ミオンの声が響いた。

 彼女もまた北園のように”精神感応(テレパシー)”の超能力が使える。

 北園よりは性能が悪いらしく、近くにいる人間にしか声を届けられないらしいが。


(大変なのよ! 私はいま一階にいるのだけど、エドゥアルド・ファミリーの子たちが二人、殺されてるわ!)


「何だって……!?」


「日向くん! 行ってみよう!」


 北園の言葉にうなずき、二人はミオンのもとへ。

 急いで向かったので、一分もかからずに二人は現場に到着。


 そこにはミオンと、恐らく彼女から連絡を受けてやって来たと思われるエドゥがいて、すでに物言わぬ死体となっている二人の構成員たちを調べていた。


「二人とも、来たのね」


「ミオンさん。それから、エドゥも……」


 日向の声に返事せず、エドゥは構成員の死体の前にひざまずき、冷たくなった二人を見つめていた。


「マテウス……ペドロ……くそっ、なんだってこんなことニ……!」


 悲しみに暮れるエドゥ。

 彼の邪魔にならないよう、日向も構成員たちの死体を見てみる。

 二人とも、胴体を一撃でバッサリと斬られたような傷を負っていた。


「ヴェルデュの侵入でしょうか?」


 日向がミオンに声をかける。

 彼女も真剣な表情をしながら、うなずいた。


「恐らくはね。そこの窓、開いてるでしょ。あそこから入って来たんだと思うわ」


 ミオンの言うとおり、確かにこの部屋の窓が一か所、開いている。外の雨が部屋の中に入ってきており、窓周辺の床が濡れていた。


「不覚だわ。この私ですらまったく侵入に気づかないなんて……」


「俺たちはここに来るまで、ヴェルデュの姿を見ていません。まだこの建物のどこかにいるのかも……」


「そう考えるべきでしょうね。北園ちゃん、すぐに他の皆に連絡して。ヴェルデュ研究チームの守りを固めてもらうために、北館にいる子たちに最優先でね」


「り、りょーかいです!」


 返事をして、北園は他の仲間たちに”精神感応(テレパシー)”で声を届ける。


 すると、程なくして、ARMOUREDのジャックから連絡が入った。


『こちらジャック。……やられた。ヴェルデュ研究チームがすでに血の海だ』

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