第1503話 飛び掛かる
日向に接近し、蹴り飛ばそうとするロストエデン。
そのロストエデンを迎え撃つべく、『太陽の牙』を振りかぶる日向。
もともと日向は”星殺閃光”でロストエデンを消し飛ばす予定だったが、この距離であれば”最大火力”でロストエデンを斬り裂き、その斬撃の余波で発せられる超熱で、中にいる極小の本体ごとロストエデンを消滅させることができるだろう。
「太陽の牙……”最大――」
……が、それよりも早く、ロストエデンのサッカーボールキックが日向を蹴り飛ばしてしまった。
「ぐぅぅっ!?」
全身が砕け散るような衝撃。
あまりの衝撃に脳内でアドレナリンが分泌されたか、吹っ飛ばされた日向の視界は、周囲の風景が異様にゆっくりと見えていた。
ゆえに、だろうか。
日向は冷静に、反撃のための思考を巡らせることができた。
日向が蹴り飛ばされた先には、高いビルの壁。
吹っ飛ばされながらも、日向はぐるりと体勢を整え、その壁面に着地。
ロストエデンが追ってきている。
日向は、全身に”再生の炎”を滾らせる。
「再生の炎……”復讐火”!!」
凶悪なまでの熱さを感じた。
それと同時に日向の傷が即時回復。身体能力が瞬間的に超強化。
日向はビルの壁面を蹴り出し、ライフル弾のように発射される。
ロストエデンは、まさか日向があのような受け身を取り、しかもこちらに向かって飛び掛かってくるとは思いもしなかったのだろう。日向の接近にまったく反応が間に合っていなかった。
瞬きほどの一瞬で、日向はロストエデンに肉薄。
その緑の胸板に『太陽の牙』を突き刺した。
「太陽の牙、”最大火力”ッ!!」
ロストエデンの胸板に突き立てた『太陽の牙』に長大な緋色の光刃が瞬時に生成され、それがまるでゼロ距離からレーザービームを撃ち込んだように、ロストエデンを内側から熱波で破裂させた。
”最大火力”が発生させた超熱は、ロストエデンを頭の先からつま先までかけらも残さず消滅させた。間違いなく、ロストエデン内部の本体が逃げる暇もなかったはずだ。
日向は四度目となるロストエデン討伐を成功させ、ロストエデンを完全に倒すための条件も達成させた。
ロストエデンを倒した日向のもとに、日影と本堂とシャオランが駆けつけてきた。
「ヒューガ! ロストエデンに蹴り飛ばされてたけど、大丈夫だった!?」
「ああ、シャオラン。なんとか大丈夫。ロストエデンは倒した。しっかり一撃で消し飛ばしたぞ」
「う、うん。見てたよ。あれならきっとロストエデンの本体も倒せたよね」
日向が無事な様子を見て、シャオランは安心した様子。
シャオランの次は日影が声をかける。
「んで、これで本当にロストエデンは完全に倒せたのか?」
「それは……ちょっと今のところ分からないな……。街の緑化は相変わらずだし、何も変化が起きたように見えない」
……と、ここで物陰から人獣型ヴェルデュが現れ、日向たちに襲い掛かってきた。
「ギャギャギャアアアアッ!!」
飛び掛かってくるヴェルデュ。
本堂がヴェルデュを受け止め、背負い投げ。
地面に叩きつけた瞬間、顔面を踏みつぶして絶命させた。
「ヴェルデュも相変わらず健在だな。これは嫌な予感がする。ロストエデンはまだ倒せていないのではないか?」
「ど、どうでしょう。とりあえずエヴァに、この大地に宿っている『星の力』を回収してもらいましょう。ロストエデンを倒せているなら、今度こそエヴァも『星の力』を回収できるはずですから」
「そうだな。どのみち、いまだヴェルデュが湧き続けているこの街中で、北園とエヴァばかりにユピテルを守らせるわけにもいかない。二人と合流しよう」
本堂の言葉に日向たちもうなずき、移動を開始した。
◆ ◆ ◆
一方こちらは、意識を失っているユピテルを守る北園とエヴァ。
ちょうど日向がロストエデンを倒したころ、エヴァも日向たちがいる方角を見つめていた。
「どうやら、日向たちがロストエデンを倒したようです」
「ロストエデンもすごく強くなってたのに、たった四人で倒すなんて……みんな強くなったんだなぁ……」
「ちゃんと、ロストエデンを一撃で消し飛ばすのには成功したのでしょうか。そこまでは分かりませんね」
「とりあえず、このブラジルに宿ってるっていう『星の力』を回収してみたらどうかな、エヴァちゃん?」
「そうですね。ロストエデンが完全に倒されたのなら、今度こそいけるはず……」
さっそくエヴァは地面に手を当てて、『星の力』の回収を試みる。
しかしエヴァは、暗い表情で首を横に振った。
「回収できません……」
「だ、ダメなんだ……。日向くんたち、ロストエデンを一撃で消し飛ばすのには失敗したのかな……?」
「どうでしょう。日向はあれでいて非常に狡猾で強かです。自分で決めた勝利条件は、どんな卑怯な手を使ってでも達成しようとするでしょう。恐らくは成功したと思っていますが……」
「あはは……日向くんを信じてくれているのは分かったけど、日向くんなら文句言う褒め方だと思うなぁ」
「知ってます。わざと言いました」
ユピテルを守りながらも談笑する二人だが、決して気を抜いてはいない。
建物の陰から忍び寄ってきていた人獣型ヴェルデュに、エヴァが反応した。
「そこ。隠れていても無駄ですよ」
「……シャアアアアアッ!!」
声をかけられたヴェルデュは、物陰から飛び出し、彼女に向かって長い舌を槍のように突き出した。
エヴァは身を屈めてこれを回避し、槍状に凝縮した風の塊を生成。それをヴェルデュめがけて投げつける。
エヴァの風の槍を受けたヴェルデュは、頭から尻まで大穴を開けられて息絶えた。
「ここに集まってくるヴェルデュも減ってきましたね。ヴェルデュに指示を出していたであろうロストエデンが倒されたからでしょうか」
「それにしてもエヴァちゃん、よく今の舌を避けられたね。私、速すぎて全然見えなかったよ」
「私も一応、敵の攻撃はある程度予測できますから。日影やシャオランが言う『見切り』と同じものかと」
「すごいなぁ。本当に今さらだけど、私もそういうの習っておけばよかった」
「馬鹿にする意図は無いのですが、良乃がそういう技術を使いこなすイメージは、あまり湧きませんね」
「んー、やっぱり?」
「はい、やっぱりです。……え、これは……!?」
北園と話していたエヴァが、突如としてただならぬ様子で背後を振り返った。
そのエヴァの様子を見て、北園は困惑している。
「え、エヴァちゃん、どうしたの?」
「今、ものすごい近くでヴェルデュらしき気配を感じたのですが……」
エヴァはそう言うが、彼女らの背後にいたのはユピテルだけだ。
ただ、先ほどまで意識を失っていたユピテルが、今は目を覚ましていた。
「クア……」
「あ、ユピテル! よかった、気が付いたんだね!」
「良乃……。ユピテルが『逃げろ』と言っています……」
「え? どうしたのユピテル? いったい何から逃げろって……」
その時だった。
ユピテルの背中から羽毛を突き破り、植物のツタらしきものが触手のように多数生え出てきた。それは痛みを伴うのか、ユピテルは絶叫する。
「クァァァァアァアアッ!?」
「ゆ、ユピテル!? どうしたの!? あの緑の触手みたいなのは……!?」
「良乃、下がってください! これは恐らくヴェルデュ化……!」
「ケェェェンッ!!」
生え出てきたツタが、ユピテルの身体を取り巻いていく。
そしてユピテルは飛び上がり、北園とエヴァめがけて、蹴爪で襲い掛かってきた。