第1501話 堕ちた鳥と緑の巨兵
日向たちの前に叩きつけられたのは、瀕死の重傷を負ったユピテルだった。
「ク……ァ……」
「ユピテル!? 大丈夫か!? 北園さん、急いでユピテルの回復を!」
「り、りょーかい!」
急いでユピテルのもとへ駆けつける北園。
その間に日向たちは角の向こうへ飛び出し、ユピテルを傷つけた犯人の正体を確かめる。
そこに立っていたのは、恐らく五メートルは超すであろう、巨大な植物の人型だった。
手首足首は装甲で覆われているように肥大化し、両肩には白い花弁が三枚組み合わさって肩甲のような構造になっている。
ヴェルデュのような植物の人型。
そして白い花弁の意匠。
恐らくこの緑の巨人は、ロストエデンだ。
三度目の復活を果たし、四度目の進化を遂げた姿だ。
「ロストエデン! お前がユピテルを……!」
怒りの表情を露わにして、声を上げる日向。
その日向の言葉に、ロストエデンは何も答えない。
何も答えない代わりなのか、ロストエデンが攻撃を仕掛けてきた。右の手のひらに緑色のエネルギーを集め、それを光弾にして日向たちめがけて撃ち出してきたのだ。
日向たちの中からエヴァが前に出て、左手で火球を発射。
ロストエデンの緑の光弾とぶつかり合い、共に爆発した。
家一軒くらいなら跡形も残らないであろう大爆発だった。
「今のエネルギーは、純粋な”生命”のエネルギー……。種から芽が出て、地中から子葉を出し、やがて花を咲かせる、生きるための命のエネルギーを攻撃として利用したもの……!」
ロストエデンは、今度は緑の光弾を四発、左右の手で発射してきた。
その射線から逃れたいところであるが、日向たちの後ろには北園とユピテルがいる。撃ち落とさなければ彼女らに流れ弾が行ってしまう。
「射貫け……”シヴァの眼光”!!」
エヴァが詠唱し、杖の先端から細い炎のビームを発射。凶悪なまでの熱エネルギーを凝縮して撃ち出す光線だ。
エヴァが撃ち出した炎の光線は、ロストエデンが飛ばしてきた光弾四発を全て貫き、誘爆させた。そして、その先のロストエデンに向かって飛んでいく。
ロストエデンは左手を出して、エヴァの光線を受け止めた。
そしてそのまま左手を払い、光線をかき消してしまった。
「炎に耐性があるのは知ってましたが、あの熱量でも貫けませんか……!」
また北園たちが巻き込まれる前に、日向たちはその場で散開してロストエデンを取り囲む。
ロストエデンは自分の左へ回り込もうとするエヴァを狙って緑の光弾を発射したが、素早く動く彼女には当たらなかった。
エヴァを狙って背中を見せた隙に、本堂がロストエデンの後ろから飛び掛かった。狙いはロストエデンの首だ。見上げるほど大きくなったロストエデンの首を獲るために、本堂もまた見上げるほどに高く飛ぶ。
しかし、ロストエデンは素早く反応。
振り向きながら裏拳を放ち、本堂を迎撃する。
だが、本堂は逆に、ロストエデンの腕の上に飛び乗っていた。
そのままロストエデンの眉間を狙って”轟雷砲”を発射。
「脳天に風穴を開けてやろう……!」
そして、発射。
本堂の電撃は、ロストエデンの眉間に直撃した。
ロストエデンは軽くのけぞり、電撃を受けた眉間に焼けた跡がついた。
それだけだった。
眉間に焼けた跡はついたが、額の表面を焼いただけで止められた。
ロストエデンは腕を振るい、本堂を振り落とす。
「やはり電撃にも耐性を手に入れたか。化け物め」
ロストエデンが本堂に向かって緑の光弾を発射。
本堂はその場から素早く退避し、光弾を避ける。
そうしている間に、シャオランが展開した”空の気質”がロストエデンを捉える。空の練気法”無間”を使うつもりだ。
「ユピテルのぶんまで、ぶっ飛ばしてやる!」
……が、それよりも早く、ロストエデンがシャオランに向けて右手を突き出す。するとロストエデンの右手首から長いツタが出現し、それが勢いよく伸びてシャオランを捕まえてしまった。
「わぁ!? つ、ツタが……!?」
シャオランを捕まえたロストエデンは、そのまま右腕ごとシャオランを捕まえたツタを振るって、彼を近くのビルの二階の窓へ叩き込んでしまった。
「わぁぁぁ!?」
派手に窓ガラスが破壊される音。
シャオランも”地の練気法”で防御したようだが、すぐには復帰できないだろう。
ビルの中へ投げ込んだシャオランに、ロストエデンが光弾で追撃するために左手を向けた。
そのロストエデンの背後で、日影が”オーバーヒート”を発動。道路の表面をなぞるように飛行し、ロストエデンの左足の後ろから激突した。
「やらせるかッ!」
日影に体勢を崩されて、ロストエデンが大きくのけ反る。
その体勢のまま、ロストエデンが光弾を発射。
放たれた光弾は、目の前の十階建てビルの七階部分に着弾。
大爆発が起こり、ビルの七階から上が崩れ落ちてきた。
落ちてきたビルの七階部分を、ロストエデンが下で踏ん張り、受け止めてみせた。そして受け止めたその七階部分を、北園とユピテルめがけて投げつけた。
北園はちょうど、ユピテルの回復を終える直前だった。
ロストエデンが投げつけてきたビルの残骸が陰となり、北園の周囲を暗くし、ようやく北園は自分が狙われていることに気づいた。
「え……!?」
今から逃げるのは間に合わない。
そもそも、ユピテルを置いていくわけにもいかない。
しかし、彼女の火力で、はたしてあの巨岩のようなビルの残骸を一撃で破壊できるだろうか。
……と北園が考えていると、そこへエヴァが駆けつけてくれた。
「させません……! ”ティアマットの鳴動”!!」
エヴァが”地震”の震動エネルギーを杖の先端に集中させて、その杖でビルの残骸を殴りつけた。すると打撃点から反対側まで一瞬のうちに亀裂が奔り、ビルの残骸はバラバラに砕け散った。
「も、もうダメかと思った……。ありがとうエヴァちゃん……」
「礼には及びません。ところでユピテルの容態は?」
「それが、傷はあらかた治ったけれど、目を覚ましてくれなくて……。し、死んじゃったのかな……!?」
「息はしているようです。安心してください。しかし、困りましたね。これでは引き続き、無防備なユピテルを守りながらロストエデンと戦わなければなりません。それに、多数のヴェルデュがここに集まってくる気配を感じます。猶予はもうほとんどありません」
「日向くんが短期決戦で終わらせてくれるのを祈るしかないね……!」
二人はユピテルを守りながら、戦況を確かめる。
現在、本堂と日影、それから復帰したシャオランが近接戦闘を仕掛けて、ロストエデンを足止めしてくれている。
五メートル超えの巨体となったロストエデンだが、その動きは人間サイズと変わらないくらいに俊敏だ。周囲を飛び回る本堂を、上から打ち下ろすようなブラジリアンキックで撃墜した。
「ぐぅっ!? 油断したか……! 人間の肉体だったら即死だったな……」
派手に叩きつけられた本堂だが、まだ余裕はあるようだ。
すぐに起き上がり、ロストエデンへの攻撃を続行。
そして三人がロストエデンを足止めしてくれている間に、日向が離れたところで”星殺閃光”の発動を狙う。作戦通り、ロストエデンを派手に消し飛ばすために。
「周りの植物がヴェルデュ化して襲い掛かってきたから、ちょっと手間取ってしまったぞ……。日影たちはうまくロストエデンを止めてくれているみたいだな。よし、今のうちにぶっ放す……!」
つぶやきながら、日向は”星殺閃光”の準備段階である”最大火力”の発動用意を行なう。
途中、ロストエデンが日向の行動に気づいたようだが、”最大火力”さえ発動してしまえば、まき散らされる強烈な熱波がロストエデンを近寄らせないだろう。日向はお構いなしに、その場で剣を構える。
ところが。
ロストエデンの両肩、三枚の白い花弁が組み合わさったような肩甲が、隙間を覗かせるように展開。
そして次の瞬間。
展開した肩甲から、ジェット噴射のような勢いで緑の粒子がまき散らされる。
そのジェット噴射の勢いで、ロストエデンが日向に急接近。
あっという間に日向を打撃の射程に捉えてしまった。
まだ日向は”最大火力”を発動できていない。
「あ、やっば……!?」
ロストエデンの、地面を削るような右フック。
日向は直撃を受けてしまい、その先のビルの自動ドアを粉砕しながらエントランスにぶち込まれてしまった。
「ごはっ……!?」