第1500話 ロストエデンの倒し方
飛空艇をジャックたちに任せて、日向たち六人はロストエデンを狙いに行く。
現在、飛空艇には街中のヴェルデュが集まりつつあるようだが、日向たちがロストエデンを狙いに行けば、ロストエデンも自分の身を守るために、戦力となるヴェルデュを自分の方に回さざるを得なくなるはずだ。日向たちがロストエデンを狙うのは、飛空艇発進の援護につながる。
道中、北園が日向に声をかけてきた。
「ねぇ日向くん。さっきジャックくんに『ロストエデンを倒せるかもしれない』って言ってたよね? 何か方法を思いついたの?」
「ん、ああ、そうだった。皆にも話しておかないとな。うん、一つ思いついたんだ」
「それっていったい、どんな方法なの?」
「ずばり、ロストエデンを派手に消し飛ばす!」
その方法を聞いて、皆が静まり返った。
日向の自信満々な態度とは逆に、何の特別性も感じない方法だったからだ。
「……私たち、ロストエデンを細胞も残らないくらい焼いたこともあるのに、それで本当にロストエデンを倒せるの?」
「うん、ごめん、いきなりこんなことを言ってもワケわからないよな。ちゃんと段階踏んで説明するべきだった」
「何かしっかりとした理由があるんだね?」
「もちろん。それは……」
「シャギャアアアッ!!」
日向の隣の建物の壁を破壊して、その向こうからアリのヴェルデュが現れた。車とそう変わらないサイズにまで巨大化し、ギロチンのような凶悪な顎を持った怪虫だ。
不意を突かれてしまった日向。
もうすでにアリのヴェルデュの大顎が日向を挟もうとしている。
しかしそこへ本堂が駆けつけ、日向の頭を右手で押さえ、強制的にしゃがませて回避させてくれた。
顎攻撃を回避されたアリ型ヴェルデュは、今度こそ日向と本堂を挟み殺すべく、再びその大顎を開いて襲い掛かる。
これに対して、逆に本堂は右腕の刃をオーバーハンド気味にアリ型ヴェルデュの顔面に叩きつけ、そのまま渾身の力で振り抜いた。アリ型ヴェルデュは真っ二つにされた。
「話を続けてくれ、日向」
「あっはい。すみません助けてくれて。それじゃあ続けます」
そう言って日向は説明を始める。
日向はずっと、ロストエデンについて引っ掛かっていたことがあった。ロストエデンの外殻についてである。
今まで日向たちは「ロストエデンは緑化現象によって、本体の周囲に森や植物群生地などを発生させて、それを外殻にする『星殺し』である」と思っていた。
しかし、飛空艇で受けたジャックの通信によれば、ロストエデンは緑化現象によって自分で発生させたはずの植物を、わざわざヴェルデュ化しているのだという。
ロストエデンにとってのヴェルデュ化とは、つまるところ、その生物をロストエデンの手駒にするための行動だ。緑化現象で生み出した植物は、ヴェルデュ化するまでもなく、最初からロストエデンの所有物ではないのか。
もしも、元々の日向たちの認識が間違っていたとしたら。
つまり、緑化現象はロストエデンが引き起こしたものではなく、「ロストエデンは自身の周囲を森などに変えて外殻にする」という考えも誤ったものだとしたら。
そうなると、新たに二つの疑問が浮かぶ。
一つは、緑化現象の本当の原因は何なのか。
もう一つは、ロストエデンの本当の外殻とは何なのか。
緑化現象の本当の原因については今のところ分からない。それよりも、日向が着目しているのはもう一方の疑問、ロストエデンの本当の外殻についてだ。
「俺たちがこれまで見てきたものの中で、ロストエデンの本当の外殻にふさわしい存在は何か。それを考えた場合、どう考えても、俺たちが今まで『ロストエデンの本体』だと思ってきた、あの白いヴェルデュしか思いつかない。そう考えると、また別のアプローチで『ロストエデンを完全に倒す方法』を閃いたんです」
日向がそう言うと、本堂がハッとした表情をした。
「……そうか。俺達が戦ってきたあれが『本当の外殻』ならば、ロストエデン本体はまた別に存在することになる……!」
「そういうことです。それが『星殺し』の特性ですから。あのロストエデンが本当の外殻なら、奴の内部に真の本体が……」
……と、ここで人獣型ヴェルデュが乱入してきたが、日影が”陽炎鉄槌”で爆砕した。そして何事もなかったかのように、そのまま日向に尋ねる。
「けどよ、さっき北園も言ってたが、オレたちは一回、ロストエデンを徹底的に焼き尽くしただろ? その時に本体も焼け死んだんじゃねぇのか? そもそも、そんな本体みたいなヤツなんか見つからなかったしな」
「もしかしたらロストエデンの本体っていうのは、ノミみたいに小さいのかもしれない」
「ノミ……あの虫のノミのことか?」
「うん。その小ささを活かして、俺たちがロストエデンの外殻を撃破した時に、自分も巻き込まれる前に外殻から脱出したのかもしれない。俺たちに気づかれないように」
「そんなインチキみてぇな答えがありえるのかねぇ……」
「確かに、正直に言って、まだ確証はない。でも、今まであの白いヴェルデュのロストエデンを正攻法で倒しても、そのたびに復活されただろ? 特別なトリックが仕込まれているのは間違いないと思うんだ」
日影への返答が終わると、今度はシャオランが話しかけてきた。
「それで、最初にヒューガが言ってた『ロストエデンを完全に倒す方法』……あのロストエデンの外殻を派手に吹っ飛ばすっていうのは、結局のところ、どういうこと?」
「俺たちって今まで、ロストエデンの外殻を倒した時、ロストエデン本体に逃げる余裕を与えるような倒し方ばっかりしてきただろ? 最初の白い花の時は、様子を見ながらゆっくり伐採。二回目は、まず俺が真っ二つにして、それから火葬。三回目は、日影の”オーバーヒート”。これはちょっと本当に逃げる余裕あったか微妙だけど、まぁツタにめり込ませるまでタイムラグあったし」
「ホントだ、たしかに! じゃあ今度は、小さなロストエデン本体が脱出しても巻き込んでしまうくらい、ロストエデンの外殻を派手に吹き飛ばしてやっつけようってことなんだね!」
だんだんと皆の表情に「これならいけるかもしれない」という希望の表情が現れ始めた。最初に日向の提案を聞いた時の微妙な表情とは大違いである。
するとここで、エヴァが声を上げた。
「ロストエデン、近いです! その先の角を左に曲がったところにいます!」
「よし、今度はどんな姿になったのか拝んでや――」
その時だった。
エヴァが言った角の向こうで、何かの衝撃音。
そして、角の向こうから、日向たちの進路上に、黄金色の巨大な何かが勢いよく叩きつけられた。道路に激突した際の衝撃で、日向たちの足の裏に振動を感じたほどだった。
「うわっ!? い、いったい何が降ってきたんだ……!?」
日向たちは、落下してきた巨大な黄金色の物体を見てみる。
それは、黄金色に混じって、薄汚れた赤色も混じっていた。出血の跡だ。
そして、この物体を彩る黄金色は、鳥の羽の色だったようだ。
その正体に気づき、日向は絶句してしまった。
「あ……ユピ、テル……?」
「ク……クァァ……」
弱々しい鳴き声による返事。
日向たちの前に落下してきたのは、瀕死の重傷を負ったユピテルだった。