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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第24章 生命の果て、夢の終わり
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第1498話 サンプル解析結果

 ロストエデンのサンプル解析が始まって一時間ほどが経過。

 どうやら、解析が終了したようだ。


 解析結果を聞くために、研究室に集まった日向たち。

 学者たちの表情も、エヴァの表情も、良いものではなかった。


 エヴァがぼやくようにつぶやく。


「内部構造は衝撃と燃焼でめちゃくちゃ。無事な細胞はほとんどなし。これでは調べられるものも調べられません。日影、強く焼きすぎです」


「うっせ。仕方ねぇだろ、北園が危ない状況だったんだぞ」


「これならシャオランが回収してくれたロストエデンの一部のほうがまだ調べ甲斐(がい)があります」


「なんだ、シャオランが千切ってきたヤツは何か分かったのかよ」


「はい。こちらの方はロストエデンから引きはがされて、それなりの時間が経過していますが、まだ生きている状態です。細胞も生きています」


 すると学者たちもコンピューターを操作し、自分たちの解析結果を日向たちに見せてくれた。ちなみに彼らは英語を話せるようだ。


「この細胞と同じものが、我々が調べた全てのヴェルデュたちからも見つかっています。体内はもちろん、外皮にも多く付着していました」


「やっぱりヴェルデュの大本はロストエデンだと見てよさそうですね」


「はい。しかし驚くのはここからでして。このロストエデンとやらの身体に残っている細胞は、これまでの医学や化学の歴史では登場してこなかった未知のものです。しかしながら、どこかで見覚えがあると思って調べたところ、以前に我々が調査したこの街の植物や果実にも、同様の細胞が付着していたのです。それも先日からなどではなく、何か月も前から……」


 そう言って学者は、別のデータを日向に見せる。この国で初めて緑化現象が起きた時、街中に生えた果実を見つけたこの学者が、この果実は食べても大丈夫なものか調べるために成分調査を行なったデータだった。その中に、このロストエデンの細胞と同じ成分が果実の表面に付着してると、確かに記録されている。


「他に食べる物もなかったので『これが毒素だったらそれまで』と思って食し、無害だったので今までスルーしてきましたが……」


「え、ええ? つまりあなたたち……いや、ここにいる俺たち全員が、果実と一緒にロストエデンの細胞を身体に取り入れていたってことですか? ヴェルデュ化の原因ってそれが原因なんじゃ……」


「いえ、しかし、我々はずっとこれらの果実を食してきました。しかしこの通り、ヴェルデュになる様子はなく、ピンピンしています。体内に侵入した細胞は我々の免疫機能にやられて、侵入した側から消滅するのです」


「そうですか……。そもそもヴェルデュ化の原因は、連中に巻き付いているツタの種子だって話でしたもんね……。じゃあ結局、ヴェルデュ化の原因とは? そもそも、このロストエデンの細胞の役割とはいったい?」


「ロストエデンの死体を調べましたが、死体に種子を植え付けるような機構は確認できませんでした。死体の損壊が激しかったので、それに(ともな)って失われたという可能性もありますが……。そして細胞の役割についても、ここにある設備では細胞の機構まで詳しく調べることはできず、残念ながら不明です」


「うーん、なるほど……」


 ここまでの話を聞いて、日向は考えてみる。


 ヴェルデュや果実に付着していたというロストエデンの細胞。これが果たしている役割とはいったい何なのか。


 恐らく、ロストエデンの進化と同時に行なわれるヴェルデュの強化に関係しているのではないか。ロストエデンが復活し、進化する時、ヴェルデュたちに含まれているロストエデンの細胞も共鳴し、彼らを強化するのではないか。


 だが、()()()()()()()()()()は、恐らくそこではない。


 そもそも、ロストエデン本体から遠く離れているこの街のヴェルデュや果実にも、ロストエデンの細胞が付着しているのはなぜか。


 この大地に宿る『星の力』を利用してロストエデンがブラジルを緑化させたのであれば、自生している果実などにもロストエデンの細胞が付着しているのはまだ分かる。ロストエデン自身が生み出したのだから、その証として、細胞の一つくらい含まれていてもいいだろう。


 しかし一方で「ロストエデンはこのブラジルの緑化現象にかかわっていない」という説も出ている。まだ信憑性の低い話だが、もしそれが事実なら、どうしてこの街にもロストエデンの細胞が存在しているのか、いよいよ分からなくなる。


「……エヴァはどうだ? 何か、ロストエデンの細胞から感じたものはあるか?」


 助け舟を求めるように、日向はエヴァにそう尋ねた。

 エヴァは表情を変えず、彼の問いに答える。


「そうですね……。この細胞、命の気配が異様に濃い気がします」


「と、言うと?」


「普通、ひとかけらの細胞から感じ取れる気配などたかが知れています。たとえば、細胞だけで、その細胞の持ち主が誰なのか当てろと言われても、私ですら不可能です。ですが、この細胞からは明確にロストエデンの気配を感じます。まるで、それこそロストエデンそのものであるかのような……」


「なんか変わった細胞だっていうのは分かったけど、何を意味しているのかは全然分からないな……。それじゃあ、ロストエデン復活のメカニズムは? どうやったらロストエデンを完全に倒せるかは分かった?」


 そう質問した日向だが、エヴァも学者たちも気まずい表情をした。


「すみませんが……これらのサンプルだけでは何とも分かりませんでした……」


「我々もです。そもそもこの怪物、いったいどうやって動いていたのかさえも……。各種臓器はおろか、心臓すら見当たらないのですよ」


「うーん……ロストエデンのサンプルを調べても、決定的な情報は入手ならずか。ロストエデンの細胞……何かのヒントになればいいんだけど……」


 日向もまた頭を()きながら、そうつぶやく。

 彼に続くように、シャオランも口を開いた。


「やっぱり、レオネ祭司長がロストエデンの種を()いているっていうのが可能性としては一番高いかな?」


「現状、そうだと思うな。生存者のアメリカ移送が完了次第、飛空艇でレオネ祭司長を追跡しよう」


 ……と、その時だった。

 急にエヴァが、自分の背後へ勢いよく振り向いた。

 何やら深刻な様子を感じる。


「え、エヴァ、どうしたんだ?」


「今、爆発するかのような”生命”の気配が……」


「それって、まさか……」


「ロストエデンがこの街に来た……いえ、来たというより、先ほどまでこの国のどこにも、まったく気配を感じなかったのに、いきなり現れました!」


「なんだって……! エヴァ、レオネ祭司長の気配は!? この街に来て、ロストエデンの種を植えたのか!?」


「いえ……レオネの気配はブラジリアから動いていません! 恐らくロストエデンは、このリオデジャネイロで復活したのです!」


「あいつまさか、どこでも自由に復活できるっていうのか……!?」


 まさかこんな瞬間移動のような方法でロストエデンがこの街に乗り込んでくるとは思っていなかった日向たちは、完全に計算が狂わされてしまった。


 ともかく、こうしてはいられない。ロストエデンがこの街に来たのなら、それに合わせて、この街のヴェルデュも進化する。このままでは生存者たちが危ない。


「とにかく、急いで外に出よう!」


 日向の言葉に皆もうなずき、この研究室を後にした。



 ……日向はまだ知る(よし)もない。

 今回の解析で、ロストエデンの細胞などよりもさらに重要な「ロストエデンを倒すためのヒント」が出ていたことなど。

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